安倍政権は、選択的夫婦別姓を「推進」している

2019年07月09日 06:01

「旧姓使用の拡大」を進める安倍政権

7月3日、与野党の党首討論会が行われ、その際に朝日新聞の記者が各党首に対して選択的夫婦別姓の是非について挙手を求めた。安倍首相(自民党総裁)を除く全党首が選択的夫婦別姓について賛成の挙手をした。その光景だけみれば安倍首相が実に「浮いている」印象がある。

挙手を求めた朝日新聞の記者の意図は選択的夫婦別姓の是非ではなく安倍首相が「浮いている」印象を際立たせたかったのではないかと勘繰りたくなるほどである。

首相「イエスかノーかは印象操作」 党首討論で挙手せず 手法に疑問 | 毎日新聞 

自民・安倍総裁以外は挙手(朝日新聞YouTubeより引用:編集部)

言うまでもなく選択的夫婦別姓は朝日新聞を始めたとした左派の「宿願」であり、選択的夫婦別姓を強く望む姿勢が今回の質問を招いたと言える。

一方で選択的夫婦別姓と密接に関連することとして安倍政権下では「旧姓使用の拡大」が進められていることはあまり知られていない。

内閣府男女共同参画局のホームページには旧姓使用の実態調査の報告書があるし、ネットを簡単に検索しても旧姓使用の拡大の記事は結構、出てくる。

旧姓の使用範囲が拡大へ 住民票、パスワードなども(日本経済新聞)

国家資格の旧姓使用拡大へ 片山担当相が意向(産経新聞)

住民票と番号カード旧姓併記=11月5日から‐政府(時事通信)

旧姓使用の拡大が推進された理由として2015年にいわゆる女性活躍推進法が制定されたことが挙げられる。要するに安倍政権下で制定された法律が根拠となって旧姓使用の拡大が推進されているのである。選択的夫婦別姓というと民法・戸籍法の改正を伴うものばかりが注目されるが、旧姓使用の拡大もまた選択的夫婦別姓に他ならない。

だから安倍政権は民法・戸籍法の改正を伴わない選択的夫婦別姓を「推進」しているのである。「女性の活躍」に関心のある者ならば安倍政権が旧姓使用の拡大を推進していることはよく知られた話であり、そしてこの安倍政権の姿勢に対して朝日新聞は、やや古い社説で恐縮だが、一応は支持しつつも「小手先対応では住まぬ」と批判している。

(社説)旧姓使用拡大 小手先対応では済まぬ

しかし、どうだろうか。何故、旧姓使用の拡大が「小手先」なのだろうか。繰り返しになるが旧姓使用の拡大も選択的夫婦別姓である。民法・戸籍法の改正を伴うか否かの違いに過ぎない。

何故、朝日新聞は女性の選択肢が増えることを「小手先」と表現するのか。朝日新聞は民法・戸籍法の改正を伴う選択的夫婦別姓にこだわりがあるようだが、選択的夫婦別姓で重要な視点は日常生活での姓の使用法ではないか。

これでは朝日新聞の選択的夫婦別姓支持の理由は「女性の選択肢の拡大」ではなく「家概念の解体」という観念的なものではないかという疑いをもたれるだけだろう。

「旧姓使用の拡大」は強力な援軍? 

安倍政権下で旧姓使用の拡大が推進されている事実は、安倍首相を始めとした「保守」が夫婦同姓の根拠となる「家」概念に強いこだわりがないことを意味している。

「家」概念と親和性が高い「世襲議員」、しかも「最高級」の部類とも言える安倍首相でさえこだわりがないのである。ここに強烈な主義・主張を持たない日本の「保守」の「融通無碍」的性格が確認される。日本特有の融通無碍的保守の理解では「旧姓使用の拡大」と「戸籍上の夫婦同姓」は矛盾なく共存する。

そしてこの安倍政権の姿勢は従来の選択的夫婦別姓議論に影響を与えるに違いない。

というのも日常生活での旧姓使用の拡大が進めば「旧姓使用が出来るならそれでいいじゃないか」とか「事実上の選択的夫婦別姓である」とか「何故、戸籍上の別姓にこだわるのか?」という意見が出てくるからである。もちろん「もう夫婦同姓はあまり意味がない!だから選択制にしよう」という意見も出てくるだろうが、日常生活での利便性が改善されれば人間、案外、それで満足してしまうのではないか。「家」を巡る議論は難解であり、それを避け、一方で実際的利益を確保出来るならそれはそれで結構と思う者の方が多いのではないか。

旧姓使用の拡大を根拠とする反対・慎重派は「家」概念を重視するものとは違い観念的ではなく実際的だから説得力もある。旧姓使用の拡大は従来の反対・慎重派にとって強力な援軍になるかもしれない。

「保守」の勝利?

民法・戸籍法の改正を伴う選択的夫婦別姓の議論は反対・慎重派の「遅れ」「復古性」ばかりが強調されがちだが、これらの立場から旧姓使用の拡大が進められている事実は強調されて良い。

だから選択的夫婦別姓を議論する際は民法・戸籍法の改正を伴うものに限らず旧姓使用の拡大についても触れなくては不公平である。管見の限り選択的夫婦別姓の議論は民法・戸籍法改正を伴うものしかなく旧姓使用の拡大と一緒には議論されていない。

民法・戸籍法改正を目指す支持・推進派に忖度すれば旧姓使用の拡大はまさに「小手先」「邪道」の類であり、同じ土俵で議論したくないのかもしれない。

このまま行けば日常生活での旧姓使用の拡大は着実に進む一方で、民法・戸籍法の改正を伴う選択的夫婦別姓論は観念化し国民的無関心を誘うだけだろう。そしてそれは「保守」の勝利と言っても良い。安倍政権がそこまで計算しているとは思えないが、その方向には進んではいる。

民法・戸籍法改正を目指す支持・推進派に求められることは党首討論の際に朝日新聞が行ったような低次元な印象操作を行うことではない。安倍政権が「旧姓使用の拡大」という民法・戸籍法改正を伴わない選択的夫婦別姓を推進していることを認め、民法・戸籍法改正にとらわれない幅広い観点から夫婦別姓について語ることではないか。

高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員

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