国際興業裁判続報 ~小佐野隆正ついに登場~

2019年12月25日 06:00

ども宇佐美です。

おそらく今年最後の記事になりますが、長らく追っている国際興業を巡る小佐野家のお家騒動について続報です。(これまでの経緯については前回の記事などご参考にしてください。)

去る12月2日に東京地裁にて本件に関して小佐野隆正への当事者尋問が行われました。

小佐野隆正氏(国際興業公式サイトより)

いよいよこの612億円超にも及ぶ損害賠償請求事件の被告、国際興業の代表取締役会長の小佐野隆正本人の登場とあって、法廷は満員で開廷前から緊張が漂っていました。

私自身も隆正を見るのは初めてのことでして、事前には彼の所業を踏まえ私は隆正をいわゆる“黒幕”という言葉が似あうような知恵と威圧感を兼ね備えた大物然とした存在を想定していたのですが、蓋を開けてみれば「無邪気で無能で自己中心的」という言葉がぴったりの人物でした。

。。。。あんまり人のことを悪く言いたくはないのですが、いや本当に驚くほど「無邪気で無能で自己中心的」でした。。。

と私見を述べてしまいましたが、今回は御大隆正の登場ということで、長くなりますが法廷でのやり取りを、私のメモの範囲でそのまま伝えることとしています。

1. 証人尋問の論点

前置きが長くなりましたが、そろそろ本題に入りまして、隆正の発言を読み解くためにもまずは(私から見た)当日の論点を整理することから始めたいと思います。

1点目としては事実認定の問題でして「小佐野隆正がどの程度この一連の詐欺的行為に携わっていたのか」ということです。

これまでの裁判において
「小佐野隆正の部下にあたる人物や代理人の立場にあった弁護士が、原告である小佐野政邦一族に虚偽の説明をして不当に株式を放棄せしめたこと」や「ファンド(サーベラス)に隆正のみが国際興業再建の利益を独占するスキームを進めるよう働きかけたこと」
はほぼ事実として確定しています。

問題はそれらが「果たして小佐野隆正本人の意向で進められたものなのかどうか」ということです。

続いて2点目としては損害賠償の金額にかかわる論点でして
「小佐野隆正が国際興業の再建に貢献したので国際興業の価値を上がったのか、国際興業のもともとからある潜在価値が実現しただけなのか」
ということです。

小佐野隆正が国際興業の再建を通じて得た財産は1200億円強と推定されますが、「果たしてこうして得た財産は本人の経営者としての手腕を通じて得られたものなのか?」という点です。

原告らは当然「国際興業の再建は、ファンドによる実質約1500億円の債権放棄等の財務的支援と国際興業の優良資産の売却やそれを活かしたファイナンスが主因であった」という主張しているわけですが、これに当日隆正側がどう反論するかが注目されるところでした。

ただ、隆正および隆正の弁護士は、「100%減資により政邦一族は国際興業から排除することになっていたので、実質的な約1500億円の債権放棄等のサーベラスの財務支援等により直後に会社が劇的によくなることは、原告らに一切説明しなかった。」と、驚くような陳述をしていました。

要するに、政邦ファミリーに無理やり株式を手放させるためには、「国際興業がファンドの支援により良くなることを知られることなく、さまざまな脅迫のような説明をする」ということしかなかったという背景が、明確に印象付けられました。

2. 小佐野隆正の主張 ~悪意はなかった、仕方なかった、知らなかった~

では当日の裁判ではそれぞれの論点について隆正がどのように話したか、ということについてここから述べていきたいと思います。。。まぁこれがひどかったのですが。。。

まずは一点目の「小佐野隆正の一連の詐欺的行為にどの程度関与したのか」という点についてですが、この点について隆正は「とぼける」ということを徹底する“つもり”でいたようで被告側の証人尋問では以下のようなことを主張していました。

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・政邦一族を含む既存株主の権利を一定程度残す再建スキームを考えたこともあったが、経営責任を明らかにする観点からりそな銀行によって否定された。

・りそな銀行が既存株主が権利を放棄する100%減資を求めて譲らなかった。経営責任は前社長である政邦のみにあり、経営破たんの責任がある政邦の遺族は経営から退場するというのが“世間の常識”だった。

・私は(“政邦時代に副社長ではあったが”)経営責任はなかったので再出資が認められた。各方面に働きかけて政邦一族を意図的に追い出そうとしたわけではない。私の再出資は、銀行およびサーベラスが決めたもので、私の意向ではない。結果的に、たまたま私が独占する形になっただけだ。

・政邦一族に対して、交渉過程で説明しなかったのは、資金ショートが目前に迫っていて説明する時間がなかったためであった。りそなの意向を踏まえたサーベラスの提案に乗るしかなかったし、サーベラスとの条件交渉余地はなく仕方なかった。

・私の代理人である池田弁護士(故人)が政邦一族に虚偽の説明をしたのは、彼が勝手にしたことで私のあずかり知るところではない。
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。。。まぁ一言でいえば「オレは悪くない。政邦一族への悪意はなかった。自分が株式を持つのは銀行とサーベラスが決めたもの。政邦一族が一方的に不利益を被ったのは時間が限られた中での出資交渉の結果で仕方なかった。部下や代理人が政邦一族をだましたり自分のために行動したりしたかもしれないがオレは知らない。」といったところでしょうか。

3. 原告側の隆正に対する追及

上記のように事実認定の部分に関してはそれなり(?)に対策をしてきた隆正側ですが、二点目の損害賠償額にかかわる「隆正の経営者としての関与」に関しては特段議論武装をしてきませんでした。

これはこの論点が「負けるという前提での論点」ですし、そもそも後述するように隆正の経営者としての能力そのものが疑わしいので仕方ないといったところでしょう。

ここから被告側を追い詰める原告側のターンです。原告としては隆正の
・(政邦一族への)悪意はなかった、
・(出資交渉で追い詰められ)仕方なかった
・(部下の行動には)関与してなかった

という主張を崩したいわけですが、それぞれに関して印象に残ったやり取りは以下のようなものです。

===============================
① 「(出資交渉で追い詰められ)仕方なかった」という点について
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はじめに「(出資交渉で追い詰められ)仕方なかった」という主張についてですが、隆正側の「悪意はなかった、仕方なかった」という主張は連動しており、まずこの点について隆正側の理屈を原告側は覆したかったはずです。

隆正の論理としては「出資交渉の時間がなかったので、りそなの言うことを聞かざるを得ず、政邦一族が不利益を被ったのは仕方がなかった。私は国際興業の再建を優先させただけで、悪意はなかった」という論理構造なので「まずは出資交渉には十分な交渉余地もあったはずだ」と原告は議事録など証拠に照らし追及していきます。

この点隆正は終始とぼけることに努力していたのですが、それでもかなり突き崩されまして、印象に残ったやり取りは以下のようなものでした。

<2004年7月のサーベラスへの独占交渉権付与を役員会にかけなかった経緯について>
(原告)別件訴訟の中で様々なファンドが国際興業再建の支援の興味を持っていたことは明らかになっている。それにも関わらず、取締役会も開かずにサーベラスに独占交渉権を付与するような重大な契約を進んだのはなぜか?当時監査役だった小佐野千砂(政邦一族)氏に知られるのが嫌で隠そうとしたのではないか?

(隆正)正直、もうどんどん進めるしかないと思った。
千砂は役員であったけどそのような話をしても理解できないし、役員会にも出席していなかったから、説明しても意味がなかっただろう。

(原告)勘違いしているようだが私が聞いているのは株主としての千紗氏の存在の意味だ。大株主である千砂氏への説明からあなたは逃げたのではないかということを聞いている。あなたの理由はその程度しかないのか?

(隆正)はい。。。

<りそなとの株主責任に係る交渉余地について>
(原告)あなたは「りそな銀行が経営責任を明らかにする立場から100%減資を求めた」と主張しているが、りそな銀行は9月の段階のうちあわせで「経営責任と株主責任はおのずと異なる」と話している。これは承知しているか?

(隆正)受けていると思います。

(原告)他にもりそな銀行は「商法上株主平等という大原則があり、株主により扱いの差は偏頗つけにくい」というような発言をしているがこの報告は受けているか。

(隆正)受けているが、、、

<サーベラスとの交渉余地について>
(原告)あなたは時間がなくてサーベラスとは交渉余地がなかったと主張しているが、現実にはサーベラスがあなたに示した新会社への再出資割合は、当初は1/3未満だったのが、第二提案書では35%、しかもオプションの10%までついている。これは国際興業とサーベラスの交渉による成果ではないのか?

(隆正)いいえ。

(原告)ではサーベラスが勝手にくれたということか?

(隆正)そういうわけではないが。。。

(原告)では交渉したということですね。

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② 「(部下の行動には)関与していなかった」という点について
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続いて「(部下の行動には)関与していなかった」という隆正の主張についてですが、これは原告側としては隆正側の不自然な点を突けばいいわけですが、印象に残ったやり取りは以下のようなものがありました。

<りそな銀行との不自然なやり取りについて>
(原告)9月のりそな銀行と国際興業の面談では、あなたの直属の部下が「現在(再出資の)35%を取得すると考えているのは隆正氏と会長夫人(小佐野英子氏)である」と発言しているようだけれど、あなたは部下を使って最初から政邦氏一族を株主から排除しようとしたのではないですか?

(隆正)いいえ、そのようなことはない。とっさに祖父江君たちが経営責任のない2名として私と英子さんの名前をだしただけだ*
*なぜ一会社員である祖父江さんが「隆正と会長夫人に経営責任がないので、隆正と会長夫人だけが株主として存続し、政邦一族は排除」などと判断できたでしょう。。。

<りそな銀行との不自然なやり取りについて②>

(原告)国際興業の社員が同社の顧問弁護士に11月に説明した際に、国際興業から「経営責任について、現在は何とか責任追及を控えるまで持ってきた状況にある」と資料を用いて説明している。これは誰の働き掛けによるものか?

(隆正)りそな銀行の石村氏の働き掛けによるもの*

(原告)質問の意味が分かっているのか。責任を追及する側のりそなの態度が変わったのはなぜか、と聞いている。

(隆正)りそなの中の話しだ*
*補足:ここで法廷が一時騒然となる。もしこの隆正の認識が本当なら経営責任を追及する側のはずのりそな銀行の石村氏が国際興業の意をくんで動いたことになる。そうなると、隆正側の「りそな銀行が経営責任を追及していた」という主張が崩れてしまうため。
*補足:ここで法廷が再び騒然となる。他方で隆正は弁護士の振り付け通りに返答していたのか、なぜ法廷が騒然としているのか理解していない様子だった。私見だが隆正側の弁護士としては「りそな銀行との交渉余地があった」とは認められないためこのような無理な答弁をさせたと思われる。

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③ 「(政邦一族への)悪意はなかった」
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最後に「悪意はなかった」という点についてですが、この点については「隆正が故意に政邦一族への説明を遅らせたのではないか?」という点から以下のような追及がありました。

<100%減資スキームの政邦一族への説明が遅れた理由について>
(原告)9月21日にりそな銀行から100%減資を明確に言われた(ことが仮に事実として)その時点ですぐに大株主である政邦一族に説明しに行かなかったのはなぜか?

(隆正)資料もないあやふやな状態*で説明しに行くわけにはいかないと思った。もしも間違っていたら大変なことになるので。

(原告)では9月21日から10月28日まで一か月以上も政邦一族に対して何も説明しなかったのはなぜか

(隆正)それはいろいろ資料作成やマスコミ対策や資金繰りの問題を検討していたからで、10月27日になって初めて財務省に説明した。

(原告)サーベラスから第二提案書を受けたのが10月13日で、その段階で政邦一族に再出資なしの100%減資に応じさせる前提で話を進めているが、一人でも株主が反対したらこのスキームは崩れていた。その場合あなたはどうするつもりだったのか。国際興業を破綻させるつもりだったのか。

(隆正)いいえ、やれると思いました*
*補足:今に至るまで「りそな銀行が100%減資を求めた」という正式な資料はなく、先の証人尋問に出てきたりそな石村氏も、りそな銀行が関わるいかなる契約書にも100%減資を条件とする条項はなかった旨証言している
*補足:その後11月8日から池田弁護士の虚偽説明による政邦一族への脅しが始まる

4. 隆正の経営者としての才覚(運がよかった)

と以上長々と事実認定に関する当日の法廷の様子をまとめましたが、これらの判断は読者の皆様に任せるとして、2点目の損害賠償額の算定に係る隆正の経営者としての資質、国際興業の再建を通じて彼が得た利益、に関するやり取りを紹介したいと思います。。。これがまぁひどいものだったのですが。。。

国際興業本社(Wikipediaより)

<国際興業の経営再建の最大の要因は「運がよかった」>
(原告)あなたは別件のあなたが起こした株主代表訴訟で,「サーベラスは企業を再生するというより,資産を売却して自分の出した投資を回収するということしかやってないと私は思います。」と回答しているが、国際興業が再建したのはもともと持っていた資産の含み益が実現したからということか。

(隆正)社会全体の経済情勢が改善して、運がよかったということだと思う。サーベラスの経営改善効果はない。

(原告)ではあなたは国際興業の経営再建が資産売却だけでできることを予測していたのではないか?それにも関わらず自らの利益を最大化するため国際興業の資産価値を不当に低く算定しようとしたのではないか?

(隆正)いいえ、そのようなことはない。

(原告)同じ訴訟であなたは「2004年の段階でサーベラスに910億円儲けさせるための取引をした」と主張しているが、あなたはそのことを覚えているか?

(隆正)覚えていません*
*補足:ここで「自ら原告となった裁判で自ら主張したことを覚えていない」という隆正の主張を受けて法廷が騒然とする。

<隆正が国際興業の再建で得た利益について>
(原告)あなたはサーベラスの参入から退出までの間に国際興業から227億円の配当を受けていますよね?
(隆正)はい

(原告)あなた個人は今年、国際興業から間接的に4億円を配当として受けとっていますよね?
(隆正)はい、貰える状況だったからもらったまでです。

(原告)同じくサーベラスが退出した平成26年から平成29年までに約9億円の配当を受け取っていますよね?
(隆正)はい

(原告)あなたは自社の支配下の法人(国際興業ホールディングス)の株を国際興業に370億円で買い取らせましたよね
(隆正)はい

(原告)あなたはサーベラス参入後も、株主代表訴訟を起こすまでの間、国際興業にから年間で2億円以上の報酬を受けっとっていましたよね
(隆正)はい

(原告)あなたはサーベラス参入以前も、会社の財務状況に関わらず、国際興業にから年間で2億円以上の報酬を受けっとっていましたよね
(隆正)はい

(原告)現在あなたは国際興業の関連グループから年間いくらぐらいの報酬をもらっていますか
(隆正)年4〜5億円です

(原告)小佐野ファミリーの中でこうした多額の配当を受けたのはあなただけで、これはあなたの経営能力と求心力から当然と思っていますか
(隆正)経済情勢がよくなって、会社の業績がよくなったので、今こうなっているのだと思います。

(原告)これらの利益は本来、小佐野ファミリーで享受すべきものと思いませんか
(隆正)もともと経営破たんの原因を作ったのは政邦氏で、あのとき100%減資に一族が同意したのだから、その話は終わったものと思っています。

*補足:先ほどの今年は個人で4億円受領したという配当とは別に、役員報酬のみで

他にも、自分たちが本件訴訟の準備書面で行ってきた主張をひっくり返すような答弁を何度かし、その都度突っ込まれるも「正直、自分らの準備書面もいちいち読んでいない」と開き直り、傍聴席の人々は、ただただ隆正の経営者としての無能さに呆れ果てていたというのが、実態でした。

更には「契約書もいちいち読んでいない」と開き直り、特に、国際興業とサーベラスとの合意書に何度も登場する「小佐野ファミリー」という言葉について、「それは自分と小佐野英子さんのことだと思います」と答えておきながら、そうなると同じ契約書の中の明らかに原告らも関係する条項がワークしないことを指摘されると、結局、原告らも含まれるかということについて「・・・かもしれません」などと答えていました。

契約書の内容も理解できない、そもそも読もうとすらしない取締役が、一体どうやって株主に対して取締役の忠実義務に足る説明ができるのか、不思議でなりません。

5. 今後について

以上長くなりましたが、裁判の当日の生々しいやりとりをまとめてみました。

みなさんがこれをどう思うかわかりませんが、改めて個人的に思うことは、冒頭に述べたように「小佐野隆正という人間は驚くほど“無邪気で無能で自己中心的”だった」ということです。私見ではありますが、裁判官もあきれを隠せない様子でした。

最後に裁判官から、ついにようやくですが、「3月までは和解の試みをするが、この件は判決になる可能性が高いだろう。基本的に3月には結審とし、その後何か月かで判決を出すつもりだ」との言及がありまして、5年にわたったこの裁判もようやく終わりを迎えそうです。一応裁判所から和解提案はするようですが、それぞれの様子を見る限り実現しなそうではあります。

ということで、次回はようやく判決についてレポートすることになりそうです。
ではでは今回はこの辺で。

宇佐美 典也   作家、エネルギーコンサルタント、アゴラ研究所フェロー
1981年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年9月に退職後は再生可能エネルギー分野や地域活性化分野のコンサルティングを展開する傍ら、執筆活動中。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、』『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界』 (新潮新書)など。

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宇佐美 典也
作家、エネルギーコンサルタント、アゴラ研究所フェロー

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