古賀茂明氏の羊頭狗肉論考「小泉環境相が赤っ恥、国連サミット」の中身

2019年10月03日 06:00

1日のAERA Dot.で古賀茂明氏の論考を読んだ。古賀氏といえば、かつて報道ステーションで「I am not Abe」と書かれたフリップを出し続けるというシナリオ外の挙に出て、アドリブの利かない古舘伊知郎氏を怒らせていたのを懐かしく思い出す。

その古賀氏、筆者の興味の外の方なので忘れていたがあちら側で頑張っておられるようだ。記事は週刊朝日10月11号の転載で「小泉環境相が赤っ恥、国連サミット」との題。てっきり小泉新大臣の批判記事かと思ったら、専ら安倍総理や日本メディアへの批判タラタラの内容だった。

AERA.dotより

記事の要点を挙げる。太字は筆者

  1. 総理がサミットで発言できなかったのを見て「普通の日本人が見ている世界は真実から遠くかけ離れた歪んだ世界なのではないか」と感じた
  2. 大手メディアは「総理の日程の都合がつかなかった」という政府の言い訳を流すか、あるいは欠席理由を伝えない
  3. 総理の欠席は日本にとって大きな外交上の失点だが、報道されないので国民はそれを理解していない
  4. 総理がサミットに無理やり参加しようと思えばできた。が、石炭火力の新設をやめると言えないので諦めた
  5. 10年以上前から日本はパリ協定などの国際舞台で世界中から笑いものにされ、強い非難を浴び続けていた
  6. 政府が既得権企業忖度で温暖化対策に取り組まず、マスコミも総理忖度で世界に批判されていることを国民に伝えないので国民の関心も低い。これは悪循環だ
  7. 日本は気候変動対策で先進国の最後尾に位置するが、この悪循環が続けば途上国にも追い越され、やがて世界の落伍者になる日が来る

これらはいずれも古賀氏の所感なのだろう。が、そう思うに至った経緯や理由がないので、読む側は「世界中から笑いもの?」と首を傾げるか、あるいは「世界の落伍者になるのか」と受け止めるしかない。だが、総理が発言できなかった件については唯一理由らしきことが書いてある。

ファイナンシャルタイムズの記事を紹介した箇所だ。

サミット前の9月18日、フィナンシャル・タイムズ紙は、グテーレス国連事務総長が今回のサミットで、気候変動対策に不熱心な主要国リーダーたちの発言をブロックすると報じていた。その記事の中では、ブロックされる国の筆頭として「日本」を挙げている。さらに、グラフを用いて石炭火力発電所の建設計画を有する上位15カ国を並べ、先進国で唯一日本だけが含まれていることも示した。

古賀氏を疑う訳ではないが、日ごろ原典に当たる癖がついているので、早速ネットで「日本や豪州などの主要経済国は、来週の国連気候変動サミットで講演するよう招待されない」と題された当該記事に当たってみた。

確かに日本が名指しされ、講演のブロックは「グレーレス事務総長の要求と衝突するため」とある。事務総長は会議前、参加国に「新しい石炭発電所の建設を停止し、化石燃料補助金を削減し、2050年までにゼロエミッションを達成するよう要求した」そうだ。

会議では英独仏を含む63ヵ国のトップが「新規の気候公約(new climate pledges)」を3分間発表するが、「日本や南アフリカなど石炭火力発電所を新規に建設している多くの国」、「パリ条約から撤退するつもりと述べた米国」や「気候協定を批判したブラジルとサウジアラビア」が除外されるとある。

ちなみにメルケル発言の要旨はこうだった。(トルコ・ラジオ・テレビ協会サイト)

気候変動と世界の温暖化の原因は人間。科学者の提唱に従い、気候変動対策を世界規模で行う必要がある。このための対策は地球温暖化を摂氏1.5度に制限することを目指すパリ気候協定。先進国は気候温暖化の主要原因で発展途上国も犠牲者。従って先進国は地球温暖化を食い止める方法を見つけるために革新的な技術を開発して資金を割り当てるべき。

グレタさんのと同じく「お説ごもっとも」で誰も異論を差し挟めない。だが、これで公約(pledge)と言えるのか。いみじくも「開発」と述べる通り、今は「革新的な技術」がある訳ではない。何十人もの指導者がこれを念仏のように唱えたところでそれだけのことだ。

そして「先進国で唯一日本が含まれる」グラフの「石炭火力発電所の建設計画を有する上位15カ国」とは、中国、インド、トルコ、ベトナム、バングラディシュ、インドネシア、エジプト、フィリピン、南アフリカ、モンゴル、パキスタン、ロシア、日本、ボスニアヘルツェゴビナ、そしてポーランドだ。

FTより

だが、事務総長の要求通り石炭火力発電所の建設計画を停止するとして、これらの国々は一体何から電力を得れば良いというのか。中国は原発建設計画も並行しているが、原発を増やせというのか。再生可能エネルギーといったところで、火力や原子力のような安定電源には未だ成り得ていない。

何よりこの事務総長には日本の石炭火力発電技術に関する知識が欠けている。以下は「J-Power」のサイトにあるグラフだが、一見して判るように日本の石炭火力発電所の熱効率は諸外国のそれと比べて5~10ポイント高い。つまり、より少ないCO2の発生量で同等の電力が得られている。

J-Powerの試算だから割引が必要かも知れぬが、「仮に日本のベストプラクティス(最高水準性能)を排出の多い米国、中国、インドに適用した場合には、日本のCO2総排出量より多い約12億t-CO2の削減効果がある」そうだ(石炭は天然ガスと比べると2倍近くになるとも)。

「各国の石炭火力発電の熱効率推移」

「J-Power」サイトより

1990年頃の数値も注目に値する。日本は30年前から最も高い熱効率だったが、乾いた雑巾を絞って更に向上させている。一方、他国は中国を除いてほぼ横ばいだ。古賀氏は「10年以上前から日本はパリ協定などの国際舞台で世界中から笑いものにされ、強い非難を浴び続けていた」というが本当なのだろうか?

もう一つ注目すべきは、世界の二酸化炭素排出量(2016年)のEDMC/エネルギー・経済統計要覧2019年版の資料。上位7ヵ国は以下のようだ(GDPは2017年の国連統計名目ベース)。

   排出量(a)百万トン 構成比 GDP(b)億ドル   b/a(指数)
中国 9,057 28.0% 122,378 13.5
米国 4,833 15.0% 194,854 40.3
インド 2,077 6.4%  25,757 12.4
ロシア 1,439 4.5% 15,775 11.0
日本 1,147 3.5% 48,724 42.5
ドイツ 732 2.3% 36,932 50.5
韓国 589 1.8% 15,308 26.0

※各国の排出量の合計32,314百万トン

右端は筆者がGDPをCO2排出量で除しただけのラフな指数だが、単位CO2排出量当たりのGDP生成効率で日本は中国の3倍、ロシアの4倍だ。フランスからせっせと原発の電気を買って環境先進国を名乗るこずるいドイツには敵わないが、日本が優等生であることは間違いない。

これでも日本を笑いものにする国があるなら、こっちから笑い返してやれば良い。そしてこういったデータを突きつけろ。プラスチックごみも同様だが何といっても問題の元凶は中国にある。

最後に羊頭狗肉のことだが、古賀氏が小泉氏に触れた部分は以下だ。

今回の内閣改造で脱原発イメージのある小泉氏が本丸の環境相に就いたことに期待が高まった。小泉氏は、官邸に対して一定の発言力があるのではないかと思ったからだ。しかし、フタを開けてみれば、小泉氏が安倍総理にサミット出席を働きかけた形跡は見えない。そのうえ、小泉氏が出席した会議では、セクシー発言と受け狙いのパフォーマンスだけ。まじめな政策論は素人同然で、世界中の環境専門家に「強烈」なマイナスイメージを植え付けてしまった。「やはり、日本はまじめに取り組むつもりはない」と。

これだけの記述で「小泉環境相が赤っ恥、国連サミット」はなかろう。「赤っ恥」の理由が小泉氏にあるのか、日本の気候変動対応にあるのかも判然としない。きっと前者だろうが、今や左右から揶揄されている小泉氏をいくら腐しても、一向に安倍批判にはならないことにも古賀氏はお気付きでないようだ。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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