日韓首脳は“癒し”のペンパル?

韓国聯合ニュース日本語版を読んでいると、一つの記事が目に飛び込んできた。安倍晋三首相が30日、ソウルの長嶺安政駐韓大使を通じて母親を失った文在寅大統領に弔電を送った、という記事だ。文大統領の母、姜漢玉(カン・ハノク)さんは29日に南部・釜山市内の病院で死去した。

日韓関係が戦後最悪といわれるだけに、安倍首相の弔電のニュースは「日韓の歩み寄りの一歩」といった過大な期待の声さえ聞こえる。もう少し厳密に説明するなら、「過大な期待の声」が聞こえるのは日本側ではなく、韓国側でだ。

(2019年10月24日、李洛淵首相と安倍首相、官邸サイトより:編集部)

(2019年10月24日、李洛淵首相と安倍首相、官邸サイトより:編集部)

それに先立ち、即位礼正殿の儀に合わせて来日した韓国の李洛淵首相は10月24日に東京で安倍首相と会談し、文大統領の親書を手渡した。同親書には「安倍首相との日韓首脳会談を開催したい文大統領の希望が記述されていた」という。親書に対して、安倍首相は「日韓の関係改善のためには、韓国側が国際法を遵守することから始めるべきだ」という日本側の立場を改めて明確にし、元徴用工問題の解決のために韓国側の対応を求めている。

▲台風19号非常災害対策本部会議で語る安倍首相(首相官邸公式サイトから、2019年10月25日)

▲台風19号非常災害対策本部会議で語る安倍首相(首相官邸公式サイトから、2019年10月25日)

聯合ニュースによると、文大統領は10月14日、台風19号の被害を受けた日本国民に対し、安倍首相宛てに見舞いのメッセージを送っている。安部首相は23日、外交ルートを通じて謝意の電報を送ったという。

日韓首脳は1年以上、会談を実現させていないが、日韓首脳の書信交換は10月に入って頻繁に行われているわけだ。もちろん、書信交換が険悪化した日韓関係を解決すると期待するのは少々非現実的だろう。日韓関係の険悪化は韓国の徹底した反日外交攻勢が原因で、慰安婦問題、元徴用工の賠償請求問題など、過去の歴史問題が絡んでいるからだ。数回の書信交換で歴史問題が解決すると期待すれば、双方から笑われるだろう。

しかし、書信交換がまったく意味がない、わけではない。いがみ合い、無視しあっても問題の解決は期待できない。手紙、親書などを通じて語り掛けることは少なくとも建設的だ。

興味深い点は、日韓首相の書信交換が相手側の不幸、災害が契機となっていることだ。文大統領の母親の死は大統領にとっても悲しいことだ。その時、安倍首相がソウルの日本大使を通じて弔電を送った。一方、最大級の台風に遭遇し、多くの日本国民が亡くなった時、文大統領は見舞いのメッセージを安倍首相に伝えた。変な表現になるが、相手の不幸、悲しみ、災害が契機となって途絶えてきた日韓首脳の書信が始まったわけだ。

もう少し考えてみた。日本は今年もリチウムイオン電池発明者の吉野彰氏がノーベル賞(化学賞)を受賞した。このビッグ・ニュースは日本国民を喜ばしたことは言うまでもない。一方、平和賞以外に受賞歴のない韓国にとって日本人科学者のノーベル賞受賞は正直言って喜ばしいニュースとは受け取られなかっただろう。当然かもしれない。ライバル意識があればあるほど、やはり妬ましく感じるからだ。

しかし、相手の不幸や災害の犠牲者に対して、日本人も韓国人も政治的、歴史的いがみ合いを忘れ、相手に同情を感じ、連帯の思いすら湧いてくるものだ。人間に生来備わっているエンパシーだ。

「不幸や災害は意味がある」といいたいのではない。人間を対立させ、分裂させるものは、妬みであり、恨みだが、結束させ、連帯感を生み出すものは悲しみや痛みだという人間の感性を思い出すだけだ。

イエスは山上の垂訓で「悲しんでいる人たちはさいわいである。彼らは慰められるであろう」(「マタイによる福音書」第5章4節)と語っている。日韓両国間でもこのイエスの訓話は当てはまる。母親を失った息子、災害で家や家族を失った人々は必ず慰められ、慰霊してくれる人が民族を超え、国境を越えて現れてくるのだ。

文大統領の母親の死、台風19号の大災害もやはり同じだろう。中国の四川大地震(2008年5月12日)で多くの犠牲者が出たとき、日本側は緊急支援を行った。その時、中国共産党政権は謝意を表明している。痛みや悲しみを慰めてくれる言動は相手の心を動かすものだ。その意味で、安倍首相が文大統領の母親の訃報に対し弔電を送ったことはささやかな行為だが、相手の痛みを癒すメッセージとなったのではないか。大げさに表現すれば、“不幸”が取り持つ人間性の発露だ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年11月1日の記事に一部加筆。