MMT理論は、従来の積極財政の別表現に過ぎぬのでは?

米国で論争となり日本でも中野剛志氏等が盛んに喧伝し話題となったMMT(現代貨幣理論)については、まだ評価が定まっていない感がある。

MMTの提唱者として知られるステファニー・ケルトン教授(公式サイトより:編集部)

先月30日には、無所属の馬淵澄夫・元国土交通相とれいわ新選組の山本太郎代表が立ち上げた「消費税減税研究会」の初会合が開かれ、減税財源策として再びMMTが注目を集める可能性も出てきた。

MMT主張の要旨は、「日本や米国のように『通貨主権』を有する政府は、自国通貨建てで支出する能力に制約はなく、デフォルトを強いられるリスクもない。財政赤字や国債残高を気にするのは無意味である」という事のようだ。

従来の積極財政論とMMTを分かつのは、前者が経済成長を経ての財政改善を一応想定している事だろう。平成の田沼意次こと亀井静香氏ですらその点は押さえていた・・・否、亀井さんは少し怪しかった。十数年前に亀井氏応援のオフ会に参加した際、筆者が公共事業の次を語るべきでは? と水を向けたところ、結局亀井氏は合点の行かぬ表情をしたまま帰って行った。

亀井静香氏(Wikipediaより:編集部)

亀井氏の事はともかく、大方の積極財政論者は、景気回復を経ての財政改善を少なくとも建前としては一応想定しているだろう。

一方のMMTではそれを想定していないが、積極財政に当たっては「ハイパーインフレにならない限りは」という条件が付く。

ここがMMTのパラドキシカルというかトリッキーな部分であり、最大のキモだ。

MMTではハイパーインフレになりそうになったら増税等をするとしているが、現実政治でそんなにタイミング良く増税可能なのかと議論になっている。しかしより肝心な問題は仮に増税等が出来たとして、それを続けていたら単なる緊縮気味の財政となってしまうという事だ。そのためMMTは、増税の伝家の宝刀を抜く寸止めの所で薄氷の積極財政を行う事を想定していると思われる。

そして結局、「ハイパーインフレにならない限りは」の条件を中長期でキープするためには、将来の経済成長に基づく財政改善を想定した政府中央銀行の信用維持が必要となるだろう。そうなるとMMTは従来の積極財政論(念のため亀井氏は除く)と同じ事の別の表現であるという結論に至るが、如何なものだろうか?

消費者心理は消費税増税のダメージを受けながらも、このところ日経平均株価は続伸するという不思議な現象が続いた。長期に渡った安倍政権も閣僚辞任に繋がる不祥事や失政が続き、少し屋台骨が揺らいできた風情だ。

一葉落ちて天下の秋を知る。

経済成長に基づく国家再生の具体図と実現という王道が望まれる。


佐藤 鴻全  政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
HP:佐藤総研
Twitter:佐藤鴻全