ピエール瀧出演映画の助成金取消:文化行政の差別的、排除的対応

田中 紀子

現在Twitterでも散々叩かれておりますが、この度の文化庁の蛮行にはまさしくはらわたが煮えくりかえっています。

何が起きたかと言うと文化庁所管の「日本芸術文化振興会」が、今年助成することを決めていた映画『宮本から君へ』の助成を取り消していたことがわかったんですね。

東京新聞:「公益性の観点から不適当」で助成拒否が可能に あいトリ補助金不交付決定の翌日、要綱改正:社会(TOKYO Web) 

しかもそれが、よりによって「ピエール瀧さんが出演していたから」ということなんですが、「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねず、公益性の観点から交付内定を不適当と判断した」

ってな、もうわけがわからん理由なんですよ。

はっ?
瀧さんが出ている作品のごく一部に、文化庁の助成金が出ていたとして、それが何故「国が薬物を容認している」なんてメッセージに繋がるんですか?しかも何故、薬物事犯だけにこのような仕打ちが許されるのでしょうか?

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こんな言い分がまかり通るなら、「すべての公金に対して犯罪を犯した人が一人でもいたら、その公金は支給しない」ということにしなければおかしいですよね。

政治家なんて度々、書類送検されたり逮捕されたりしてますけど、その度に政党助成金がカットされたりします?よしもと芸人だって反社会勢力との交流が明らかになってましたけど、だったらそっちも100億円の助成金とりやめないとおかしいですよね

それに、こんなこと言いたくはないですけど、だったらこの文化庁の上部組織である文科省の職員の方も覚せい剤で逮捕された件、そのために「文科省けしからん!予算カットしろ」ってなったんですか?誰もそんなこと思ってもいないですよ。あくまでも個人の問題と考えている訳じゃないですか。

自分たちの上部団体には触れず、一部の芸能人にだけ見せしめを与える、これが仮にも「文化」と名のつくところがやることでしょうか?

大体、この世には薬物依存症者が作った文化なんて、文学、美術、音楽、映画、様々な分野で沢山ありますよ。

その背景、薬物に耽溺するしかなかった生き様を含めて、愛されている訳ですよね。
太宰なんて我々文学好きから今も昔も愛される、最も有名な薬物依存症者じゃないですか。
文化を道徳概念の小さい枠にはめ込んでどうするんですか!?

その上、この取り消しを受けたのは本年7月の話だそうで、どうやら「あいちトリエンナーレ」の騒動にからめて、今頃この件が明らかになったようなんですけど、ピエール瀧さんはですね、6月18日にはすでに執行猶予の判決を受けていますからね。

執行猶予判決を受けているということはですよ、7月の取り消し時点で司法から、「今回、刑を執行するのはちょっと様子を見るから、社会でちゃんと更生するように。一定期間様子見て、その期間内にきちんと更生したなら刑の言い渡しの効力を失わせるからね」と言われたってことじゃないですか。

だとしたら「日本芸術文化振興会」は、日本の司法制度に対しても真っ向から否定していませんかね?

これ明らかに罪を犯した人の、更生を阻害する行為ですよ。

このようなことがまかり通れば、「一度でも薬物問題を起こしたなら、もうチームには入れない!」ってことになりますからね。

ただでさえ薬物事犯は再就職が厳しいのに、社会的排除が益々加速するじゃないですか。

むしろこの決定は、薬物問題に苦しむ人の、更生や回復努力を無にし、社会的な排除を加速させ、
薬物事犯がまるで重大な極悪人の様な誤解と偏見を増長させる最悪の決定です。

こんな薬物問題に対し差別を徹底させるというなら、この「日本芸術文化振興会」こそ不要です。
公益性について、もっと広い視野を学ぶべきです。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト