多様性を考えた健康指導体制の確立が重要

2019年07月04日 06:00

おとといの夜は、札幌医科大学で特別セミナーを行った。科学の内容だけでなく、がん研究に臨む姿勢が少しでも伝わったのであればと願っている。そして、夕食後、中村研究室OBの北海道同窓会が開催された。北大・札幌医大出身・在籍中の12人が集まってくれた。今でも、一緒に共同研究をしている人もいて、人の和が大切だとしみじみと感じた。

しかし、彼らが在籍していた当時に、パワハラという言葉が世間に広がっていなくてよかったと思う。医者をしていると、一瞬の気のゆるみ・判断の間違いが患者さんの生死に関わることがある。今のように甘やかしていては必ず不幸が起こると思って気を揉んでいても、時代が時代だから仕方ないのだろう。私のパワハラ指導が、彼らがこれから研究者・医師として生きていく上で、何か大切なことを残せたと信じたい。

技術が進み、知見が深まれば、これまでの常識が覆ることは少なくない。数十年前の常識では、野球選手(投手)は肩を冷やしては駄目だと言われていた。しかし、今は、投球を終えた投手は、すぐにアイシングをしている。炎症を抑えるためだ。

生命科学の分野でも、DNAからmRNAが作られ、そのmRNAから作られるたんぱく質が生命現象をコントロールすることが、セントラルドグマ(絶対的な原理)のように信じられていた。しかし、小さなマイクロRNAやタンパク質を作らないRNAが、さまざまな制御に関わっていることは今や常識だ。

光学顕微鏡から電子顕微鏡に変わって、見えている世界が大きく変わった。画像も今のシステムから人間の目の解像度を超えると言われる8Kに変われば、全く異なる病理像が見えてくるかもしれない。通信速度が5Gになれば、IoTやAI分野も一気に様変わりするだろう。ワクワクしながらも、時代についていけなくなる不安も大きい。基本的な知識の有無で、理解度が大きく異なってくるので、この分野の教育は非常に大切だ。

写真AC:編集部

前に紹介した「Deep Medicine」という本をようやく読み終えつつある。健康維持の観点で考えさせられたのが、血糖上昇の驚くべき多様性だ。摂取する食物の種類で血糖上昇のレベルが異なり、それを前提にした食事指導がなされているが、個人の多様性が非常に大きい中で、今のような画一的な食事指導でいいのかと思う。

多くの炭水化物・果物・お菓子などのデータが出ていたが、全体的に見ると、クッキーやアイスクリームは、私が考えていたよりもはるかに小さい血糖変動しか起こさない。私の好物のおかき類の方が血糖上昇幅が大きく、意外にも最も大きく血糖を上昇させるのがシリアルと示されていたのは驚きだ。しかし、食品の種類間の差よりも、個人間の差の方がはるかに差が大きい。

周りを見ても、信じられないような大食いでもほとんど体重の増えない人がいるし、食が細くても体重が変わらない人もいる。食べ物を消化する効率も、吸収する効率にもかなりの差があるから当然だ。大食いでも体重の増えない人は、食糧危機になれば激やせしてしまいそうだ。

高血圧にしても、画一的に線を引いて、130を超えれば病気にしてしまい、投薬するのが正しいのかどうかはなはだ疑問だ。コレステロールも正常範囲から少しでも高ければ、高コレステロール血症の診断がつく。「Deep Medicine」、「Precision Medicine」、「個別化医療」、「オーダーメイド医療」など、言葉はどうでもいいが、個性に応じた医療、この確立が急務だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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