桜を見る会「前夜祭」の不自然な会計処理

池田 信夫

野党とマスコミは「桜を見る会」の疑惑で盛り上がっているが、決定的な話は出てこない。確かに公費で首相の後援会の関係者を800人以上も招待したのはいかがなものかと思われるが、違法ではない。来年は中止すると決めたのだから、再来年どうするか安倍首相がゆっくり考えればいい。それだけの話である。

ホテルニューオータニと桜を見る会(Wikipedia、官邸サイトより)

問題は、その前日にホテルニューオータニで開かれた「前夜祭」だ。5000円という会費が格安だというのは、宿泊費込みで考えるとホテルの営業上の問題に過ぎないが、その会計処理が異例である(少なくとも一般人には不可能だ)。

首相はぶら下がりで「費用は会場の入り口の受け付けで安倍事務所の職員が1人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交した」と説明したが、 これは不自然である。一流企業が入金もない(人数も確定していない)のに約800枚も領収書(宛名は空白)を発行することは、通常は考えられない。

赤旗によると、ニューオータニの「宴会・催事規約」には「ホテルから提示いたしました見積総額を、原則として宴会場ご利用日の30日前までに現金又はお振込みにてお支払いいただきます」と書かれているので、ニューオータニは規約に違反して安倍事務所に便宜をはかったことになる。

これは上得意に対する特別サービスとして考えられないわけではないが、政治資金規正法の趣旨に反する。首相は「前夜祭の代金は政治団体である安倍晋三後援会が支払ったのではなく、あくまで参加者個人がホテル側に支払う形になっていた」というが、この説明はおかしい。

ホテルが入金なしで5000円の領収書を800枚発行したとすると、その段階で安倍事務所はホテルに対して400万円の債務を負う。この債務を参加者個人が返済することはありえないし、人数も確定していない。そのリスクはどっちが負うのか。

前夜祭の主催者は安倍事務所なので、収支の責任者は安倍事務所である。郷原信郎氏も指摘するように、「この「支出」と「収入」の両方を、政治資金収支報告書に記載」するのが、政治資金規正法の想定している手続きである。

しかも何枚領収書を発行して入金がいくらあったのか、安倍事務所には明細書もないという。ホテル側には(少なくとも総額の)明細書があるはずだが、菅官房長官は「営業上の秘密」なので明細書の開示を求めないという。これも奇妙な話である。

こういう細かい金の出入りをいちいち報告書に記載する手間を省くために、参加者がホテルに直接はらう形をとったのだとすると、 これは政治資金の流れを隠す脱法行為である。安倍事務所が日ごろからこういう奇妙な処理をしていたとすれば問題がある。

ただこれはその程度の話であり、国会で審議するような問題ではない。それより「真水で10兆円」ともいわれる補正予算の中身のほうが、国会としてはるかに重要だ。桜を見る会と前夜祭について首相がきちんと記者会見で説明し、政治資金報告書を修正して早く決着をつけたほうがいいのではないか。