文在寅が最も頼りにする男、金鉉宗氏とはどんな人物か?

2019年07月24日 06:02

金鉉宗と書いてキム・ヒョンジョンと韓国紙に仮名が振ってある。我々日本人は少なくとも二度、印象に残る金鉉宗氏の画像を目にしている。一度目は6月末のG20の開始直前、二度目は19日に河野外相が駐日韓国大使に対し「極めて無礼」と述べたことに対する韓国側ブリーフィングだ。

文在寅大統領と金鉉宗氏(韓国大統領府FB、KBSより:編集部)

G20開始前、日本勢が安倍総理を中心に輪になって立ち話をしている横を、文在寅氏が総理をチラと見ながら通った時に、総理と背中を接するようにアラブ系の要人らと談笑していたのが金氏だ。文氏が横に来ると輪に入るように促しつつ、安倍総理に背中をぶつけて振り返らせ、文氏と握手を演出した。

金氏の19日のブリーフィングをハンギョレは次のように報じた。

「強制徴用問題を解決するための外交的努力が尽くされていない状況で、日本は一方的な輸出規制措置を取り、これは世界貿易機関(WTO)の原則と主要20カ国・地域(G20)大阪首脳会議で(安倍首相が)発言した自由貿易原則、ひいてはグローバル・バリューチェーンも深刻に損ねる措置という点で、むしろ国際法に違反している主体は日本と言える」

「さらに根本的に指摘する点は、当初に強制徴用という反人道的不法行為を通じて国際法に違反したのはまさに日本」

口喧嘩では負けないああ言えばこう言う式の韓国らしい発言だ。G20での行動を見ても場慣れした感じの自然な仕草で、うまく文大統領を誘導していたし、外国語も流暢に操っているように見えた。そこでこの金氏の経歴を韓国紙の過去記事などで探ってみたところ、なるほどと知れた。

金鉉宗は1959年9月ソウル生まれ、コロンビア大学で国際政治学学士(81年)、修士課程(82年)を終えた後、同大学ロースクールで通商法博士学位を取得(85年)した。93年から98年までソウルの弘益大学で国際貿易を教えた後、99年から2003年までWTOの上院機関事務局および法務部の上級弁護士を務めた。

2003年5月に廬武鉉政権で外交通商部に次官として加わって貿易政策の中心的な役割を果たし、2004年からは当時45歳で長官級の通商交渉本部長に昇任した。その後3年間にわたり世界45ヵ国・地域とのFTA協定を陣頭指揮し、2007年6月には米国ともFTAを調印する。

文在寅氏は自伝「運命」に「韓米FTAで金鉉宗通商交渉本部長は欠かせない。本部内で評価が良かった」と書いている。金氏は2007年7月から08年5月まで国連大使を務めたが、その期間は丁度北朝鮮が寧辺原子炉の無効化を開始し、IAEAの査察を再開するとの決定をした時期だった。

国連大使を終えた金氏は2009年にサムスン電子の社長兼最高法務責任者となり、この巨大な多国籍企業の知的財産戦略を指揮、特許や貿易訴訟を監督した。その後、サムスンを辞して韓国外国語大教授を務めていた金氏は2016年12月に世界貿易機関(WTO)上訴機構の委員に就任する。

同職には2012年に韓国人として初めて選ばれた張勝和ソウル大教授が就いていたが、張氏は5月に「自国に不利な判定を出すことなどを懸念した(中央日報)」米国の反対で再任されなかった。2016年12月09日の中央日報はWTO上級委員に内定した金氏のインタビュー記事を載せている。

金鉉宗(キム・ヒョンジョン)韓国外大教授は先月21日、「トランプ政権との交渉を成功させるにはお互い顔を立てなければいけない」と強調した。

韓米自由貿易協定(FTA)妥結の主役、金鉉宗(キム・ヒョンジョン)韓国外大教授(57、元通商交渉本部長)は格別の突破力と自信で世間の耳目を集めてきた「話題の人物」だ。…その金教授が最近、また大きな成果を出した。米国のボイコットで張勝和(チャン・スンファ)ソウル大教授の再任が挫折した世界貿易機関(WTO)上級委員に、激しい競争を勝ち抜いて先月23日に選出されたのだ。

金教授の専攻は通商法だが、関心はそこにとどまらない。父が外交官であり、大学時代に国際政治学を専攻したためか、世界的な懸案に対する識見も備えている。その金教授がこの半年間、トランプ共和党候補が当選する場合の世界について綿密に調査した。金教授の知恵を聞くために先月21日に会い、29日には電話で追加のインタビューをした。

インタビューでの金氏の興味深い発言を二つ紹介する。一つは当時ホワイトハウス上級顧問に内定したスティーブ・バノン氏の評価、他はトランプの対中政策の予測だ。(括弧内は筆者による補足、太字は筆者)

(バノン氏の)職責をよく見てほしい。ただ助言ができるだけで、いかなる決定もできない席であることを知ることになるだろう。トランプ氏は自分と考えが完全に違う人たちを探したはずだ。…彼はホワイトハウス外交安保補佐官でもなく国務長官でもない。

(トランプ氏)が浮上する中国を日本を利用して抑えようとするのは正しいようだ。しかし日本に集団的自衛権を認めて改憲を通じて戦争できる国に変えても、中国の覇権国登場を防ぐ方法はない。ただ為替操作国指定、反ダンピング関税賦課のように一時的に気分をよくする意味のない措置を取ることはできる。

しかしこのような方法ではどうにもならない。特に今後任命されるトランプ内閣の長官らは自身の目的を成し遂げるために中国と協力するしかない。このためトランプ内閣で対中牽制問題をめぐり葛藤が生じるだろうその場合、中国の浮上を防ぐこと自体が不可能になる

実際、過去にもZTEという中国企業が禁輸品目に指定された戦略物資をイランに輸出して制裁にあったが、2週間も続かなかった。米国が中国との不快な関係を避けようとしたからだ。

米国の中国政策に関する金氏の見立ては物の見事に外れたようだ。そしてバノン氏の評価についても、このインタビューの僅か4か月後の2017年03月14日の中央日報に書いたコラムで、恥を知らないのか、豹変する君子なのかは判らないが…臆面もなくこう述べている。

トランプ米大統領の政策を正しく理解するにはスティーブン・バノン首席戦略官の情緒を把握しなければならない。…バノン首席戦略官は国内経済政策に関与するだけでなく国家安全保障会議に参加することになる。習近平中国国家主席の策士である王滬寧氏と同級の権力を持っている

さて、その金氏とWTOとの関わりだが、一度目は99年から2003までWTOの上院機関事務局と法務部上級弁護士を務め、2度目が上述の上級委員だが、4年間任期があったのに僅か8ヵ月間で辞任した。17年8月に米国とのFTA改定交渉を担当するための産業通商資源部通商交渉本部長に抜擢されたからだ。

が、中央日報に2018年02月21日同年05月31日には次のように書かれた。

金鉉宗通商交渉本部長が就任して仕事を始めたのは政権発足から3ヵ月後だった。政府の安易な態度と対応戦略の不在に対する問題提起も見られる。通商惨事が発生するたびに政府が出す対応策は説得と世界貿易機関(WTO)提訴がすべてだ。しかし効果がなかったことが次々と表れている

金鉉宗通商交渉本部長は(交代)リストに入っていないが、それでも成績が良いとはいえない。通商は戦争だ。金鉉宗本部長が今後もこの程度の実力しか見せられなければ、政権にも大きな負担となる恐れがある。なぜか。…トランプ大統領の保護貿易と中国の習近平主席の報復貿易に最も大きな被害を受けたのが韓国だ。韓国の通商はこれに対応できなかった。

続けてその理由も書かれている。

トランプ大統領の保護貿易と中国の習近平主席の報復貿易に最も大きな被害を受けたのが韓国だ。韓国の通商はこれに対応できなかった。韓国のTHAAD配備に対する中国の報復にはWTO提訴もできず、米国がWTO規定に反して進めた鉄鋼クウォーターを最初に受け入れた。

さて、赫赫たる経歴の金鉉宗氏、今回の日本による優遇措置除外についてもWTO提訴を言い出している。よもや日本が負けるとは思わないが震災被災地水産物でのこともある。油断は禁物だ。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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