福島の処理水は大阪湾といわず日本中の「内水」に放出せよ!

2019年09月26日 06:01

松井大阪市長(市HPより)

本稿では、松井大阪市長が「福島原発の処理水を大阪湾に放出する用意がある」と述べたことに賛同する立場から、これを実現するための課題を関係資料から整理・克服した上で、大阪湾に限らずむしろ日本全国の「内水」に放出すべきだ、との筆者の持論を述べる。

韓国が福島処理水をIAEAに持ち出し、東京五輪に結び付けるのは、他人の弱みに付け込む卑劣な所業で、日本国民として断固排斥すべきだ。だが、それには我々自身が事実に対する無知とそれゆえの偏見を克服し、流言飛語(デマを含んだ風評)を払拭して、福島処理水を弱みでなくす必要がある。

関連する国際法

9月17日の拙稿「福島原発処理水の船舶による海洋投棄はできるか」で、「国連海洋法」や「ロンドン条約・議定書」を見る限り、船舶による海洋放出はできないとし、陸からならば処理水が安全基準を満たしている限り放出を禁止する国際法は見当たらず、現実に世界中の原発から海に流されていると書いた。

先ずは本稿で書こうとすることが、この前稿に矛盾しないことを説明する。

「ロンドン条約1996年議定書」(以下、議定書)の第7条「内水(ないすい)」の条文は以下の通りだ。(以下、太字は筆者)

  1. この議定書の他の規定にかかわらず、この議定書は、2及び3に規定する範囲においてのみ内水に関係するものとする。
  2. 締約国は、内水である海域における廃棄物その他の物の故意の処分であって、仮に当該廃棄物その他の物を海洋において処分したとするならば、第一条に規定する“投棄”又は“海洋における焼却”となり得るものを管理するため、自国の裁量により、この議定書を適用するか、又はその他の効果的な許可及び規制のための処置をとる
  3. 締約国は、内水である海域における実施、遵守及び執行に係る法及び制度に関する情報を機関に提供すべきである。締約国は、また内水である海域に投棄された物質の情報及び性質に関する概要報告書を任意に提供するために最善の努力をすべきである。

要するに「内水になら自国の裁量で処分できる」と読める。つまり、禁じられているのは内水の外の領海を含むそれ以遠の海洋ということだ。この場合、放出する内水までの運搬方法などには言及がないので、船舶での運搬も禁じられていないと考えられる。

「内水」とは?

では内水とは何か。Wikipediaには「内水は、陸地側から見て基線の内側にあるすべての海域」と書いてある。これでは良く判らないが下図を見ると少し理解が進む。要するに内水とは湾のことで、半島と半島(またはその外の島)の端などを結んだ「基線」の内側の海のことだ。

Wikipediaより

内水の基線から沖へ12海里までが領海、更にそこから12海里沖までが接続水域、そこから200海里までが排他的経済水域でそれ以遠が公海という訳だ。なお、内水には河川や湖や運河などを含むから道頓堀(橋下徹説)も内水だ。海上保安庁のサイトの「基線」の説明に日本の内水が一目で判る図がある。

海上保安庁サイトより

基線には、線の引き方によって通常基線、直線基線、群島基線があり、群島基線の場合を除いては基線より陸地側の水域が内水となる。上図は直線基線によって日本の内水を表している。瀬戸内海はもとより、佐渡島や五島列島の内側の海域なども内水と判る。

風評は全国民で背負う

おおよそ筆者の言いたいことの想像がついたと思う。それは、内水へなら船で運んで放出できるのだから、大阪湾に限らず上図の紺色の部分、つまり日本中の内水に1周グルっと放出できるということ。なぜこれが上策かといえば、国民全員が等しく「風評」を背負うからだ。

福島沖とか大阪湾とかに限定するから風評がそこに集中する。日本中に放出するなら日本中が風評対象。日本人得意の一億総懺悔ではないが、日本全国横並びは日本人の心情にピタリと嵌る。問題が生じるとすれば輸出用の水産物に限られよう。

そこで我が国の水産物の輸出状況を見てみよう。2017年の水産庁データでは2,749億円が総輸出額だ。ちなみに同年の漁業産出額は1兆5,755億円なので、輸出比率は17.4%。ただし、漁業でいう内水面とは河川や湖を指すので、ここでいう内水とは意味合いが異なる。

なので、沿岸漁業と沖合や遠洋での漁業の産出額や輸出額の区分があると良いのだが見つけられなかった。そこで水産庁の相手国別・品目別の以下の輸出データ(財務省「貿易統計」2017年)に基づき水産庁で作成 ※)を基に論を進める。

(※編集部より訂正:26日8:50)初出のグラフが間違ったものを掲載しておりました。訂正し、高橋氏、読者の皆様にお詫びします。

水産庁サイトより

どうだろうか。真珠363億円とマグロ・カジキ111億円は除外できそうだ。ホタテ貝の約8割のアジア向けと香港向けが大半のナマコの約580億円辺りは影響がありそうだが、ブリやサバ類は向け先から推して問題なかろう。こうしてみると影響は余り大きくなさそうだ。

だからといって輸出が風評に影響されて良いという訳ではないが、影響は軽微ということ。要は近海の魚介や地魚は、輸出に頼らず国民が食べてしまえば済む話ではあるまいか。ただし、それには処理水の安全性が担保されなければならないのは勿論だ。つまり流言飛語の払拭が必要だ。

処理水のこと

そこで処理水のことになる。松井市長も「科学が風評に負けてはだめだ」、「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ」と述べているように、処理水の安全性のレベルが最も重要なファクターであるに違いない。

資源エネルギー庁はその辺りのことを比較的判り易く説明したサイトを設けている。昨年夏、タンクの処理水の8割にトリチウム以外の放射性物質が含まれていると騒動になった後の10月25日(その時点の貯蔵量は約89万トン)にアップされている。

先ず「ALPS(多核種除去設備)処理水」についての説明の要点は以下のようだ。

・2013年頃まではALPSが開発中だったのでセシウム以外の放射性物質を取り除けなかった

・2013年中にALPSが稼動してからはトリチウム以外の放射性物質を取り除けるようになった

・これを「ALPS処理水」と呼び敷地内のタンクに貯蔵している

次になぜ「基準を満たしていない処理水が8割超」なのかについてこう説明している。

・汚染水に関する「規制基準」は2種類ある

①タンクに貯蔵する際の基準

②環境へ処分する際の基準(①より厳しい)

・ALPS処理水はすべて①の基準を満たしている

・②の基準を達成するまで浄化するには時間が掛かると判断した

・先に①の基準を達成しタンクに貯蔵することを優先してALPSを稼働させた

・ゆえにALPS処理水の8割は②の基準を満たしていない(18年10月25日時点)

・この8割の中にはALPSが不具合を起こした際の高濃度処理水が混じっている

そしてこう結ばれている。

・これらのALPS処理水はそのまま環境中へ放出されるわけではない

・ALPS処理水を放出する場合は②の規制基準を満たす処理が当然おこなわれる

・東電はALPS処理水を環境中へと処分する場合は更にもう一度浄化処理(二次処理)をする方針

89万トンの時点で②の基準を満たすものが14万トン弱だったので、8割が基準を満たしていないとされた。処理水は1日150トン増えるので、爾来700日として10万トン余り増加したはず。で、目下100万トンを超えたというからほぼ計算通りだ。

また同庁のトリチウムを説明するサイトはそのポイントをこう述べている。

・トリチウムは「水素」の仲間で、自然界でも生成され雨水や水道水や大気中にも存在する

・国内外の原子力施設などで人工的に生成され、管理されたかたちで海洋や大気などに排出されている

自然界にも存在している以上、トリチウムから逃れられないのが人間の宿命であるということだ。よって筆者は将来、人への影響がより少ない外洋に原発処理水を放出できるように国際法を修正すべきと考える。

結語

縷説をまとめる。目下100万トン超の処理水の約7割は、貯蔵は問題ないが希釈して放出するにはもう一度ALPS処理する必要がある。技術は確立済みゆえ手間暇だけの問題。事後の処理水は安全基準のレベルに希釈すれば、国際法上も日本中の「内水」に船で運んで放出が可能。

ならば、政府は無論、全国47都道府県の首長や各市長の英断と各漁業関係者の理解を求めたい。何より我々国民が誤解と偏見を払拭し流言飛語を排して、この国難を乗り切ろうではないか。そして東京電力には東京五輪が済んだら、ALPSの増設も含めて一気呵成に処理を進めてもらいたい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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