北朝鮮漁船との衝突:今後懸念される「大和堆」周辺海域の情勢

2019年10月09日 06:01

すでに報じられているとおり、7日午前9時ごろ、石川県能登半島沖のわが国排他的経済水域(EEZ)内において、北朝鮮漁船が水産庁の漁船取締船と衝突し沈没した。

大和堆の位置と北の漁船への取締活動(放水の様子は過去の事案:国土交通白書より)

現場は好漁場「大和堆(やまとたい)」周辺、沈没したのはイカ釣り漁船で違法操業の疑いがあり、取締船が退去警告や放水をしていた際に衝突したとの事である。

なお、海上保安庁によると、海に投げ出された漁船乗組員は取締船の救命艇が救助した後、別の北朝鮮漁船に移ったとされている。

この報道は、筆者に昨年12月の「韓国海軍レーダー照射事案」を想起させた。なぜならば、この事案も「事の発端には同海域における北朝鮮漁船の遭難が絡んでいた」からである。

しかし、前回と全く異なるのは、今回北朝鮮の漁船に対応していたのがわが国水産庁の取締船であり、衝突事故の発生に際しては連絡を受けた海上保安庁が巡視船などを派遣して水産庁の取締船とともに、転覆した漁船から投げ出された北朝鮮乗組員の救助に当たったという点である。

北朝鮮など他国の漁船がわが国EEZ内の海域において違法操業を行った(または行おうとした)場合、海上保安庁の巡視船や水産庁の取締船がこの操業を阻止するために警告や(これに従わない場合には)放水など行うのは、至極当然の権限行使である。また、たとえそれが違法操業船であったとしても、もし同海域で(今回のような衝突事故などが起こらなくとも)漁船などが遭難している状況を探知したならば、巡視船や取締船がこれらの救助に当たるのも与えられた任務の一環である。

一方で、昨年12月20日に同海域で遭難した北朝鮮漁船の救難に当たっていたのは、韓国海洋警察庁の警備救難艦であった。両者が偶然に現場に居合わせたというのはかなり不自然であり、さらに付近に韓国海軍の駆逐艦が遊弋していたことがそれを助長していた。

そして、これを発見した海上自衛隊の哨戒機がこの駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けたという状況から、客観的に推察される韓国海軍などの行動については、昨年12月の拙著「韓国レーダー照射の動画公開で新たに見えた重大問題」で述べたとおりである。

以上のことなどに鑑みて、今回の事案がもたらす今後の影響について考えたいと思う。その前に、次の二つの報道をご覧いただきたい(引用部分は要旨)。

*9月17日付 朝鮮中央通信(参照リンク:中央日報

北朝鮮の外務省報道官は、「8月23日と24日に、我々の専属経済水域(排他的経済水域)に違法侵入した日本海上保安庁の巡視船や船舶がわが共和国の自衛的措置によって追い出された」と述べるとともに、「外交ルートを通じて、我々の水域に対する侵犯と我々の漁船の漁労活動に対する妨害行為が二度と発生しないように対策を講じるよう日本側に厳重に注意喚起した」と述べた。さらに、「我々が自国の水域から日本側の船舶を追い出したのは、正々堂々たる主権行使である」と強調した。

*9月26日付 産経新聞(参照リンク

8月23日午前9時ごろ、「能登半島沖約378kmの海上(日本のEEZ内)で日本水産庁の漁船取締船が監視活動をしていた際に、小銃で武装した北朝鮮の高速ボートが接近した。漁船取締船の連絡を受けた海上保安庁の巡視船が出動した後、同日午後1時ごろに北朝鮮側は無線交信により「領海」を意味する「テリトリアル・ウォーター(territorial walter)」という用語を使い、「即時退去」を要求したという。また、付近において、北朝鮮国旗を塗装した大型貨物船も目撃したとして、北朝鮮の公船か貨物船のいずれかが無線を発信したものと見られると伝えた。

朝鮮中央通信より引用

北朝鮮による漁業活動は、2014年1月に金正恩委員長が「新年の辞」において「水産業を発展させるべし」と言及するとともに、「漁獲戦闘」という「国民的漁業運動」の開始を宣言したことから、軍などがテコ入れして船舶や装備を近代化し、急速にその活動範囲を拡大し始めた。これによって、この「大和堆」周辺における違法な漁業活動についても、3年ほど前から急増し出したのである。

そして、これに触発された韓国も同海域周辺での漁業活動を活性化させ、同海域が竹島のEEZ内である事を前面に出して自国権益を強調し、「海洋警察庁の警備艦などを派遣するとともに、海軍の戦闘艦艇までこれに随伴させ始めた」というのがこれまでの経緯である。

今年に入って、海上保安庁や水産庁の厳格な取り締まりによって、昨年よりは北朝鮮の同海域における違法操業は減少している模様ではある。しかしながら、これらの漁業活動に軍の後押しも見受けられることから、今後は8月の事案のように武装した船舶などによるゲリラ的な行動が先鋭化する恐れもある。したがって、北朝鮮の違法漁船などへの対応には十分な注意が必要であろう。

加えて、現在の日韓関係を考えると、韓国も日本側の厳格な取り締まりに対抗して、自らの権益を主張して警備艦を増強したり海軍の艦艇を派遣することも十分に考えられる。海上保安庁や水産庁は、海上自衛隊とも緊密な連絡体制を構築するなどして、各省庁間で十分な連携を取った対処要領を確立しておく必要があろう。

我々は、当該海域においてすでに韓国海軍駆逐艦による「火器管制レーダー照射事案」という日韓間の「軍事的重大インシデント」が発生していることを決して忘れてはならない。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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