ゴーン海外逃亡:レバノン政府などの関与はあるか?

2019年12月31日 21:30

カルロス・ゴーン被告のレバノン逃亡だが、日本人が騒ぐほどの大事件ではないし、日本政府の面子丸つぶれと大騒ぎするのはやり過ぎだ。どうして逃亡に成功したかだが、やはりレバノン政府かその関係者が何らかの形で関わっている可能性も高いと思う。

日産サイト、Wikipediaより

どうして出国したかは、定期便かプライベートジェットかだが、定期便だと偽造パスポートかなりすまししかあるまい。しかし、偽造パスポートでの出国は誰かがそのパスポートで入国しなければならないはずだし、失敗の確率も相当に高い。

楽器のケースにいれてというのは、例えばコントラバスとかでも普通は荷物室だから凍え死にしかねない。ファーストクラスで2席分買ってというのもありうるが、荷物検査もないわけでもない。

そうなると、たとえば、外交旅券とかを使うとか言うことも考えられないわけではない。また、自家用機などの場合には、かなりチェックがゆるいので、たとえば、沖縄などから香港あたりを経由はありうるだろう。自家用機で入国するときはかなり厳しいが、出国については、それほど厳しく荷物のチェックをしない空港もあるようだ。なにしろ、荷物検査はテロ防止が主眼だからだ。

(なお毎日新聞が本稿を出す直前にレバノンの放送局の報道を元に配信した話では、クリスマスディナーのための音楽隊を装った一団がゴーン被告の東京都内の自宅に入り、楽器の保管ケースを隠して地方空港から出国したという)。

いずれにしろ、自家用ジェットはいくらでもあるし、漁船でも海外へは行けるから完全に封じ込めるのは無理だが、ただ、中国並みに、真剣に指紋や虹彩認証は出入国のときにするべきだと私は思っている。

外交問題の行方は?フランスの関与はあったのか?

さて、今後の外交交渉だが、日本がいくら引き渡しを主張しても、レバノン政府が引き渡しに応じることはあまり考えられない。日本人がたとえば中国で刑事事件の被告になって逃げてきたときに引き渡すはずもなかろう。

あるいは、アメリカから不法に自分の子どもを連れ帰ったようなときに、子どもを引き渡すかどうかは問題だが、連れ帰った母親を誘拐で裁くから引き渡せと言われても普通はしない。

また、大使館が関与していた場合だと、たとえば、関係の外交官を国外追放するとかはありえる。しかし、テロ対策などで過去においても未来においてもレバノン政府の協力を得たり今後も当てにすることもあるわけで、それを犠牲にしてまで日本政府が踏み切るかどうかは疑問だ。

それに12月20日には、鈴木馨祐外務副大臣がレバノンを訪問して政府要人と会談しているが、このときにどのような話し合いがあったかも注目だ。もしかすると、そのときのやりとりが今回の事件の伏線にあるかもしれない。

さらに、即位礼正殿の儀に際してフランスからはサルコジ元大統領が政府代表として参加した。このとき、ゴーンはサルコジとフランス大使館で長時間会談している。

もしかすると、ゴーンの国外逃亡にフランス政府が強く関与しなくても知恵を出したくらいのことはありうる。ちなみに、サルコジ氏は最近はマクロン大統領と蜜月らしい。自国民救出のためにフランス政府が知恵を出したことはありうるが、それは永久に外へは出ない性質のモノだ。たとえば、日本人の中国からの脱出に日本政府が協力してもそれを外で語ることはない。

裁判の長期化への懸念

それから、今回の件で弘中弁護士が面子を潰されたという話が多い。この背景には、カルロス・ゴーンは記者会見をしたいなどといっていたのに、弘中弁護士が反対するなど対処方針の意見の相違もあったのではないか。

写真AC、Wikipedia:編集部

弘中氏は少しでも無罪の可能性を大きくするべくするのが自分の仕事だと思っているし、そのためには、裁判官の心証を逆なでなどしたくない。しかし、そういう対処方法は日本独特ではないか。

そんなことをFacebookに書いたら深田萌絵さんが自分もそう思うとコメントしていた。弘中弁護士は被告のためにそういうアドバイスしたのだろうが、外国人には分かりにくいだろうし、ゴーンも弘中さんにまかしておいて5年も10年もして結果が良くても、失うものが多すぎると思ったとしても愚かな判断とは言えない。

そもそも、私はこれは冤罪事件だと思うし、日本の司法制度の問題点がいろんな意味で露呈した事件でもあった。

そうしたなかで、ゴーン被告は国際的な常識ではゆるされそうもない、人質司法の犠牲となった。長期間、逮捕勾留され、弁護士の同席もない取り調べを受け、やっと、国際的な非難が高まって保釈されたが、夫人と会うなとか、自分の無実を晴らすための努力をすることをすべて封じる条件を付けられた。

しかも、裁判の長期化が予想され、たとえ無実が晴らされても実業家としての復活は難しそうだった。そうしたなかで、レバノン政府は積極的に日本政府に働きかけてきたし、フランス政府もそれなりに懸念は伝えていたようである。

今回の逃亡は当事者に「好都合」

ただし、フランスとしてみると、日産の経営から不正にルノーを追い出そうとするようなことは困るが、もともと、マクロン大統領とゴーンは対立関係にあったのだし、ルノーの経営においても、スナール会長が経営権を掌握し、ゴーンに近かったボロレ社長は追い出されている。

日産においても、西川社長からルノーに近いと言われる内田新社長に代わったわけで、ゴーン氏の影響力は清算したい立場だ。

そういうなかで、今回のゴーン逃亡は誰にもにとって「好都合」ではある。ゴーン裁判でさまざまな裏の事情が明らかにされることは、誰にとってもいい話ではない。裁判でゴーンが無罪になっては、検察も困るし、かといって、世界標準から離れた日本の司法の言い分が通ってもこれまたいいことは誰にとってもない。

そういう意味では、ゴーン氏の逃亡によって、裁判が中断されることは、日産にとっても、日本政府にとっても、検察にとっても悪い話ではない。また、フランス政府にとっては、フランス国籍も保持するゴーンが日本の人質司法の犠牲になっている現状をなんとかしろという圧力から逃れられるし、レバノン政府も国民を保護したことになる。

裁判中の逃亡というのは、別に珍しいことでない。有名なところでは、映画監督のロマン・ポランスキー氏が暴行容疑での裁判の最中にフランスに逃亡した事件があった。

そういうときに、当然、逃げられたほうは、引き渡しを要求する。もし犯罪人引き渡し協定があれば自国民を含めてどこの国の人間でも引き渡すのが原則だが、実際に、自国民の場合は引き渡さないことも多い。まして、協定がなければ、引き渡しは普通ない。

いずれにせよ、ゴーンは保釈金は没収される。無罪を勝ち取って損害賠償を求めることもできなくなる。民事裁判でも損な立場になる。これは相当に厳しいものであってゴーンが失うものがないわけではない。

ゴーン事件という恥ずかしい陰謀劇

そもそも、カルロス・ゴーンは、ルノーと日産の両方の経営者を兼ねていたのだが、フランスではルノーが国営に近い会社だということもあって、給与も低いし、フリンジベネフィットも少なかった。

日産サイトより:編集部

日本ではフリンジベネフィットについてアメリカほどではないが、フランスよりずっと甘い。さらに、ゴーンが自分で日産における役員給与を上げていた。その結果、ゴーンにとっては日産に軸足を置いた経営をしてきたので、フランス政府は面白くない。特に、日産とルノーの関係が多分にゴーン個人のカリスマ性に依拠していた。

しかも、ゴーンがそれほど遠くないはずの引退が予想されるにもかかわらず後継者を養成していなかった。

そこで、留任を認める条件として、マクロン大統領は、持ち株会社などにより両社の関係を安定させる仕組みをつくることと、後継者を育成することを条件とした。そして、ゴーンは信頼する西川氏らに、日産にできるだけ有利なかたちで交渉するからとかいって協力を求めた。

ところが、西川氏らはあらゆる意味で独立路線をつらぬきたいというので、車内でも問題になっていた疑念のある支出などを材料に、検察や、あるいは事実か分からないが政府の一部と組んでクーデターを、検察の手を借りて実現したということである。

ゴーンの公私混同ぶりはいろいろあるが、それが会社に損害を与えたとは必ずしも言えなかった。不明朗だっただけである。しかも、西川氏らも同罪なのであるから、経営危機で引き受け手のない会社を外資に引き受けて優秀な経営者を送り込んでもらって再建ができたら、多数派の株主であるにもかかわらず、それを追い出そうという恥ずかしい陰謀でしかなかったと思う。

「もう十分にもとを取っただろう」という貸し付けと資本参加を取り違えたような意見がけっこうまじめに語られたのにはあきれた。

八幡 和郎
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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