北朝鮮が発射した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)
北朝鮮の朝鮮中央通信は10月3日、国防科学院が同月2日に東部の元山湾水域で、新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3号」の発射実験に成功したと報じた。
河野防衛大臣も10月3日、弾道ミサイルが新型SLBMとみられるとし、通常の軌道で発射すれば射程は最大2500キロに達する準中距離弾道ミサイルの可能性があり、固体燃料推進方式であると明らかにした。
SLBMは、潜水艦発射型の弾道ミサイルであるから、地上発射型の弾道ミサイルに比べ、その所在や位置を含め、事前に発射兆候を把握するのが困難であり、日本のみならず、米国にとっても大きな脅威であると言えよう。
日本全土をカバーする地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」
「イージス・アショア」は、地上配備型迎撃ミサイルシステムであり、射程2000キロ、迎撃高度1000キロの新型迎撃ミサイルSM3 ブロック2Aを搭載し、24時間365日、大気圏外を飛行する高速の弾道ミサイルを追跡する高性能レーダーと、日本国内に向かってきた弾道ミサイルを撃ち落とす迎撃ミサイルから成る。
日本政府は、2017年12月「イージス・アショア」の導入を閣議決定し、秋田県と山口県の自衛隊演習場に配備する計画を進めている。海上に展開するイージス艦に比べて、地上配備型であるため、補給や整備が容易であり、切れ目のない監視体制を維持できるメリットがある。
米国からの導入費用は1基2000憶円、2基で4000憶円と
「イージス・アショア」による三段構えの日本防衛
「イージス・アショア」が導入されれば、① 海上配備型イージス艦、② 地上配備型イージス・アショア、③ 地上配備型迎撃システムPAC3による「三段構え」で、日本全土を弾道ミサイル攻撃から防御する可能性が一層高まる。
なぜなら、海上配備型イージス艦との連携による補完的重層的な対応が可能となり、弾道ミサイルに対する監視・追跡能力が格段に向上し、カバーできる迎撃範囲が拡大するからである。そして、迎撃ミサイルの絶対数も増加するから、日本の抑止力強化に明らかに有益である。
対中抑止力としても重要な「イージス・アショア」
「イージス・アショア」は、何も核保有国である北朝鮮による我が国に対する弾道ミサイル攻撃だけを対象とするものではない。核保有国であり軍事大国でもある中国による弾道ミサイル攻撃に対する迎撃能力の強化にも有益であり、対中抑止力としても不可欠である。特に、高性能レーダーによる対中監視機能は極めて有効であり重要である。
核保有国であるロシアは、我が国が「イージス・アショア」を配備することに強く反対しているが、これは「イージス・アショア」が有する高性能レーダーによる対ロ監視機能と、弾道ミサイル迎撃能力の有効性を認め、日本の対ロ抑止力強化を強く懸念するからである。
秋田県など地元の反対運動は日本防衛に極めて危険
「イージス・アショア」の配備については、秋田県などで地元住民などによる反対運動が起こっている。その理由とするところは、① 住宅地に近い、② レーダーの電磁波による健康被害の恐れ、③ 有事の攻撃目標になる、などである。
しかし、上記①は住宅地との一定の距離を確保し、②はレーダーの発射角度等による技術的対応が可能であり、③は配備により日本の抑止力が格段に強化されるから、むしろ攻撃そのものを防止することになる。
よって、地元住民の上記反対理由を、「専守防衛」を国是とし、1憶2000万国民の死活にかかわる日本の弾道ミサイル防衛の重要性と比較することは、到底相当とは言えない。万一、上記反対理由により「イージス・アショア」の配備を中止することは、北朝鮮、中国、ロシアを喜ばせるだけであり、日本防衛にとって極めて危険である。
北朝鮮の「SLBM」などへの対応
なお、前記北朝鮮による所在や位置などを探知し難い潜水艦による「SLBM」や、通常よりも高角度に発射するロフデット軌道ミサイル、同時多数発射、多弾頭ミサイルなどは迎撃困難とされているが、そのことを理由に「イージス・アショア」の配備自体が不必要になったとは到底言えない。
なぜなら、「イージス・アショア」を含む弾道ミサイル防衛システムの研究開発は日進月歩であり、近年における弾道ミサイル迎撃能力の向上も進んでいるからである。北朝鮮などの技術に対応し、「イージス・アショア」配備後の運用面において、日米共同による高性能レーダー機能の更なる強化、迎撃ミサイルの追尾能力の更なる強化、迎撃ミサイルの多数同時発射能力の更なる強化、などは今後の日米の共同研究開発により、技術的にも十分に可能である。
日本防衛に不可欠な「イージス・アショア」
以上に述べた通り、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」は、「専守防衛」を国是とする日本防衛にとって、1憶2000万国民の生命と安全を守る生命線であり必要不可欠である。よって、上記の理由により、日本の安全保障上、秋田県及び山口県に速やかに配備され運用されなければならない。
加藤 成一(かとう せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。