“二つの祖国”状態のロッテ、日韓関係悪化で重大な岐路に

2019年08月27日 06:01

日韓関係悪化で「そういえば」と気になったのが、ロッテの経営に与える影響だ。4年前、ロッテ創業家の経営権を巡るお家騒動が勃発した当時、コメンテイターとして地上波テレビに初出演するなど、この問題を定期的にウォッチしてきた者としては、ロッテグループは、今後ますますその「出自」が特に韓国国内で問われかねないと感じている。

東京・西新宿のロッテ本社

同社の歴史を簡単に振り返ると、ロッテは1948年、朝鮮半島出身の重光武雄氏(韓国名:辛格浩)が創業。進駐軍が日本に持ち込んだチューインガムが人気だったのに目をつけたのが始まりだった。順調に成長して、プロ野球界にも進出するなど、ロッテは日本を代表する菓子メーカーになった。

一方、韓国進出は国交正常化2年後の1967年。日本では食品がメインだったが、現地ではホテルや重化学工業など多角化を進め、韓国国内では第5位の財閥グループへと躍進。6兆円規模の売上高の9割以上を韓国で稼ぎ出すまでになった。1990年代後半から、重光氏は、長男の宏之氏(同:辛東主)に日本ロッテを、次男の昭夫氏(同:辛東彬)に韓国ロッテの経営をそれぞれ任せてきたが、4年前に後継を巡って「お家騒動」が勃発したのは、周知のとおりだ。

現トップの重光昭夫氏(韓国ロッテサイトより)

グループを追われた宏之氏は、この間、臨時、定時を含め何度か株主総会で経営復帰を目指したが、実現していない。一方、昭夫氏も朴槿恵政権への贈賄事件で、韓国の検察当局に起訴され、一審では実刑判決。二審は執行猶予が付いて現在は大法院(最高裁)の判決を待つ身だが、プロ野球千葉ロッテのオーナー代行を辞職するなど、活動に制限がかかっている。

そして今後焦点になりそうなのが、経営体制の問題だ。お家騒動当時にも注目されたが、ロッテは規模が小さく非上場の日本側が、巨大企業で上場もしている韓国側を支配する構造だった。持ち株会社制(HD)に移行した現在も、本社が日本にあることに変わりはなく、国籍は「日本企業」だ。

ただ、ロッテは、コリアン企業として特殊な立場をうまく使いこなしてきた。60年代の韓国進出に際しても、当時の朴正煕政権の「外資」誘致に優遇策を利用しつつ、韓国国内的には、日本で成功した同胞の企業として親しまれた。ユニクロ、キヤノン、アサヒビールといった日本企業の韓国進出の橋渡しもつとめるなど、まさに日韓経済外交の旗手とも言えた。

そして現在、お家騒動がヤマ場を乗り切り、経営トップの昭夫氏の実刑回避に楽観的なムードも漂い始めた矢先、文在寅政権の反日政策と徴用工問題で日韓関係が戦後最悪な状態まで悪化した。特に日本が輸出管理制度の優遇対象(ホワイト国)から韓国を外したことで、韓国国内の世論が硬化。日本へのバッシングも凄まじくなり、ロッテは「日本企業なのか?韓国企業なのか?」と突き上げられる状態になった。

実際、韓国ロッテの「損害」も目に見えるようになっている。レコードチャイナ聯合ニュースなどの現地メディアによれば、7月には日本製品のボイコット運動が激化したのに伴い、韓国ロッテグループの関連会社の株価は軒並み下落傾向だ。「日本で創業したため、韓国では日本との関連が深いとの認識が根強い」(聯合ニュース)ことをあらためて示すとともに、日韓関係の先行きを憂えた投資家が、ロッテの経営に与える影響を悲観する材料になった。

韓国ロッテは、2年前にも、韓国国内のゴルフ場に当時の朴槿恵政権で進めたTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に協力したことで、中国各地の消防署などにより、設備の些末な不備を理由に9割以上の店舗が長期間の営業停止に追い込まれる「報復」を受けた。

これにより中国事業の撤退に追い込まれ、グループ累計で2兆ウォン規模の損害を出したばかり。そして今度は日韓のカントリーリスクに直面したことになる。

pitz1106/flickr:編集部

打開策はあるのか。株式市場に詳しい知人の意見を聞いてみると、まだ韓国で上場していない中核事業のホテルロッテの上場を進め、資金調達を急ぐというのはあるようだ。ただ、ロッテの韓国進出の経緯を振り返ると、日本から資金を投下し、数十年をかけて韓国での事業を大きく育てた割に、日本側に還元されてきたとは言い難い。

日韓関係の戦後最悪の状態という非常事態を機に、日本のロッテ側が回収するというのも一つの方策かもしれない。ホテルロッテの株主は、ロッテホールディングスを始めとして日本企業だと報じられている。

その知人によれば、日本側の株主がホテルロッテ上場に伴って売出しをすれば、これまで投下してきた資本に、韓国国内で拡大再投資されてきた莫大な利益を上乗せして回収することができる。国単位で見れば、日本は韓国から数兆ウォン(日本円で数千億円)規模で一気に投資回収することができる。

もちろん、困難な経営判断にはなるが、どの道を選んだところで、日韓関係が悪化する限り、ロッテを待ち受ける運命が過酷であることに変わりはない。

そういえば今年3月、故・山崎豊子さんが戦時中の日系アメリカ二世の生き様を描いた「二つの祖国」がテレビ東京で35年ぶりにテレビドラマ化されたのを見た。主人公たちは、日米の開戦直後に強制収容所に連行され、「自分はアメリカ人なのか?それとも日本人なのか?」という問いを突きつけられる。

それでも彼らは日本とアメリカの戦争により翻弄されながら、己の信じた道を個々に突き進んだが、企業の場合はどうか。ロッテが“二つの祖国”の間で揺れ動くノンフィクションドラマは、まだまだ続きそうだ。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」

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