ネトウヨ批判を存在証明とする「知識人」たち

2019年08月18日 11:31

日韓関係の緊張に伴って日本では韓国に厳しい世論が形成されている。だが、気になるのは、それにともなって顕著になっている「ネトウヨ批判」を存在証明とする「知識人」たちの活動だ。

「ネトウヨ」という言葉が非常に流通している。そこに侮蔑的な意味が含まれていることも、いわゆる「知識人」の間では自明の前提である。そこで発展した紋切り型ビジネスは、「お前はネトウヨだ!(したがって私のほうが正しい)」というレッテル貼りである。

現在、日本の大学人の多くが「ネトウヨ批判」でビジネスをしている。つまり「お前はネトウヨだ!(したがって私の方が正しい)」という紋切り型に、あらゆる問題をも持ち込んでいくというビジネスである。

もう一方では「パヨク」嘲笑のビジネスもある。ただ左翼批判の基本パターンは、在野の言論人が、大手新聞社や戦後民主主義系の学者を揶揄する、というものである。これに対して「ネトウヨ批判」ビジネスは、在野の「ネトウヨ(とされている人々)」に対して大学人などが批判を加えていくのが基本構図であるため、性格が異なる。

日本の言論界の閉塞は、在野民間ウヨクによる大手新聞・戦後民主主義批判⇒左翼知識人による「ネトウヨ」批判⇒在野民間ウヨクによる大手新聞・戦後民主主義批判、と循環論法で閉じられた円環で完結してしまっていることである。

最近の日韓関係の緊張化は、この傾向に拍車をかけたようにみえる。確かに民間で韓国を感情的なレベルで嫌悪している層もいるのだろう。だが本来であれば、大学人などが執拗に「ネトウヨ」の言説を追いかけ、「ネトウヨはダメだ」という結論の文章を何度も繰り返し大量生産していく必要はない。だが今やYahooコメント欄の「ネトウヨ」を批判するのが、大学で給料をもらっている知識人の務めである、といったおかしな風潮が蔓延している。

危険である。このままでは「ネトウヨ」が死滅する前に、「ネトウヨ批判を知識人であることの存在証明にしている知識人」のほうが死滅してしまいかねない。

Yahoo!ニュース個人 古谷有希子氏記事より:編集部

Yahooで「ネトウヨ批判」の記事を見た。

日韓関係の悪化は長期的には日本の敗北で終わる(古谷有希子) – Y!ニュース 

日韓関係の悪化は、「ネトウヨ」が蔓延しすぎていることが原因であるという紋切り型の論旨の文章である。いただけないのは、勢いに乗って「政権交代があったのだから日韓請求権協定を守らなくなっても仕方がない、日本も日米修好通商条約をもはや守っていないではないか」といった論旨の文章を書いてしまっていることである。

これは論理が成立していない。ネトウヨ批判に熱心なあまり、知識階層として最低限のファクトチェックを怠る罠に陥ってしまっている典型例だ。

国家継承をすれば、条約義務も継承する。条約義務を継承したくないなら、国家継承をしなければよい。

日米修好通商条約が今日無効なのは、単に政権交代があったからだったり、時間がたったからだったりしたからではない。明治政府が、江戸幕府時代に締結された不平等条約を、血のにじむ努力で改正する努力を払ったからだ。

2012年にオランダの裁判所で、日蘭修好通商条約の有効性が確認されたのをご存知だろうか。

参照:オランダでは日本人が労働ビザなしで働ける 理由は明治時代、不平等条約撤廃後の日蘭条約が生きていたから

明示的な廃棄や改変がなければ、国家継承が行われている限り、政権交代があっても、条約は有効である。

したがって韓国が民主化が進んで政権交代が起こったという理由で日韓請求権協定の有効性を否定しないのであれば、条約破棄または相手方と条約改正の交渉をするのが、正しい。国内裁判所を使って、国内法体系の側から条約内容の事実上の改変を行おうとするのは、邪道である。国際法の側から見れば、そのような邪道を許せば、法体系が維持できなくなる、という深刻な問題である。諸国の努力で、条約順守義務を履行しなければならない。そうでなければ、国際法体系の崩壊という、全ての諸国が被害を被る深刻な事態が訪れる。

「ネトウヨ」とされる人々がYahooコメント欄で間違えたことを言うのは、まだ罪が軽い。しかし「知識人」層として、署名入りの記事を書くのであれば、高い次元で責任を負う覚悟をするべきだ。

私自身も最近、インターネット媒体を使った発信を細々と始めている。外交時事問題や憲法問題など、一般の人にも知ってもらいたい問題を論じる際に、インターネット媒体を用いることに意味があると思って使っているだけだ。ただし扱う対象は学者や政治家だ。「ネトウヨ」又は「パヨク」批判をもって自分が「知識人」であることの証明にしようと思ったことはない。

私は最近、憲法学者の憲法論のおかしさを指摘する著作を出している。学者同士の論戦だが、社会的意味を考えて、一般書として書籍を出したりしている。ところが、今まで真面目な学者からの批判をいただいたことがない。その代わりに何を言われるか。

「憲法学者を批判するとネトウヨだとか言われて損しちゃうよ」

「憲法学者を批判すると保守派を利するのでやめてほしい」

「憲法学者を批判してもダメだよ、憲法学者はマスコミを押さえているからね」

これらは実際に私に親切に忠告してくれた学者連中の実際の発言である。

今や現代日本では、「お前はネトウヨだ!、と批判している私はネトウヨではない、したがって私は正しい言説を述べている『知識人』なのである」、という奇妙な三段論法を大量生産している「知識人」が蔓延し始めている。

今や大学から給料をもらって生きているいゆわる「知識人層」が、「ネトウヨ批判に忙しいんだ、学者同士の議論なんかしている暇はない」、といった雰囲気に完全に飲み込まれてしまっている。

日本の言論界の危機である。

日韓関係は、「問題が起きているのはネトウヨのせいである、ネトウヨを皆で批判すれば問題は解決する」、などと言えるほど、単純な問題ではない。しっかりと日韓関係の分析を施さないといけない。ところが「知識人層」が、「ネトウヨはダメだ、ところで私はネトウヨを批判しているので知識人であり、つまり私が言っていることは正しい」、といった底の浅い自己正当化ばかりを繰り返している。

「知識人」であるかどうかは、「ネトウヨ批判をしているかどうか」で決めるべきではなく、しっかりとした議論を提供しているか否かで決めるべきものだ。

このままでは底の浅い「知識人のネトウヨ批判を存在証明とした自己正当化」の帰結として、ネトウヨが死滅する前に、「知識人」が死滅してしまう。

「私は知識人である、なぜなら私はネトウヨ批判をしているからである」といった陳腐な自己正当化に身を委ねるのは、言論人としての自殺行為である。

篠田 英朗(しのだ  ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、ロンドン大学で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現職。著書に『ほんとうの憲法』(ちくま新書)『集団的自衛権の思想史』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)など。篠田英朗の研究室

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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