『がん消滅』 生存率上昇へ 私の青写真

2019年09月20日 11:30

『がん消滅』という、小松左京氏の「日本沈没」ような、SFチックなタイトルの講談社α新書が、今日20日から書店に並ぶ(かもしれない?)。恥ずかしながら、私が著者である。

読者の手に取ってもらう処から始まるので、出版社が目を引くようなタイトルにしたものだが、小心者で控えめな性格の私には、「こんなオーバーなタイトルでいいのか……とドキドキするようなタイトルだ。

内容は、がん医療革命につながるゲノム、リキッドバイオプシー、免疫療法、そして、人工知能を利用すると医療がどのように変わっていくのかをごく一部紹介している。できる限りわかりやすく解説したものだが、おそらく、やっぱり難しくてわかりませんと言われるだろう。

その場合でも、ぜひ、第5章の私の現在に至るまでの思いをまとめているので、その部分には目を通してほしいと願っている。「がん患者の生存率を上げる」ことが私の生涯のゴールである。

私の頭の中には、そのための青写真が描かれているが、永田町や霞が関の青写真とはずいぶん乖離している。地球儀規模の世界を見ているのか、千代田区の地図を見ているのかくらいの違いがある、あるいは、私が幻想を見ていて、国会や役所が超現実的な世界を見ているのかもしれない。私が見ているがん医療は、一部の例外的な患者さんを通してであり、絶対多数のがん患者さんは今のがん医療に満足しているのかもしれない。


(以下、『がん消滅』より)

21世紀に入ってがん治療を取り巻く環境は大きく変わりました。最も大きなものが、ゲノム・遺伝子解析技術の進歩です。21世紀を迎えたころに、「ゲノム情報が医療を変える」との確信はありましたが、まさか、私の生きている間にこんなに簡単に・安価で・正確にすべてのゲノム情報を入手することができて、それが臨床の現場で活用されることになるとは思っていませんでした。

がんで起こっているゲノム情報は数十万円で、1週間弱で解析することができます。これによって、数万人単位でのがんで起こっている遺伝子変異情報が蓄積されました。これらの技術革新と情報集積によって血液でがんを調べるリキッドバイオプシー技術が臨床現場で手の届くところまで来ています。

また、20世紀のがんの治療は、外科治療・薬物治療・放射線治療の三大療法と言われていましたが、今や、免疫療法が大きな位置を占めています。また、免疫チェックポイント抗体療法は患者さん自身の持つ免疫力の重要性を科学的に実証する結果となりました。本書では、免疫療法がどのような広がりを見せつつあるのかを、ネオアンチゲン療法を中心に紹介しています。

そして、次第に医療の分野で実装化されつつあるのが人工知能です。医療のさまざまな分野で人工知能が活用されつつあります。人工知能が医療現場で利用されると説明すると、血の通わない冷徹な医療現場を想像される方が多いと思いますが、それが間違いであることを最後に説明しています。

医療の最前線に人(医師や看護師)と人(患者と家族)との心のつながりを取り戻すためにこそ、人工知能が不可欠になってきているのです。もちろん、ネオアンチゲン療法という免疫療法を利用していくには、この人工知能による予測システムが絶対的に必要になってきます。

ゲノム情報を核として、リキッドバイオプシー・免疫療法・人工知能を上手に活用することによって、がん治療に革命が起こすことができます。私はこれらを統合的にリンクさせていくことによって、現在のがんの5年生存率60%強が、10年以内には80%近くまで改善すると信じています。当然ですが、私のゴールは「がん消滅」によって患者さんと家族に笑顔を取り戻すことです。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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