社外取締役を「お客さま」にしておく時代は終わったと思う

関西電力の金品受領問題は共同通信(毎日新聞)ニュースによって、新たなフェーズに入ってきたようです。この件はネットを注視していればすでに風評ベースでは出回っていたもので(ネットではもっと詳しい情報が「風評として」出ていますね)、私も当該ニュースに登場する企業のHPは2~3日前にチェックしておりました。

NHKニュースより:編集部引用

しかし、こうやってニュースになると「なるほど、ネット上の風評は結構真実に近い」と納得しますし、今後設置される第三者委員会(9日にでも委員が決定するようですが)は、かなり調査事実を広く捉えないと説明責任を果たせないように思います。風評からフェイクニュースと真実を見極めるのはけっこうたいへんかもしれません。

さて、この関電事件もそうですが、大きな企業不祥事が発覚するたびに「社外取締役は会見の直前までコンプライアンス問題を知らなかった」「取締役会では知らされていなかった」と報じられます。まさに「知らぬが仏」です。不正が発覚した企業において、「社外取締役さん方に相談したら『いますぐ公表せよ!』と言われるに決まってるから、とりあえず黙っておこう」というのが経営陣のホンネではないかと。

いや、もう少し遠慮気味に申し上げるならば「立派な社外取締役さんを当社の不祥事に巻き込んではいけない」という動機もあるかもしれません。いずれにせよ「取締役会改革」と言いながら、なかなか社外取締役が経営監督責任を全うできるような環境は形成されず、いつまでたっても「お客さま」として扱われる会社が多いのではないでしょうか。

「そんな受身でどうする!ガバナンス・コードでも社外役員の情報収集が大事と書いてあるではないか。監査役と連携するなりして自分から積極的に情報収集せい!」との意見も出てきます。もちろん正論ではありますが、事務局がリスク情報を掌握しているわけでもなく、また裁判上(下級審判例ではありますが)、取締役には社内調査権限はないとされていますので、実効性のある情報収集の手法というのも見当たりません。

ということで、社内の経営陣にとって「いやがうえにも」社外取締役に自分達の不利益情報を伝達せざるをえないような状況を考えたほうがよさそうです。

ところで、10月4日の第200回国会(臨時国会)の所信表明で、安倍首相は「会社法を改正します!社外取締役を義務付けて、経営の透明化を図ります!」と述べておりましたので、この国会で会社法改正法案が成立するかもしれません。この会社法改正では、社外取締役の選任義務付け(ただし上場企業・公開会社の取締役会)が明記されますが、併せて社外取締役に対して(一定の要件を満たせば)会社の業務執行を委託することを可能にすることも明記される予定です。

会社の利益と社内取締役(執行役)との利益が相反するような状況や、経営陣の指揮監督によらず独立性が求められる場面で、案件ごとの個別審議をもって(取締役会が)業務委託する、というもの。

どのような業務がこれに含まれるかは「社外取締役への業務委託基準」のような社内ルールをもって検討するのかもしれませんが、たとえば経営陣の不正に関する社内調査や社内処分を判断するための事実調査などは、まさに社外取締役さんが中心になるべき業務と言えるのではないでしょうか(先日のマツキヨとスギ薬局によるココカラファインとの提携争奪戦における独立委員会業務などもこれに含まれるのでしょうか)。

こういった社外取締役への業務委託の是非については取締役会で審議するわけですから、社外取締役さん方を「お客さま」扱いすることは、もはや許されないと考えます。安倍首相の所信表明にあるように「社外取締役を選任することで経営の見える化を図る」というのも「知らぬが仏」の状況を打破してこそ前進するのでしょう。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。