IR疑惑:朝日と産経の狭間に見え隠れする特捜部の「危うさ」

2020年01月06日 06:00

年明けのアゴラ編集部の企画で元日の新聞一面について解説をした。

そこでは、各社がゴーン事件の第一報で横並びする中で、朝日新聞がIR疑惑の特報として、中国企業が国会議員5人に現金を配っていたと書いたメモの存在をスクープしたことを一度評価したつもりだった。

しかし、その後、他紙の報道をみていると、リーク元であろう特捜部の思惑が微妙に思え、朝日の特ダネの社会的意義をもう一度考え直し始めている。

むろん、現場記者が年末年始返上で奮戦していること自体は心より敬意を表するもので、その取材努力自体を貶めるつもりは毛頭ない。ただ、この間、専門家の先生と意見交換もするうちに、事件当初から薄々感じていた「危うさ」も気になり始めているのが偽らざる本音だ。

朝日新聞元日朝刊より

朝日の特ダネに薄々感じた「奇妙」さ

実は朝日の元日報道で不思議だったのは、100万円ずつ現金を渡した、とメモに書かれていた議員名を伏せていたことだった。一読した際には、5人の議員全員が現金受領を否定していることもあるが、政治資金規正法違反の可能性も指摘しているのであれば、なぜ名前を出さないのか、妙に「自信」がないように感じもした。

特にポイントとなるのは、5人について、特捜部が、秋元司議員の逮捕容疑と同じ「収賄」も視野に入れているのであれば、この5人にどんな権限があって、500ドットコムが何の見返りを期待したのかだった。しかし、元日の報道時点では匿名で、「IR議連の幹部ら」ということくらいしか分からない。議連は所詮カジノを作りたいという議員の集まりに過ぎず、自民党であっても、IR担当の副大臣だった秋元容疑者のように、IR政策の遂行を歪めるだけの権限があるのかも匿名では判断がつかなかった。

ぼんやりと奇妙さを感じていると、休刊日明けの3日朝刊までに報道各社は朝日の報道に追随。読売新聞も3日朝刊の一面トップで追いかけたが、読売など他社は5人の実名を報道している。これで騒ぎが大きくなり、自民党以外の他党で唯一所属議員の名前を出された維新は、音喜多君が「広報マン」としてブログで平謝りする事態になったが、5人はいずれも職務権限がない。そうなると少なくとも収賄には問うのは困難な話だ。

「知っていた」読売はなぜ報じなかったか

朝日が元日一面の特ダネでありながら名前を伏せたのは、そのあたりなのかと思いつつ、ネット民から私への指摘で気付いたのだが、読売の記事の最後にはこう書いてあるのだ(太字は筆者)。

読売新聞は昨年12月27日以降、議員側に資金提供の有無などを質問した。中村、船橋、宮崎、下地の4氏側は資金提供を否定し、岩屋氏は「何も申し上げることはない」としている。

つまり、読売新聞は遅くとも27日までにメモの存在を取材で把握している。少なくとも大晦日まで5日間もの猶予があり、議員事務所のコメントの集まり方次第では、朝日よりも早く特ダネを出せただろうし、最悪、元日に同着で報じられたことになる。ここで理論上考えられるのは、

  1. 報道することを検討した結果、職務権限がなく5人の国会議員の違法性を問うのは時期尚早と判断した
  2. 元日に特ダネで出すことも考えたが、ゴーン逃亡の初報掲載を優先して1日預かりになった

のどちらかだ。2の可能性は捨て切れないが、取材先とのやりとりや夜回り先で遭遇するといったことなどから、朝日の動きを全く察知できていなかったとは考えづらい。ましてや1年でもっとも重要な元日一面特ダネで他紙が狙って書いてくる可能性を考えると、やはり1のように判断したのではないだろうか。

ただし、出さなかった理由(職務権限の有無など)について示唆する記述は、読売の3日の記事にはない。

朝日に「意趣返し」(?)の論破をした産経の分析

ここで、朝日の記事を冷ややかにみている記事として挙げたいのが、産経新聞だ。3日深夜に電子版で配信した分析記事では、「5人はIR担当副大臣だった秋元容疑者と異なり、IRに関して職務権限がないため収賄罪に問われる可能性は低いとみられる」と記述。一方で、100万円を受け取っていて収支報告をしなかった可能性もあることから「政治資金規正法違反などに該当する恐れはありそうだ」と付け加えているが、産経は朝日にも読売にも書いていなかった、同法違反で立件する際の課題も指摘している。

規正法違反は帳簿上の規制で「形式犯」ともいわれ、修正すれば罪に問われなかったり、軽微であれば罰金刑で済んだりすることも。主体は会計責任者のため、議員本人が罪に問われることも少ない。ある検察幹部は「流れの全体像を解明する上では必要だが、処罰価値は比較的小さいのではないか」と話す。

要は結局たいしたことないという話だ。しかも検察幹部のコメントのおまけまで付けている。この幹部が特捜部の幹部であれば、朝日の元日報道の意義を否定しているようなものだ。事件の本筋から遠のき、単なるから騒ぎを起こしただけではないのか。産経記者がメモの存在を旧年中に把握していたかは不明だが、年明けから騒ぎを起こした朝日の記者に対してこの記事は「意趣返し」にもなっただろう。

Wikipedia

一方で特捜部からすると、産経のこの記事があまりクローズアップされると、永田町やマスコミの心象はよくあるまい。世間様を「から騒ぎ」で揺さぶっているように思われかねないからだ。

それでも続く特捜の「印象操作」

だからとは言わないが、5日夜になって本筋に耳目を引き戻すリーク報道が目に付く。同じ産経が今度は秋元容疑者が中国企業側に「便宜」をはかっていたとする話を打ち出してきた。

空港整備で国交省窓口紹介 秋元容疑者、中国企業に便宜か  IR汚職(産経新聞)

ただ、これもどうなのだろうか。中国企業側が構想していたIRの立地計画に空港新設があって、国交省の担当部署を紹介したことが便宜をはかった、空港新設は国交省が権限を持っている、などとストーリーを仕立てているが、そもそも中国企業側の立地計画の「現実味」がどれほどのものだったのだろうか。

IR担当の現職副大臣が、特定の業者と緊密に相談に乗って、職員を紹介するのはいかがわしく不適切そのものだが、この記事は、受領した300万円との因果関係を明確に書き切ってない

秋元容疑者と贈賄側の紺野昌彦容疑者(インスタグラムより)

これが産経の記者が曖昧な書き方をあえてしたのかもしれないが、もし仮にリークした特捜部の方が因果関係を明確に立証できる青写真を描けていないのだとすると、ただの印象操作になってしまうのではないだろうか。

秋元容疑者が中国企業から現金授受されていたことは、安全保障の観点から懸念することはすでに書いたとおりだ。

しかし一方で、収賄罪であれば、具体的な職務権限との関連がポイントだが、IR整備法(6条2-4)によれば、そもそもIR事業者を選定するのは都道府県等の役割だ。国は監督役に過ぎない。秋元容疑者の権限は都道府県まで及ぶのだろうか。

私はIRについて門外漢なので、なにか違う専門的見解があるのかもしれない。特捜部もプロとして何か強い見立てがあるのだろう。ただし、当初から権限と受け取った現金との因果関係に疑問が残るのも確かだ。

特捜部が記者クラブメディアの横並び体質を「悪用」し、注目度の高い事件でリーク報道による印象操作に走る問題は、ネット時代になって世の中にだいぶ周知されてきたが、今回の年明け以降の報道をみていると、国民の政治不信をいたずらに煽っただけにならないか懸念している。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」

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