財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)の有効活用に関する提言

9月6日、金融庁HPにて「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂(公開草案)」が公表されました。財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことに伴い、原則として合わせて記載するものとされている内部統制監査報告書についても改訂する必要がある、ということからの改訂だそうです。

しかし、近年の一連の監査改革は、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性から進展しているのですから、財務報告に関する内部統制報告制度も(直接「監査」に関わるものとは言えませんが)同様の趣旨から見直しが図られるべき時期に来ていると思います。

※画像はイメージです(写真AC:編集部)

近年、会計不正事件が発覚した場合、有価証券報告書が訂正される事件は多いのですが、その際に、内部統制報告についても訂正報告書を提出する会社と提出しない会社(訂正しない会社)が見受けられます。「なぜ内部統制報告書を訂正したのか」「なぜ訂正しないのか」という点が、会社側からの説明がないのでまったく財務諸表利用者からは財務報告の信頼性について理解できません。

たとえば「なぜ訂正しないのか」・・・重大な会計不正事件について、有価証券報告書の訂正には応じているのに、なぜ内部統制は訂正しないのか、まずその理由は説明すべきです。たとえ不正が発覚しても「内部統制の経営者評価は有効である」(内部統制を無視・無効化した不正事件だった、評価対象範囲外で不正が起きた)という理屈はありえますので、そうであればその旨をわかりやすく経営者は示すべきです。訂正報告書は監査対象ではないから(訂正はしない)というだけでは財務諸表利用者からみれば「なんのこっちゃ?」となるのでは?

「なぜ訂正したのか」・・・もともと有効と言いながら、不正発覚を機に訂正したわけですから、なぜ開示すべき重要な不備があったのに、そもそも不備ないとして有効と評価したのか、監査人も(ダイレクトレポーティングではありませんが)、なぜ内部統制は有効ではなかったのに、有効とした経営者評価にお墨付きを付与(適正意見)したのか、説明が必要です。

そもそも内部統制報告制度には刑事罰や課徴金制度が存在するにもかかわらず、この10年以上全く発動されていません。発動することまで必要ないのであれば、せめて財務諸表利用者に説明責任を果たすことくらいは必要ではないでしょうか。内部統制報告制度の効率性だけでなく、その有効性についても検証すべきと思いますが、いかがでしょうか。

最後に、まったく話は変わりますが、日経9月9日夜に電子版に掲載された「四面楚歌の西川・日産社長 報酬上乗せで」はとても興味深い記事ですね。この報道内容、もっと深堀りされることを期待しております。9時40分頃からの日産記者会見をすべて視聴しましたが、SARの有報開示の問題点や文藝春秋におけるケリー氏の証言(自宅購入費の会社負担を西川氏はケリー氏に迫ったのか)について記者さんからツッコミが欲しかったと思いました。(おや!?上記日経の電子版記事の見出しが10日深夜に削除されてますね。なんぞある!?)

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。