猛暑で懸念も朗報「今年のクリスマスツリーは大丈夫」

長谷川 良

コラムの見出しをみて、「当方氏はもうクリスマスツリーのことを考えているのか」と呆れかえってしまった読者もおられるだろう。口の悪い読者ならば「暑さのために可笑しくなったのではないか」と呟かれたかもしれない。

今年のクリスマスツリーの成長は順調(オーストリア国営放送のHPから)

今日から9月が始まった。先月はウィーンでも暑い日々が続いた。気象庁によると、「2003年以来の最も暑い8月だった」という。ここ1週間は30度を超える日が続いた。日本ほど蒸し暑くはないが、気温は日本とぼぼ同じだ。緯度的にはウィーンは北海道の旭川に位置する。

先日久しぶりに東京の義兄と連絡が取れた妻の話では、「クーラーを1日中つけっぱなしにしているよ。そうしないと死んでしまう」と言っていた。大げさではなく日本の猛暑では、高齢者の熱中症が危ない。舞台演出の仕事をしているため、舞台での稽古がない限り、部屋での仕事なのでクーラーは不可欠という。

ところで、いつものようにオーストリア放送のHPを開けると、朗報が目に入った。「この冬のクリスマスツリーは大丈夫」というニュースだ。なぜ朗報かというと、暑い夏でクリスマスツリーの成長に影響が出てくるのではないかと懸念されていたからだが、「クリスマスツリーはスクスクと成長している」というのだ。以下、暑さにも負けず成長を続けるクリスマスツリーの話を紹介する。読者に少しでも涼しさを提供できれば幸いだ。

欧州では毎年11月中旬になると、クリスマス市場がオープンする。ウィーン市庁舎前には大きな松の木が建てられクリスマスシーズンの到来を告げる。もみの木を売る市場もあちこちに立つ。市場の雰囲気が盛り上がるが、そのツリーが運び込まれた段階で生命力を失った枯木だったらどうするか。クリスマスの雰囲気は失せてしまうだろう。イタリアのローマで2年前、そのようなことが起きた。

イタリア共和国トレンティーノ=アルト・アディジェ州トレント自治県の北東部に位置する谷、ヴァル・ディ・フィエンメ谷から採木された松の木がローマのヴェネツィア広場に運び込まれたが、樹木の専門家がすぐにその松の木が既に枯れているのに気が付いたのだ。ローマまでの運送中に松の木が死んでしまったわけだ(「クリスマスツリーは枯れ木だった?」2017年12月21日参考)。

また、欧州最大のクリスマス市場と呼ばれるウィーン市庁舎前市場の広場では昨年、広場に飾られたクリスマス・ツリーの枝がところどころに落ち、老木のような様相を呈していたため、市民から「あれは何だ」と批判の声が飛び出したことがある。クリスマスツリーに対する欧州人の要求水準は限りなく高い。それだけに、クリスマスツリーを栽培する農家たちも神経を使うわけだ(「クリスマスツリーも整形手術を」2018年11月9日参考)。

話を今年のクリスマスツリーに戻す。クリスマスツリーを栽培する農家たちが先月30日、オーストリア全土からマリア・ラッハに結集し、今年のツリーの成長ぶりについて情報交換をした。それによると「この暑さにもかかわらず、クリスマスツリー(もみの木や松)の成長には問題がなかった」というのだ。

(「アンデルセン童話」や「クリスマスソングもみの木」から、読者はクリスマスツリーといえば直ぐに「もみの木」を思い出されるだろう。家で飾るツリーはもみの木だが、代表的な場所に高々と立って飾られる大きなツリーは松の木だ)

ニーダーエステライヒ州の「クリスマスツリー栽培農家協会」のフランツ・ライト議長は、「家に飾るクリスマスツリーは約2メートルの高さだが、その根は通常地下2メートルの深さまで伸びているため、地下から水分を十分吸収できるので、暑さの影響はない」という。

オーストリア全土で毎年、約250万本のクリスマスツリーが出荷され、その総売り上げは約2200万ユーロだ。同州農業協会のヨハネス・シュムッケンシュラ―ガ―会長は「クリスマスツリー栽培は環境にもよく、年間10トンのCO2を吸収する」と、地球温暖化対策にもクリスマスツリーが貢献していると説明していた。

ツリーを買う人々にとって気になるのは今年のお値段だ。家に飾るツリー1.6メートルの高さで30ユーロという。クリスマスイヴの12月24日が市場の最後の日、それを過ぎたら、もみの木は片付けられる。それで24日直前になると、ツリー売りの農家も半額以下で売るようになるため、当方宅では子供たちは早く買いたいのを我慢し、12月23日頃からクリスマスツリー市場に出かけ、通常30ユーロのもみの木を15ユーロで買ってくるわけだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月1日の記事に一部加筆。