セブンイレブンに見るカリスマの抜け殻企業の苦悩

岡本 裕明

最近、セブンイレブンの動向に興味を持っています。コンビニという業態がどうなるか、ということではなく、王者セブンイレブンの歯車がなぜ、狂い始めたのか、その社内に何が起きているのか気になって仕方がないのです。7月の既存店売り上げは2カ月連続のマイナスで明らかに元気がなくなってきています。どうしてしまったのでしょうか?

日経ビジネスの鈴木氏取材録「孤高」のAmazon書影:編集部

セブンを実質的に立ち上げた鈴木敏文氏というカリスマについて今になってあまり評価しない声が表立ってきた気がします。実際には鈴木氏がまだ君臨している頃、日経ビジネスがセブンの経営について特集を組み、強烈な印象を残し、多くの方に衝撃を与えたかもしれません。それは鈴木氏を頂点とするイエスマン体制であります。

発売間近だった商品も鈴木氏の一言で販売中止になったことなどその剛腕ぶりに当時こそ、「それゆえの王者セブンイレブン」という見方もあったのですが、今までは我慢していたのに好きなことをいう人が増えているのでしょうか。

カリスマ性をもつ企業に於いてカリスマトップが抜けたらどうなるか、私の経験からずばり申し上げると大方、腑抜けになります。つまり、企業としての組織が壊死します。なぜか、といえば前述のようにイエスマンばかりが育ってしまい、トップ以外は思考回路が止まるか、判断を一切しないお膳立て役者ばかりになりやすく、カリスマが去った後は派閥などで社内が乱れる傾向があるからでしょう。

これについては慎重な考察が必要です。カリスマ経営者は他者の意見を聞かない上に剛腕で物事を進めていく傾向があります。その驀進する過程の中で反発分子は振り落とされ、最終的にはカリスマトップの周りにはイエスマンが残ることになります。これをもっとも端的に分かりやすくしたのがトランプ大統領でした。就任後、初めの1年ぐらいキーマンが次々変ったのはまさにこの「振り落とし」の過程にあったと言えます。

とすればカリスマ経営者に必要なのはカリスマに直言し、扱いにくくても優秀な人材は手が届くところに置いておくと同時に考える社員を登用し、社員のやる気や能力を引き出すことでしょうか?しかし、それはカリスマ経営者と相反する部分でもあり、全く論理的ではありません。つまり「カリスマなきあと」がいかに難しいコントロールを求められるかお分かりいただけると思います。

カリスマ亡き後の残されたイエスマンに突然考えろというのは実は大変酷なことなのです。なぜならばイエスマンは事実をそのまま詳細に、そしてその先のオプションを複数並べることには長けていますが、全くあり得ない発想を展開することはまずもって経験したこともやったこともないし、そんなリスクは逆立ちしても取れないと考えています。

これがカリスマなき企業がレッドオーシャンの中で溺れやすい一つの理由であります。

セブンの加盟店の一つが日曜休日をさせろ、と要求したというニュースがありました。私は経営陣がどういう判断を下すのだろう、と興味津々でしたが直近の報道では「日曜日休んだ瞬間、契約解除」をすると通告したようです。これは正解です。なぜなら仮に例外規定を作るとセブンイレブンのファンクションが崩壊するからであります。(休業日があるということは賞味期限が切れて落とさなくてはいけない商品が大量に出やすくなる損失リスクもでてきます。)

ただ、人材を見つけ出すのがいよいよ困難になりつつあるということを更に露呈させたわけで、このオーナーさんは「年中無休の限界」を提示したのです。セブンのオーナーの年齢は50代以上がちょうど2/3を占めています。この歳になり、人が見つからず夜勤をカバーするオーナーさんは気の毒以外の何物でもありません。本部は人出しをするから、というのですが当然、それはコストがかかるわけでオーナーさんにとって「それは助かる」とは言えないでしょう。

本来であればここで発想の大ジャンプが必要だと思うのです。カリスマならばそれができるのかもしれません。夜間は自動レジかセルフレジ化し、nanacoやデビットカード、クレジットのみの支払い、あとは万引きできないアッという仕組みを作ることが思いつきますが、そんなことを提言すれば多分、ダメ出しの山でしょう。これが大企業病の典型で、やったことないことへの評価が全くできず、やらないことを評価する体制になるとも言えそうです。

ところで就職情報サイト「リクナビ」のリクルートキャリアが内定辞退率予測を販売していたことに批判が集まっています。これも日経によるとライバルのマイナビとの競争激化の末の発想だった、と報じられています。記事のタイトルにあるようにリクルートの焦りであります。セブンも競合との激しい争いの中でセブンペイで見事にこけたのは記憶に新しいところです。

レッドオーシャン化した市場で競合を出し抜くために日本国内では資本の大きさにものを言わせた力技もよく見られます。私はそれは戦略の一つではあるけれどつまらない戦略だと感じています。ブルーオーシャンに変れるジャンプをしてもらいたい、これが近年の全く元気がなくなった日本の大手企業へのお願いであります。

2-30年前に日本はアルゼンチン化する、と言われたことがあります。このままいけばまんざら、あり得ない話ではないかもしれません。セブンイレブンがどう変革するかがある意味、日本の将来を予見できるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。