欧州の極右は「三島由紀夫」ファン

長谷川 良

欧州のイスラム化ストップを要求する「イデンティテーレ運動」( Styria Digital One GmbH提供)

オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)のリーダー、マーテイン・セルナー氏(Martin Sellner、30)は、ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで3月15日、2カ所のイスラム寺院を襲撃し、50人を殺害したブレントン・タラント容疑者(28)から寄付金を受け取っていたことが判明し、物議をかもしたことはこのコラム欄でも紹介した。

セルナー氏自身は後日、タラント容疑者とは個人的に会ったことはないが、寄付金(1500ユーロ)を受けとった事実は認めている。オーストリア当局は国内の極右グループとNZ銃乱射事件容疑者との関係に注目し、捜査に乗り出し、3月25日にはセルナー氏のウィーンの住居などを家宅捜査している。

これまでの捜査で分かった事実は、セルナー氏がタラント容疑者とメール交換していたことだ。それだけではない。セルナー氏は三島由紀夫が大好きで、「僕は三島ファンです」とツイッターで述べていたことが明らかになった。

IBOは2012年に設立、本部はオーストリア南部で同国第2の都市グラーツ、会員数は約300人と推定されている。反イスラム、難民、外国人排斥の主要な扇動グループで、活動キャッチフレーズは「欧州のイスラム化の阻止」だ。ちなみに、自由党のシュトラーヒェ前党首やキックル前内相は過去、セルナー氏と会合していたことが判明している。

タラント容疑者はマニフェストで「The Great Replacement」と呼び、移民の殺到で固有の国民、民族が追放される危険を警告しているが、IBOも同じように移民の殺到に警告を発し、それに対抗するように呼び掛けたビデオが見つかっている。セルナー氏のIBOとタラント容疑者には共通点があるわけだ。

オーストリア国家公共安全局のフランツ・ラング事務局長と「憲法擁護・テロ対策局」(BVT)のペーター・グリドリング局長は今月14日、ウィーンの内務省で「2018年憲法擁護報告書」を発表したが、そこでIBOについて「危険な極右団体」とみなしていることを明らかにしている。

市ヶ谷駐屯地に突入後、演説する三島(Wikipedia:編集部)

ところで、セルナー氏は「三島由紀夫」の大ファンで自身のオンラインショップ「Phalanx-Europa」で三島が刀をもってポーズしている写真がコピーされたTシャツ、ポスターなどを売っている。

同氏は「ナチスヒトラーの国家社会主義にはもはや希望がない」と断言する一方、「民主主義で失ってしまった“大義の為に生きる”という三島の精神には心が動かされる」と証言している。セルナー氏はそれを「新しい右翼」と呼んでいる。

三島由紀夫は1970年11月25日、民兵組織「楯の会」を引き連れて自衛隊市ヶ谷駐屯地に侵入し、東部方面総監を監禁し、バルコニーから戦後失われた日本の精神を回復し、国家刷新のために立ち上がろうと呼び掛けたが、それに応じる者がいないと分かると、切腹自殺した著名な作家だ。三島事件は日本社会ばかりか、世界にも大きな衝撃を投じた。セルナー氏は日本の三島に「新しい右翼」の生き方を見ているのだろうか。

さて、オーストリアでは9月29日、国民議会の早期総選挙が実施されるが、第一党の国民党党首クルツ前首相は、「わが党が極右党自由党と連立政権を再度発足するためには2つの条件がある。第1は自由党の思想的リーダー、キックル氏を新政権に入閣させないこと、第2は『イデンティテーレ―運動』を解体することだ」と語っている。

キックル氏は第一次クルツ連立政権下では内相を務めたが、国家の情報が集まる内務省に極右政党のキックル氏が就任することに警戒する声が強かった。それ故にキックル氏抜きならば国民党と自由党の第二次連立政権は可能だというわけだ。

そして自由党とIBOとの完全な分離を要求し、新政権ではIBOの解体を実施するというものだ。ただし、同国の法律専門家は、「一度結成された団体の解体要求はその団体が不法な活動をしていたことが実証されない限り、難しい」とみている。

セルナー氏の言動には危険性が排除できない。大義のために命も捧げる、という三島の精神は安易に誤解され、悪用される危険性があるからだ。タラント容疑者は自身の一方的な思想から多くのイスラム教徒を射殺した。彼は事件後も犯行を後悔していない。

看過できない点は、タラント容疑者とセルナー氏の間には思想的に類似点があることだ。そのセルナー氏が三島の大ファンであり、三島の生き方に欧州の右翼の未来を夢見ているというのだ。タラント容疑者、セルナー氏、そして三島由紀夫の3点は歴史、文化、民族の違いもあって直線には結びつかないが、どこかで絡みつく点が出てくるかもしれない。

「三島ゆえに日本が大好き」というセルナー氏の言動に日本人として注意を払わざるを得ない。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月30日の記事に一部加筆。