利用シーンに説得力がない総務省の研究開発

2019年06月24日 06:00

行政事業レビュー公開プロセスが進行中である。6月19日は総務省。三つの事業が議論された。

「高度対話エージェント技術の研究開発・実証」は、おもてなしに代表される日本人の対人関係観を反映した「よりそい」型対話を実現可能とする研究開発プロジェクトである。

写真AC

海外大手ICT企業は大規模な対話プラットフォームを構築してデータの蓄積を行い、そのデータを用いて高度な人工知能(AI)を生み出そうと競争している。

スマートスピーカに話しかけると天気がわかり、部屋の明かりが点滅できるが、その間に利用者の話し声や行動はデータとして海外企業に吸い取られ、データ量が増えるほどAIは賢くなり海外企業が強くなる。我が国が対抗するため自然言語処理技術の社会実装を加速させ、貴重な日本語データを我が国の手元で活かすような仕組みを構築したい。これが総務省の考えである。

それでは高度対話エージェント技術で、将来、国民がどのような恩恵を受けるのだろうか。国民生活がどう良くなるのだろうか。次が利用シーンとして提示された。

自動車に乗ると自動車が話しかけてくる。「今日は買い物に参りましょう」「そうだな、でもお金が少し足りないんだ」「では途中でコンビニに寄りましょう」「ああ、よろしく頼む」「この先、右に急カーブなのでお気をつけください。カーブの先の公園で今週末に行きたいとおっしゃっていたイベントがあります……」

これでは、自動車にしか相手にしてもらえない寂しい人。

技術的に困難であった音声認識と音声合成は、技術の進歩と共に実用に供されるようになった。AIを用いることで音声認識の精度はさらに向上し、合成音声も自然に近づいていく。その先に人と機械が対話する時代が来る。技術者は必ずこう考える。この利用シーンは技術者が書いたものだ。

この20年、バックキャスティングという手法が推奨されてきた。バックキャスティングとは、あるべき未来の姿を予測し、それを起点に今何をすべきかを考える方法である。バックキャスティングでは未来における利用シーンが検討の起点になる。

利用シーンを実現するためには、技術開発も必要だが、制度についても検討しなければならない。例えば、高度対話エージェント技術を実用に供するにはどのようなルールで個人情報を利用すればよいのか。そのルールで「自分の個人情報が抜き取られ、勝手に利用される」という今の国民が広く共有する懸念に応えられるのか。関連法規の改正が必要か。バックキャスティングを取り入れれば、技術開発だけでなく制度改革も視野に入ってくる。

利用シーンを定めるには、技術者だけでなく多分野の関係者が関与する必要がある。総務省プロジェクトにはこの手順が欠けていた。「技術者の独善」とでもいうべきにおいが感じられるのはそのためだ。

公開プロセスの結論は、このバックキャスティングも含め、事業内容の一部改善となった。

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