韓国はいかに「反日」を克服できるか

先ず、報告する。オーストリア代表紙プレッセの社説(8月19日付)は「強制労働(元徴用工)と慰安婦=北東アジアの険悪な状況」で、日韓両国関係が険悪化していること、その背景には歴史問題があることを指摘し、日本側の責任を強く示唆した。その社説に対し、駐オーストリア日本大使館所属の外交官が同紙の「声の欄」で意見を述べたのだ。

▲独裁的な反日政策を推進する文在寅大統領(2019年8月29日、閣僚会議にて、韓国大統領府公式サイトから)

▲独裁的な反日政策を推進する文在寅大統領(2019年8月29日、閣僚会議にて、韓国大統領府公式サイトから)

その内容はプレッセ紙の社説内容に反論するというより、「日本は過去、韓国に謝罪をしてきた」、「安倍晋三首相は歴史修正主義者ではない」といった内容に終始し、日韓間で対立してきた元徴用工や慰安婦問題については直接、言及することを避けていた。

日本外交官の説明としては少々消極的だが、駐在国の代表紙に対し、従来の“ひきこもり外交”から脱皮し、自国の立場を少しでも説明する姿勢は評価されるべきだろう(「海外紙論調に反映する『朝日』の誤報」2019年8月21日参考)。

少し、注文をつける。日本外交官は「日本政府は過去、韓国に対して謝罪してきた」と指摘し、村山談話を例に挙げて説明していたが、日本は過去、韓国で新政権が発足する度に謝罪を表明してきた事実、韓国政府が反日を国内政治の統治手段として利用してきたことを説明すべきだろう。また、日本側が資金を拠出して設立されたアジア女性基金が解体され、今回の慰安婦問題の日韓合意まで破棄されたのは韓国現政権の決定だったという事実に少なくとも言及すべきだったはずだ。

それだけではない。最近の日韓両国の険悪化の直接の契機が文在寅政権の徹底的な反日政策、北傾斜路線によることを指摘すべきだった。欧州の読者は日韓関係の詳細な動向を知らない。日韓問題を「日本は加害者、韓国は犠牲者」といった枠組みだけでとらえるため、ナチス・ドイツの戦争犯罪を体験した欧州人は「日本もナチス政権と同様、戦争犯罪を犯した」と安易に受け取るケースが余りにも多い。

面倒くさいが、詳細に説明しない限り、欧州の読者の理解を得ることは難しい。韓国外交はその面倒くさいことの労を惜しまず、繰り返し主張してきた。だが、日本の外交は「そんな詳細なことを説明しても……」といった消極的な姿勢から脱皮できず、日韓問題に関して海外では韓国側が有利な状況にある。外交は面倒くさいことでも、繰り返し説明する労を惜しまないことが重要だろう。

次に、民族が特定の他の民族に対して強い嫌悪感を抱くケースについて考えてみた。韓国の反日もその一つだが、アラブ民族のユダヤ民族への敵愾心など、世界には様々な形態の嫌悪感、反発感がみられる。問題は、その嫌悪感、反発感はどこから起因するかで様々な解釈、歴史観が飛び出してくるわけだ。ここでは全く新しい視点から考えてみた。

エピジェネティクスという言葉がある。DNAの配列に変化はなく、細胞の分裂後も継承される遺伝子に関するもので、細胞が体験や経験を記憶し、それを代々、伝達していくメカニズムが働いているというのだ。

例えば、恐怖心も遺伝する。恐怖心はその人間が遭遇した体験に基づくが、その心理状況が直接体験していない後世代にも継承されるという。「細胞が記憶している」といえるわけだ。当方はこのコラム欄で「骨は歴史を知っている」という趣旨のコラムを書いたが、その論理を進めていくと「細胞は知っている」という表現が生まれてくるわけだ(「『骨』がその人の歴史を語り出す時」2018年12月18日参考)。

最近は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされる人々が増えてきている。強い悲しみ、寂しさなどを体験すると、その心の痛みはその体験が経過した後まで続く。戦場で味わった恐怖と心の痛みが時間が経過した後も続く。細胞がその体験を記憶してしまったから、その完全な回復は難しいわけだ。

キリスト教の教理では、人類始祖が神の戒めを破ったので、「原罪」が生まれ、それは代々継承されてきたという。この「原罪説」を現代人が理解するのは容易ではない。アダムとエバの原罪がどうして21世紀の私たちと関係があるのか、といった素朴な疑問が生まれるからだ。

テーマに戻る。韓国民族が抱く反日感情はひょっとしたら「細胞記憶」によるものではないか、といった推測が生まれてくる。元徴用工でも慰安婦でもない韓国人が日本に対して消すことができない反発心、嫌悪感を感じるとすれば、それは反日教育の成果だけではなく、「細胞記憶」のメカニズムから出てきたと説明できるのではないだろうか。

日本の人気作家・村上春樹氏は共同通信とのインタビューの中で、「ただ歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が『すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう』と言うまで謝るしかないんじゃないかな」という趣旨の発言をしたが、問題は、何度謝罪したかではなく、韓国民族に刻み込まれた「細胞記憶」にあるのではないか(「日本は韓国の『誰』に謝罪すべきか」2015年4月26日参考)。

国際法に基づいて韓国との関係の正常化を目指す日本と、日本への嫌悪感が彫り込まれた「細胞記憶」に揺り動かされる韓国との関係が険悪化し、話し合いが常にすれ違うのは当然の結果かもしれない。

それでは「細胞記憶」された内容をどのようにして消却できるか、といった新たな問題が出てくる。キリスト教では「細胞記憶」として継承してきた「原罪」を消去するためにメシア(救い主)が降臨するという。それでは、韓国民族に刻み込まれた「細胞記憶」の場合、どのようにして消去できるのだろうか。興味深い点は、「遺伝子は変えられる」と主張する学者が増えてきていることから、反日は、いつか克服できるということだ。

ヒトラーは優生学を信じ、ドイツのアーリア系の純粋、優秀な血統堅持を主張し、ユダヤ人ら少数民族の大虐殺(ホロコースト)に走った。文在寅大統領は「積弊清算」を訴え、親日派国民の摘発を推進している。ナチス政権は当時、「ユダヤ人の店から商品を買うな」と命令し、文政権下では「日本商品のボイコット」が叫ばれている。独裁的な政権は、いつか倒れる。時代と環境は違うが、ナチス・ドイツが崩壊したように、文政権の反日政策が成功しないことは歴史が実証している。

ちなみに、大国の支配に久しく苦しんできた韓国には救世主の降臨を願う伝説や預言書(例「鄭鑑録」など)が伝わっている。民族の解放者の出現であると共に、「細胞記憶」に刻印された痛み、恨みからの克服を願った韓民族の悲痛な願望の表れだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月2日の記事に一部加筆。