中小企業の存在意義

日経ビジネスの特集に「中小企業、本当に要らない?」という特集があります。本文では中小企業の功罪について様々な方面から検討していますが、私の読んだ限り、日経ビジネスでは必要と判断してくれたようです。

写真AC:編集部

中小企業が邪魔者扱いされやすい理由の一つに不信感があるのだろうと思います。税金をちゃんと払っていないのではないか、効率的に仕事をしていない、ある特定分野の既得権だけにしがみついて成長がない、従業員の給与や福利厚生が劣る…といった具合にかなりネガティブなイメージがあるかもしれません。

しかし、そんなに居心地悪い会社ならばそもそも存続していないだろうし、従業員もついてこないかもしれません。労働者層のすべてがテレビドラマに出てくるようなエリート社員ではなく、自分の慣れ親しんだ会社で家族のように過ごす中小企業に温かみを感じる人もいるでしょう。

2週間ほど前、いつも行く日本の美容室でカットしている間に駄話をしていたところ、オーナーの方が「うちの会社の忘年会は毎年、自腹では絶対にいかないところに行くことにしているの。今年はフグよ」と。更に「年に一度ぐらいは自分で払えないような店で思いっきり会社のお金、使いたいじゃない」と言われてここの従業員さんも幸せだなと感じました。

大手企業だとこうはいきません。大体事務所で飲むお茶代(コーヒー代)も自腹で部内で月いくらといった具合に集めているところも多いかと思います。大手の福利厚生と中小のそれとは違う次元なのだろうと思います。

かつてNHKの「社食」の番組で様々な会社のランチを取り上げて紹介していたのですが、わたしは大手の立派な社員食堂より5人、10人しかいない会社で賄いを工夫して作っている中小企業さんの方がよほど楽しそうだと感じました。社長さんが11時過ぎから自慢の料理で社員さんへの賄いを作り、全員で楽しそうに食べていたシーンは非常に印象的でした。

日経ビジネスではメーカーの二次、三次下請けの製造能力に支えられているところもある、と紹介しています。建築現場で鉄骨などを留める高力ボルトの製造が足りない例も挙げられています。それらの技術は東大阪や東京蒲田といった町工場が持つ高い技術力が頼りです。ところが高齢化で廃業の一途となり、帝国データバンクの調べでは140万社のうち31万社が廃業の危機にあるとされています。

私はそれ以外に消費の面でも中小企業の面白さがあると思います。最近、ショッピングモールや地下街に行けば見たこと、聞いたことがある店ばかりなのです。正直、どこの街にも同じ店があり購買意欲をそそらないのです。それは同じ店があるだけではなく、ディスプレーも同じ、レストランなら店構えも全部同じなのです。スタバも吉野家もいきなりステーキも店の名前を見なくても店舗デザインだけで店が分かってしまいます。これではつまらないのです。

それより商店街で「へぇー、こんなもの売っているんだ」という店舗の個性がもっと面白いです。飲食店もセントラルキッチンで作ってきたものを再調理するチェーン店ではなく、一から作り上げている町の食堂や商店に発見があり、当たりはずれもあり、楽しいのです。昔食べた肉屋のコロッケ、これなんです。

一般的には中小企業の問題点の一つに経営効率と納税が上がると思います。ただ、経営効率については一概に言えない部分があります。というのは私の見る限り「成長することはいいことだ」とは思っておらず、NPOのごとく、「今のままの大きさでもいい、みんなで食べていければそれでいい」と考えている日本型社会主義の典型のような経営者は案外多いのです。

また、中小企業が法人税を払っていない点についてはかつての自営業に毛が生えた身内企業が営業利益を帳消しにするように給与所得と経費を使うように調整しているところが多いのだろうと思います。

ただこれもだいぶ前に税務会計の大御所からも聞いたことありますが、法人税で取れなくても所得税で取れるし、使ってくれれば消費税でも取る、仮にしこたま貯めていても相続税で最後はイチコロだそうです。

中小企業はある意味、独創の世界。この芽を摘んでしまっては日本の基礎力は弱まると思います。西欧は資本の力で淘汰する動きがありますが、私は必ずしもそれが正解だとは思っていません。いや、私が中小企業だからそういうのだろう、って。これはポジショントークではなく、中小企業経営者としての主張なのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月16日の記事より転載させていただきました。