香港警察がとうとう拳銃を使った。世界中のマスコミは26日朝、前日に香港警察がデモ隊に対して拳銃を使用したことを挙って報じた。筆者が見たテレビニュースでは、一人の警官が拳銃を空に向けて実弾を威嚇発射し、他の数名もデモ隊に銃口を向けて威圧する様子が映し出されていた。
(動画はBBCニュースのYouTubeより=編集部)
香港人の抵抗を“無駄”と言わんばかりの富坂論評
香港デモの一部が先鋭化していることに、いつも中国側に立つように筆者には見える富坂聰氏は、21日のZAKZAKで、「香港のデモは、いったいどこに向かって行こうとしているのか」、最近ではデモ隊の「無秩序ぶりが目立ってきている。…日本の読者の多くも何となく“?”となってしまったのではないだろうか」と疑問を投げかけた。
富坂氏は、香港の人々が「香港の繁栄を支えてきた金融センターとしての地位や大陸ビジネスの入り口としての役割が…大陸に移り低下してゆく未来に」不安を抱いているとしつつ、デモの暴力化によって「経済を人質にすれば、香港の地盤沈下は加速される」と続ける。
その理由について富坂氏は、「中国はデモの背後にいるアメリカしか見えていない様子だ。SNSでデモ隊に指示を送っていたと疑われる外国人のスマホ画面の写真や外交関係者がデモのリーダーと面会している画像をリークしたり、全米民主主義基金からデモ隊への資金提供の事実を指摘するなど、もはや対デモではなく対アメリカ一色だ。こうなると犠牲になるのは香港」だからだそうだ。
そして「飲み水も電気も自前で調達できない香港には、大陸に対抗するにしても限界がある。デモを安易に応援したところで、香港の独立を資金的にも応援できる国--頭の体操だが--などない」とする。しかし、この方は「香港人は無駄な抵抗をやめて中国共産党に支配されよ」とでも言いたいのだろうか。
「自制の効いた攻撃性」世界はデモ支持の流れ
富坂氏の見立てとは裏腹に、香港の一般市民のみならず世界の自由主義社会の流れは香港デモ支持だ。たとえ多少の暴力があってもやむを得ないとの見方に傾いている。23日のロイターが掲載した「終わらない香港デモ最前線、“秩序ある暴力”が支持広げる」との見出し記事が一例だ。
香港空港で警官隊と衝突した夜間の抗議デモに参加していた「中流層の平和的な学生」の、「暴力で暴力に対抗できないのは分かっている。でも時には、政府などの関心を引くために攻撃性が必要だ」、「警察に警棒で殴られもした。みなこの状況に少しずつ慣れてきている。そうしないとやっていけない」との話を載せている。
また記事は「自制の効いた攻撃性」との小見出しで、「一定の礼儀や安全性が尊重されているおかげで、一部の過激化したデモ参加者が平和的なデモ参加者から支持され続けている」とし、「政府が耳を貸さない場合、デモ参加者による暴力行使は理解できる」との考えに「賛成する」と答えた人が、「当初の69%から90%に増加した」ことを報じている。
総人口740万人の香港で150万~200万人といえば人口の2~3割を占める。日本に例えれば2500万~3500万人という途方もない数の人々が抗議デモに参加している状況だ。「デモを安易に応援したところで、香港の独立を資金的にも応援できる国…などない」などと高枕で居て良いはずがない。
反デモの印象操作、中国のSNS暗躍と米ネット企業の措置
ロイターは翌24日にも「中国がSNS総動員、香港デモ批判を世界に拡散」との見出し記事で「中国の視点から見た香港の状況を、海外に広く知らしめようという共産党政府の積極的な宣伝工作の一環で、国有メディアと中国の有名人、当局からお墨付きをもらった国内のネットユーザーが一体となって進めている」ことを報じた。
中国の国内では、少し前までは香港デモの報道や映像が流れることはなかったが、今ではむしろ連日ニュースの主役になり、微博でも多く閲覧されるなど状況が一変、そこでは中国市民に対し「香港に抗議しよう」と呼び掛けが行われているとのことだ。中国の反撃が始まっているということだろう。
他方、富坂氏は7月31日の同紙に、白シャツの一団がデモ隊を襲撃した件に関し「この事件に対して早速日本の一部では、“裏で中国が手を引いている”という解説が出回り始めていることには驚かされる。いったいどんな動機から、中国がわざわざ自分たちが不利になるような仕掛けをしなければならないのか」と書く。
だが、「Triad(三合会:中国の秘密結社)」とされる白シャツ団が広東省の警察とずぶずぶなことや、今回閉鎖された多数のSNSアカウントが中国当局と繋がっていることの度合いが、米国がデモ隊の裏で糸を引いている度合いよりも格段に大きい、と感じている者の方が筆者も含めて多いことだろう。
一方で、オーストラリア戦略政策研究所で中国のソーシャルメディアを研究するファーガス・ライアン氏は、極めて愛国的な人々のみが自由な書き込みを許されており、コンテンツは検閲されないと指摘し、彼らは(デモ批判)キャンペーンを実行し、オンラインを組織化できる。それが中国のネット規制システムの中で起こり、より幅広いネット世界に拡散していると述べている(ロイター同記事)。
だが、中国のこうしたプロパガンダの一部がようやく封じられ始めた。BBC日本語版は23日、YouTubeの210チャンネルが香港デモの印象操作の廉で閉鎖されたことを報じ、これに関する米グーグルの22日の以下の声明を掲載した。
今週初めに、わが社が継続してきた、組織的影響操作に対抗する取り組みの一環として、香港で続く抗議行動の関連動画をアップロードする組織的な動きが認められた、ユーチューブ上の210チャンネルを閉鎖した。
グーグルは中国政府との繋がりには言及していない。だが、19日に900以上のアカウント削除を公表したツイッターの幹部は、中国当局と連携し情報操作に関わっているとみられるアカウントに関し、米連邦捜査局(FBI)に情報提供したとし、外国政府が支援する報道機関の広告掲載を禁止する方針だとも述べた。
フェイスブックも同じ日に中国当局の世論操作に関与したとして、7つのページ、5つのアカウント、3つのユーザーグループを排除したことを発表した(23日、大紀元)。
いまの香港で「一帯一路サミット」開催なんて許すな!
さて、9月11~12日には香港で「一帯一路サミット」が開かれる。香港日本人商工会議所のサイトには「昨年に引き続き、一帯一路サミット“BELT and ROAD SUMMIT”のお知らせです」とあり、次のように同サミットが紹介されている。
一帯一路経済圏が有する途方もなく大きな将来性を探ります。また、「スーパーコネクター」としての香港ならではの役割についても詳細に考察し、企業経営者の皆様にとって「一帯一路」構想がもたらす多大な可能性を提供するための絶好の機会を提供します。「一帯一路サミット」に参加することで…一帯一路経済圏における各国の政府関係者ならびに企業経営者との意見交換ならびに深い見識を得ることが可能になります。
トランプがツイートで警告しようと、この看板政策をPRする絶好の機会を前に中国政府が思い切った行動に出る可能性を否定できない。しかし、そんなことを許してはならない。この際、香港日本人商工会議所は不参加を決断せよ。香港人は命懸けで戦っている。自由と法の支配があってこその経済活動だろう。
最後に「香港のデモは、いったいどこに向かって行こうとしているのか」判らない方のために、改めて「香港市民の5つの要求」を掲げて本稿を結ぶ。
- (逃亡犯条例)改正案の完全撤回
- 警察と政府の、市民活動を「暴動」とする見解の撤回
- デモ参加者の逮捕、起訴の中止
- 警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施
- 林鄭月娥の辞任と民主的選挙の実現
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。