既得権益にしがみつく御手洗キヤノン、落城間近か?

長井 利尚

2019年10月24日、キヤノンは、デジタル一眼レフカメラの次期旗艦機「EOS-1D X Mark III」を開発中であることを発表した。10月29日、日刊工業新聞は、このカメラの発売時期を「2020年初頭」と報じている。

EOS-1D X Mark III(キヤノンヨーロッパ公式サイトより:編集部)

ソニーのフルサイズミラーレス一眼旗艦機の2代目となる「α9 II」発売の11月1日の直前にこのような開発発表を行うことで、キヤノンを見限ってソニーへ乗り換えるカメラマンを少しでも減らしたいというキヤノンの意図は明白だが、一眼レフという既得権益にしがみつき、ミラーレス一眼への移行を意図的に遅らせた御手洗キヤノンの失策は挽回できないだろう。

開発発表であるので、まだ、詳細が未定な部分もあるが、「EOS-1D X Mark III」のスペックを確認してみよう。

CMOSセンサーと映像エンジンは新開発となるが、スペックは未定なので論評できない。HEIFファイルへの10bit静止画記録に対応しているのは、JPEGとRAWのみに対応している「α9 II」にはない特徴だが、「α9 II」でも、RAWで撮影後にPC等で「現像」するなら全く問題ないはずだ。動画撮影では、4K記録時に60pを選べることが、30pまで対応の「α9 II」を上回っている。また、動画撮影でもRAWで記録できるのは、「α9 II」にはない特徴ではある。

光学ファインダー撮影時に、AF・AE追従で高速連写16fpsを達成し、現行の旗艦機「EOS-1D X Mark II」の14fpsを上回っている。「ライブビュー」撮影時には、「α9 II」と並ぶ20fpsを達成していることと、「撮像面の約100%(縦)×約90%(横)の測距エリアでAF 可能」であることがプレスリリースには誇らしげに書かれているが、時にイレギュラーな動きをする被写体を撮影するスポーツカメラマンからすれば、これは噴飯物だ。

「ライブビュー」というのは、デジタル一眼レフカメラにおいては、以前の記事で書いた「ミラーアップ」と同義と考えていただいて差し支えない。光学ファインダー撮影時には、ミラーが一眼レフカメラ内で上下に動くが、ミラーを跳ね上げた状態で固定し、光学ファインダーへの光を遮る。レンズから取り入れた光を、イメージセンサーに当てて、背面の液晶ディスプレイを見ながら撮影する方法だ。

カメラを持つ時に、ブレを最小限に抑えるには、「3点支持」が重要だ。右手、左手、顔の3点でカメラを支えれば、被写体の予期せぬ動きにもレンズを追従させやすく、安定性も確保できる。

「ライブビュー」撮影の場合、カメラ背面上部の光学ファインダーが真っ暗になって使えないため、背面の液晶ディスプレイを見ながら構図を確認し、撮影することになる。背面の液晶ディスプレイに顔を押し付けて撮影することは非現実的であるため、どうしても、ある程度は顔から離すことになる。なので、右手、左手、顔の3点でカメラを支持することが不可能になる。

「ライブビュー」撮影の際には、三脚にカメラを固定することが一般的だ。風景写真や、鉄道写真など、被写体がイレギュラーな動きをする可能性が少ない撮影の場合には、カメラを三脚に固定するのは問題ない。しかしながら、被写体の動きを読みにくいスポーツ撮影には、「ライブビュー」撮影は最も向かないと断言しても良いと思う。

私がスポーツカメラマンなら、来年の東京五輪に使うカメラは、「α9 II」を選ぶ。撮影に失敗の許されないスポーツカメラマンは、5台くらい同じカメラを揃えるのが一般的だ。50万円以上する「α9 II」を5台買えば、250万円を超える。

ソニーは、スポーツカメラマンだけでなく、鉄道カメラマンにも、自社製品への乗り換えを促している。長年ニコンの一眼レフを使ってきた吉永陽一氏は、もうニコンには戻らないのではないだろうか。私自身、「EOS-1D X Mark III」には全く魅力を感じないが、発売前に試用してきた「α9 II」には大きな魅力を感じた。

キヤノンは、一眼レフの旗艦機のモデルチェンジを諦めて、2021年とされるフルサイズミラーレス一眼旗艦機の投入を前倒しすることに経営資源を配分すべきであった。長年、カメラ市場に王者として君臨してきたキヤノンの落城は間近に迫っているように感じる。諸行無常だ。

10月28日、キヤノンは、今年3回目の業績の下方修正を発表した。キヤノン大株主の機関投資家は、今日の惨状を招いた御手洗冨士夫CEOを解任すべきだ。日本経団連会長経験者を解任することにビビっているようでは、機関投資家としての責任を果たしているとは言えず、日本経済への悪影響が大きい。

なお、私は11月1日から、芸能プロダクション・株式会社カロスエンターテイメントと専属契約を結んでタレント活動をすることになった(こちらのページ)。時代遅れのやり方にしがみついてきた、社歴の長い日本企業の惨状は目に余る。古い体質を改めず、問題の先送りをする企業は、大企業といえども先が長くない。

令和の時代には、忖度抜きで議論をして、社会を良くしていきたいと思うので、私を論客として起用したい方は、ぜひ事務所に問い合わせをしていただきたい。講演依頼等も大歓迎だ。

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo OfficeAmazon著者ページ