トランプ米大統領は11日、北朝鮮の金正恩労働党委員長から「美しく、温かい手紙を受け取った」と述べたが、平壌から送られた「美しい手紙」の中身はどうだったのだろうか。
いくら外観を大切にするトランプ氏といっても、手紙の封筒の美しさに魅了されたとは考えられないから、やはり金正恩氏が書いた手紙の中身が「優しく、美しい」ものだったはずだ。韓国中央日報(日本語版)が14日付でCNNの消息筋として、「(トランプ大統領の誕生日である6月14日を控えて)祝いのメッセージを送った」とし、「金委員長はトランプ大統領の健勝を祈ると書いた」と紹介した。
それだけだったのだろうか。トランプ大統領は後日、「金委員長から非常に良い親書を受け、私たちは非常によくやっていると考える」と話している。秘密を長くしまっておくことが誰よりも苦手なトランプ氏のことだ。数日後には保守派系メディアにその「美しい手紙」の中身が報道されるだろう。そこで当方が推測する手紙の中身について急いで読者に伝えたいと考えている。
トランプ氏は手紙が届いたことを発表した時、「北朝鮮は長距離弾道ミサイルも核実験も行っていない。金正恩氏は私との約束を守っている」と称賛している。なぜ、そんなことに言及したのか。考えられる推測は、「美しい手紙」が「わが国は今後とも核実験、米本土に着弾する長距離弾道ミサイルを実験、発射しない」と記述されていたからだ。トランプ氏の手紙の話の前後から容易に推測できる。
しかし、それだけで「美しい手紙」と評価できるだろうか。トランプ氏はオバマ前大統領のような表現力はない。だから、トランプ氏の修辞的表現に拘っても仕方がない、と言われればそれまでだが、ここではその忠告を無視して考え続けたい。
それでは「美しい手紙」には必ず、別の話が書かれていたと考えて間違いないだろう。朝鮮半島の非核化問題がその「美しい手紙」には明記されていたはずだ。米朝首脳会談の主要テーマであり、ハノイの第2回首脳会談決裂の直接の原因でもあったからだ。金正恩氏は、「我が国はトランプ氏と同様、朝鮮半島の非核化には大賛成だ。その路線には変更はありません」と述べているはずだ。
トランプ氏は第1回米朝首脳会談では朝鮮半島の非核化と北朝鮮の非核化の相違を余り注意しなかったが、トランプ氏は両者の違いを学んだはずだから、「朝鮮半島の非核化」では決して「美しい手紙」だとは称賛しないだろう。だから、金正恩氏は今回、「北の非核化」という表現を使用したはずだ。
「長距離弾道ミサイルと核実験の停止」、それに「北朝鮮の非核化」の2点はほぼ間違いなく、「美しい手紙」の中に含まれていたはずだ。それだけではないかもしれない。「美しく」と同時に「優しい手紙」というから、金正恩氏は北朝鮮国内に収容されている米国人全ての釈放を申し出ていたかもしれない。トランプ氏は一度、「米国人の釈放」は非常に重要なテーマだと述べている。人道目的だから、「優しい手紙」という表現と一致する。
決定打は別にあったかもしれない。金正恩委員長の異母兄、金正男氏(故金正日総書記と故成蕙琳夫人の間の長男)が2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で2人の女性から猛毒の神経剤「VX」が塗られたハンカチを被され、暗殺されたが、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は10日、「金正男氏が米中央情報局(CIA)の情報提供者だった」と報道して、関係者を驚かせた。
トランプ氏はその直後、「今後は家族関係者を情報提供者としないようにする」と述べている。トランプ氏のこの発言内容は興味深い。米紙の報道が事実とすれば、金正男氏暗殺事件に米国も責任の一端があることになる。どの国でも、自国を裏切るスパイを見つければ、厳罰に処分する。もちろん、北朝鮮も例外ではない。
平壌からの「美しい、温かい手紙」の中身は単にトランプ氏の73歳の誕生日を祝賀するのが目的ではなかった。それは手紙の前口上に過ぎず、目的は北の国家体制を揺るがす言動は許さないという金正恩氏からのメッセージが含まれていたのではないか。
トランプ大統領は平壌からの手紙の前半部分に対して「美しく、温かい手紙」と表現し、後半の金正恩氏の警告に対しては、あえて無視したのではなかったか。なぜならば、金正恩氏から届く手紙(親書)は再選を目指すトランプ氏にとって常に「美しく、優しい」ものでなければならないからだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月16日の記事に一部加筆。