これは悲劇なのか、喜劇なのか、ドタバタする世界

あまりにも傍観者的な物言いもいけないとは思っていますが、この2日間の本ブログのテーマである英国のEU離脱問題と香港のデモについて大きな展開が見られました。国ないし巨大な地域の行方が右へ左へと振り回されているのを見るとそこにいる国民、市民の居心地の悪さは我々の想像を絶するものがあると察します。

ガーディアン・ニュース YouTubeより:編集部

まず、英国ですが、この先行きを読むのは苦労します。ただ、今の時点でジョンソン首相の分はだいぶ悪いとみています。離脱延期法案可決を受けてジョンソン首相は一か八かの解散総選挙をぶつけましたが、下院で3分の2の同意は取れませんでした。

労働党のコービー党首はもともと解散をすべきだと主張していたのですが、この時期に解散してもドタバタすぎる点を嫌ったのでしょう。ではジョンソン首相はチャーチル首相になり損ね、チェンバレン首相になるのでしょうか?それも微妙です。もう一点、離脱延期法案はあくまでも英国の都合。EU側が嫌だといえばそれまでです。(ジョンソン首相が何かやらかさない限り、EUは反対はしないと思いますが。)

英国の最大の問題は誰が首相をやってもまとめられないほど分断してしまった、ということかと思います。敢えて言うなら2-3年、もうちょっと頭を冷やして国内で足並みをそろえてからEUに総意の意見書を出してくれ、と言いたいところでしょう。EUの立場を代弁しているのではなく、一般的な社会人として言っています。首相ごとに言うことが二転三転するような国家は信用できない、ディールもできないというのは世の常識でしょう。

個人的には英国の歴史や性格を考えると紐をつけずに放し飼いにすべきかと思います。つまり、離脱せよ、ですが、もっとうまく離脱する知恵を出してもらいたいと思います。

林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官Facebookより:編集部

もう一つのホットな話題は香港政府トップで行政長官の林鄭月娥氏の「逃亡犯条例」改正案の撤回であります。これは字ずらをそのまま読むわけにはいきません。まず、林鄭氏は話題の逃亡犯条例について3段階の譲歩をしました。一度目は無期延期、二度目は非公式に(この条例は)死んだと発言、そして三度目に正式撤回です。林鄭氏自身、自分で判断できることはほとんどありません。すべての重要な、そして細かい指示は本土から来ています。事実、林鄭氏は行政長官を辞めたいと言っても本土がそれを許しませんでした。これは本音話でしょう。

私は中国本土が小出し作戦を続け、10月1日の中国の建国70年の祝いが滞りなく開催されることをもくろんでいるのだろうと思います。今回の市民デモはいつの間にか「逃亡犯条例」撤回から5大要求に変ってしまいました。ただ、その最大のイシューである「逃亡犯条例」が解決をするならデモ隊も強硬派は別として多少収拾する可能性はあり得るとみています。とするなら林鄭氏を矢面に立たせるという算段はほぼシナリオ通りだったのではないかと思います。

会社の事業で大きなトラブルを起こした場合、首にせずに社内留置場に放り込むやり方があります。私も実際にそれを間近で見ました。それはトラブルの完全解決、つまり「ケツ拭き」を責任をもってやらせるという罰であります。これほど怖いものはありません。林鄭氏は今、まさに人身御供状態と言ってもよいでしょう。私は中国本土が譲歩したとは微塵にも思っていません。

さて、二つの進行中のドタバタについて私なりのフォローアップですが、世の中、似たような話がとても増えてきています。日韓問題、イラン問題、北朝鮮問題のほかにイタリアでは国内問題が行方知らず、ドイツは極右政党が地方選で大躍進しました。どれも今後、もっとドタバタする可能性があります。

何が根本問題なのか、いろいろな視点はあると思います。一つ上げるのはとても難しいのですが、私はあえてポピュリズムを掲げたいと思います。ポピュリズムとは「民主という名のもと、政治家が選挙民へすり寄ること」とも考えられますが、私はその背景にコンプライアンスがあったのではなかったかと思います。

「うちの会社はこんなにひどい」「この学校の先生はこんなことをしている」といったごく身近かな問題を取り上げる中で企業や社会は公正性大、透明性と情報公開をうたったわけです。これがポピュリズムのベースになったと考えられないでしょうか?

それに呼応するように「カミングアウト」する人が増えたのです。決してそちらの意味ではなく、我慢せずに自分の意見を言う(本性を現すの意)という意味のカミングアウトです。このために社会を構成する組織体がこの抵抗に負けているともいえるのかもしれません。

問題は収拾がつくのか、であります。会社の場合はその理念や向かう方向が同じベクトルであり、一体感を作り出しやすいのですが、国家や地域では色合いは当然ばらけます。分断する社会とはここにその背景を見ることができるのかもしれません。

英国や香港の将来について私はその行方を公言するほど予知能力はありません。それほど世の中が変わりつつある社会とも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月5日の記事より転載させていただきました。