高齢読者におもねり、未来を考えない朝日新聞

山田 肇

12月10日から3日連続で『ハンコの逆襲』と題する連載が朝日新聞に掲載された。記事を読んで朝日新聞の姿勢に改めてがっかりした。

24時間以内にオンラインで法人設立登記を完了させるため、印鑑届け出義務を失くそうという安倍政権の成長戦略にハンコ業界が激しく抵抗した。「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」会長の竹本直一衆議院議員(現IT担当大臣)らが動き、印鑑は残したまま、電子データ化した印影をオンライン申請で使えるという妥協点で決着した。

同様に、公証人による定款認証も必要ないとされたのに、オンライン面談を残すことで決着した。3日分の記事を要約するとこれだけだ。

新聞通信調査会が行った『メディアに関する全国世論調査』の結果を、産経新聞が報じている。新聞はNHKテレビを上回り、最も信頼できるメディアと評価されたという。不思議に思い元データを調べたところ、全回答者3051名のうち50歳以上が1767名(うち、70歳以上が739名)という高齢に偏ったサンプルからの回答を単純平均しただけだった。多数派の高齢回答者が新聞を信頼できるとしたので、それよりも若い層の評価はかき消されたのである。

朝日新聞の連載は朝日新聞を信頼している高齢読者のために書かれた。だから、ハンコや定款認証という旧来の制度が残されたことに疑問を呈していない。毎日新聞が規制改革を批判するのも同じ。旧来の過剰規制が心地よい読者のために記事は書かれているから、と解釈できる。そんな読者は新聞を信頼するだろうし、新聞通信調査会のアンケートにも好意的に回答するだろう。

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しかし、社会は急激に変化し生産年齢人口の減少は続いている。「稼ぐ仕事」にできる限り多くの生産年齢人口を振り向けないと国力は低下するから、稼ぎを基に徴収した税金で雇用する行政職員数は、生産年齢人口の減少率よりも大きく減らさなければならない。

そんな未来が予見される中で、人手を介しての法人設立登記はいつまで維持できるだろうか。少なくなった行政職員が過剰規制に対応できるだろうか。

未来を考えれば電子化は必然だし、行政改革も必須である。そこに視野を向けず旧来の仕組みを守ることを優先する朝日新聞は、高齢の購読者が世を去るにつれて滅亡するしかない。

山田 肇  情報通信政策フォーラム(ICPF)理事長/東洋大学名誉教授