「新たなCAS機能に関する検討分科会」。
総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」の下に置かれたWGで、ぼくが座長を務めました。
このほど一次取りまとめ案を作り、パブコメにかけたところです。
メモします。
新CAS。なんのこと?と思う人が多いでしょう。
テレビを買うとCASカードってのがついてきて、差し込まないと見られないのですがね、昨年12月に始まった「新4K8K衛星放送」では、新しいACAS方式のチップがテレビに埋め込まれていましてね。
それが問題とされたのです。
問題とされたのは、消費者にとってチップのコスト負担が重くなる、故障時の負担が重くなる、という指摘でした。
特にそれまでのCASカードは放送局の負担割合が多かったのに新CASはメーカ=消費者負担が多くなっているという問題意識です。
規制改革会議が新CAS機能について「検討の場を総務省に早期に設置し検討を促す」と宿題を投げ、総務省が場を開いたものです。
でも座長を託されたぼくは当初、問題の所在がわかりませんでした。
CASは視聴管理と権利保護の2機能を持つのですが、放送局とメーカが作る仕組みで、何の規制もないからです。
総務省や経産省の省令や告示など規制下にある仕組みじゃなくて、民民が作る自主基準でテレビに埋め込むシステムでして、だからPCにどんなチップを入れるのかみたいな話で、そこに行政が介入すると、普通に考えれば規制強化、行政権限拡充にしかならないんですよ。
それ、いいの?
携帯通信の料金を4割下げる総務省の政策も規制強化です。その妥当性も議論はあるものの、長年にわたり規制緩和を続けた結果、競争が機能不全となり高止まりして、生活を直撃する社会問題と認識されたため、規制方針を改めたもの。新CASとは規制構造や深刻度が異なります。
行政介入の危険性は2008年のダビング10導入時も感じました。その際もぼくが村井純さんとのコンビで情報通信審議会の議論を担当。メーカ、放送局、著作権権利者の調整問題であり、暗礁に乗り上げたからといって行政が仕切ってよいものか、迷いました。
結果は民間の調整でカタがつきましたが。
この点、今回の議論はみな慎重にコトに当たり、かつ、胸襟を開いて十分な議論が行われたと認識します。課題も整理されました。こうした場が持たれたことは意義深かったと考えます。
結論は、故障時などの消費者負担の低減やCAS機能の費用分担は放送局、メーカ等の関係者間で検討が進展することが期待されること。新たなCAS機能は引き続き関係者による検討を促していくことが望ましいこと。という何やらぼんやりした落ち着きです。
それがこの会議の性格と位置をよく表しています。
問題が提議され、行政が場を用意し、関係者が集まって課題を整理、そして関係者の対応を促したうえで今後の動向を注視する。規制の導入や強化は手控える。
一次とりまとめ案はパブコメにかけられますが、ひとまずここまで、妥当な落とし所に至ったと考えます。
関係者のみなさま、おつかれさまでした。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。