地方議会における議案は、イデオロギーや政局で賛否表明するな

高橋 富人

そろそろ、「〇〇党のあげた議案だから」というだけで反対するのはやめたらどうだろうか?

筆者作

はじめに私の立場を明らかにしておくと、私は党綱領で「生産手段の社会化」や「自衛隊の解消」をうたう共産党にはまったく共感しない。また、どの地方議会でも左派勢力とみなされている「市民ネット」とも、私の主張は議会内で鋭く対立する場合が多い。簡単に言ってしまえば、イデオロギーの根本のところで、相いれないのである。

とはいえ、「であるから」彼らの主張がすべて間違っている、とはとうてい思えない。それどころか、基礎自治体の議会というレベルでいえば、彼らが事実関係の裏付けをしっかり調べ上げたうえで採る個別案件への意見やスタンスは、多くの気づきを与えてくれるし、賛同できることも多くある。

もちろん、高齢者福祉や子育て支援などの件で、「それはそのとおりだが、予算をどこからもってくるのか?」と思わされる場合も多々あるが、それは右派左派問わず、市議会議員のスタンドプレイとしては「よくあること」だということを申し添えたい。

「内容」ではなく「政治」で賛否を表明している「ようにみえる」事例

地方議会議員には、国や関係機関に、地方議会発信で「モノを申すことができる」意見書の提出権が認められている。この意見書の効力については、個人的には控えめに言って懐疑的であることは以前の論評で述べた。とはいえ、議会であがってきた議案であるからには、真剣に検討する必要があるのは言うまでもない。

さて、佐倉市議会における9月定例会の最終日である9月25日、本議会であがった議案の採決が行われた。

その中で、各会派からあがってきた「意見書」の採決も行われた。

今回、「市民ネット」は2本の意見書を発議した。そのうち1本が、本年4月に施行された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」に対するものだった。

本法律は、昨年5月に成立した「森林経営管理法」を、正しく運用するための財源措置を定めたものだ。では、「森林経営管理法」とはどういうものかというと、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理という、いわば森林資源の「経済」と「環境」の両立を図るための法律だ。

市民ネットは、本法律がもっぱら

林業経営の効率化・集約化に重点が置かれ、森林の持つ環境的側面、すなわち『生物多様性の保全、水源涵養、CO2削減、山崩れ防止』などといった多面的機能は蚊帳の外に置かれている

とし、放置された人工林の広葉樹林化に取り組むなど、現在当該法律で付帯決議扱いになっているものを、本則に盛り込むべきだ、とした。

林野庁によると、日本は国土の約70%が森林だ。そのうちの40%が、杉やヒノキといった人工林で、林業の担い手不足や日本の木材の競争率の低下から、広大な人工林が放置されている。それら人工林をどう手当てすべきか、という意味で、経済的な活動を支援するのは当然のこととして、激甚化する災害対策や多様性を下支えする意味でも、放置状況や周辺の環境を勘案したうえで、広葉樹林化などの措置は必須であると考え、本発議に「賛成」した。

しかし、結果は大きな会派の会派拘束による横並びの「反対」により、佐倉市議会では否決された。

その他にも、前回行われた6月定例会では、共産党が発議した意見書のうち「日米地位協定の見直しを求める意見書」が、上記と同じ状況下で否決された。

地位協定については、私は日米安保条約の双務性をしっかり担保したうえで見直していく方向が現実的である、という立場で当該発議に賛成した。その意味で、安保の扱いを含めた点でいえば、私と共産党は違う未来を想定している。しかし、本意見書はあくまで「地位協定の見直しの賛否」の一点を問うている。

右派政治家や論客でも、日米地位協定について「見直すべき」とする者は多い。しかし、単に「反対」をしただけで、「安保整備などとセットで提案されていないため」とするような「反対理由」を述べた議員が一人もいなかったことを考えると、少なくとも佐倉市議会の「右派」とみなされている議員は、ほぼ全員が日米地位協定を「そのままでよい」と思っているわけだ。

さて、冒頭書いたとおり、この二つの意見書が仮に佐倉市議会で賛成多数で採択されたとしても、国政に与える影響は「ほぼゼロ」と言ってよいだろう。私が言いたいのはそこではない。

議案は、政治や政局ではなく、その内容をもって賛否を表明すべきだ、という点だ。それが、市民の代表として選ばれた者の最低限の務めだし、結果的には日本に蔓延している政治不信を解消する手段の一つであるはずだ。

確かに、今回の事例は「意見書」という、実効性の低い発議に対するものだった。しかし、これが我々市民生活に直結する議案であったならどうだろう?わかりやすい例をあげれば、ごみ処理場の立地や、市税の値上げ、体育館や球場など市民施設への国からの補助金充当に関する賛否、などを考えてもらいたい。

それら議案について、「右派」や「左派」、あるいは「市長派」や「反市長派」などといった「政治」により市政が右往左往してしまったら、市民としてはたまったものではないのである。

市民に対する意見表明もなしに、政治政局だけで議案を操ることは、厳に慎むべきだろう。

高橋 富人
千葉県佐倉市議会議員。佐倉市生まれ、佐倉市育ち。國學院大學法学部卒。リクルート「じゃらん事業部」にて広告業務に携わり、後に経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で広報を担当。2018年9月末、退職。出版を主業種とする任意団体「欅通信舎」代表。著書に「地方議会議員の選び方」などがある。