香港は「アジアのシリア」になるのか?

岡本 裕明

暴動が続く香港は今後どうなるのでしょうか?中国という巨大な体制に対峙する740万人の香港市民は何を考えるのでしょうか?

(NHKニュースから:編集部)

(NHKニュースから:編集部)

日本人が考える香港のイメージはお金持ちかもしれません。世界一高額な不動産市場や自由な金融市場を背景にさぞかし金持ちが多いと思うかもしれません。確かに家庭所得の中央値で見ると年収420万円ぐらいになるので日本より高いのですが、所得格差が大きく、2016年で上位10%と下位10%の所得格差は44倍、ジニ係数は0.54という調査もあります。所得分配の不平等さを図るジニ係数は0.54と世界の主要国と比べてもトップクラスであります。

その香港は英国の植民地としてあるいは、自由貿易の拠点として7-80年代に大きく伸び、その後の不動産ブームで香港の高層ビル群に我々日本人も驚いたこともありました。ところが、97年の香港返還で中国の「一国二制度」下に入るのみならず、50年後の2047年には中国本体と一体化することが目論まれています。

仮に中国で今の共産党体制が継続するならば香港の人にとって様々な自由がはく奪されてしまいます。例えば不動産の個人所有はどうなるのでしょうか?中国では個人所有は認められていません。使用権です。日本でいう借地権のようなものでしょう。あらゆる常識があと28年程度でひっくり返る可能性があるのです。

では、香港から脱出すればいいじゃないか、と考えますが、それができるのはある程度の資産をもった人か高学歴で技術や能力を持った人でそれらの人はすでにオーストラリア、カナダ、英国などに永住権を持っている人も多いとされます。

今、香港でデモに参加している人たちはそんなオプションがない人たち、ないし、まだ若くてそれらの資産や技能を十分に確保していない人たちの声かと思います。仮にこの対峙する関係が今後も平行線のまま期限の2047年に近づいてくればどうにかして香港を脱出を試みようとする香港人は当然増えてくるかもしれません。これが「アジアのシリア化」であり、移民ではなく、政治的難民として世界に散らばる可能性があります。

オーストラリア、カナダ、英国などは永住権のハードルを上げました。人数枠は十分にあり、カナダにおいては毎年人口の1%を移民として受け入れるほどでありますが、かつての「経済移民」のようにお金で移民権を買うのはほぼ困難かとてつもない資金を投じなくてはいけません。移民するには十分な学歴、技能、経験が問われるのです。一般市民が誰でも対応できるレベルではありません。

少なくとも香港で今後起きるであろうことは香港人の個人資産の世界への分散化が急速に進む可能性です。親戚等に頼ったり、華僑ルートをたどるものと思われます。一国二制度と言っても真綿で首を絞めるような中国政府の態度に市民の信頼性がなくなっている以上、香港人は自衛的手段に走るとみています。(ちなみに中国本土の人は同じ中国なのに「ずるい」という不公平感を持っています。)

一方、今日の暴徒化したデモですが、私は60年から70年の安保の動きと重ね合わせていました。60年安保は日本共産党、企業の組合、学生運動がほぼ歯車を同じにして戦いました。ところが過激化した学生に共産党と企業の組合が距離を置き始め、全学連のように一部の学生が原理闘争を求め、その手段を択ばなくなったことで世間の支持を得られなくなりました。私が恐れているのは香港の学生など若者がこの原理闘争に走っていった場合、歯止めが利かなくなり、香港政府および中国政府と決定的な対決になりやしないかという懸念です。

私は香港のデモはそろそろ一旦下火になると考えています。理由は9月に入り、人々が平常のライフに戻るからです。暑い時期を避けた観光客も増えてきます。その中で一部の若者が暴徒化すればそれは香港警察と中国人民軍が出てくる口実を作るだけになるでしょう。

香港の問題は根本的解決案が現時点で何もないに等しく、香港政府も傀儡であって何の役にも立たないところに問題が複雑化している原因の一つを見出せます。暴力と声に訴えても壁の向こうの相手が民主的ではなければその声は跳ね返ってしまいます。人々の自営がどのように展開するのか、世界は見守っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月4日の記事より転載させていただきました。