ジャーナリズムさえ残るなら朝日新聞は潰していいはず(前編)

2020年01月13日 06:00

日本の新聞や出版業界の不況のニュースを聞かない日はないぐらいですが、じゃあどうしたらいいのか?について、「そもそもの物事の見方」を変えようという提案を書きます。あらゆる「業界関係者」にとって意味あるものになるんじゃないかと思っています。

この記事の基本的発想は、過去20〜30年日本で繰り返されてきた

「その”ギョーカイ”を必死に縮小均衡で守る結果その”産業”が滅びる

みたいなことを辞めるにはどうしたらいいか?という話です。

Wikipedia

出版・新聞業界の現状を数字で確認

新聞業界の苦境を語る記事、出版業界の苦境を語る記事、本屋さんの苦境を語る記事…など、ネットのSNSを見ていたらしょっちゅうシェアされていますね。

たとえばこの記事では、新聞の発行部数が直近一年で222万部も減ったそうで、

新聞発行部数のピークは1997年の5376万5000部だったから、21年で1386万部減ったことになる。率にして25.8%減、4分の3になったわけだ。

深刻なのは減少にまったく歯止めがかかる様子が見えないこと。222万部減という部数にしても、5.3%減という率にしても、過去20年で最大なのだ。

だそうです。

また、全国出版協会の統計によると、出版業界全体の売上高の推移は以下のグラフのようになります。

グラフを見ると、ピーク時の売上から、週刊誌・月刊誌は半分程度、書籍は6割程度の総売上高になっていることがわかります。

一方で、又引きで恐縮ですけどこのブログ(出版・読書メモランダム)によると、「出版年鑑」における出版社の数は25%程度しか減っておらず、新聞社の廃業にいたってはほとんどなかったと思われます。

つまり大枠で言うと、

・新聞購読者数はピーク時から4分の3になったが、廃刊になった新聞はほとんどない
・雑誌と書籍の総売上はピーク時から5-6割になっているが出版社数は25%減程度

ということがわかります。減り続ける売上のぶんを、「みんなで肩を寄せ合って困窮しつつ耐え忍ぶ」日本のカイシャの姿が数字から浮かんでくるようですね?

一方で、この日本印刷産業連合会のサイトを見ると、「印刷業」は売上減に応じて容赦なくバンバン従事者数が減っているし、書店の苦境は調べるまでもないという感じだったりするので、「出版社・新聞社の正社員を必死に守る結果、中小が多いと思われる”取引先”の業者さんたちは容赦なくバンバン切られていっている」…と言えるかも?

業界全体の総売上が20年ちょっとで半分になるとか、4分の3になるとかっていう変化はそうそうあることじゃないし、もしあったらその「変化への対応」は業界全体でなんとかしなくちゃなんですが、今のところ「弱い立場のところにシワ寄せして終わり」みたいになっている可能性は高いです。

「業界の危機」を叫ぶ記事に毎回全然足りていない視点は「何のためのその業界なのか?」

業界の危機!を叫ぶ記事を読んでいて毎回違和感を覚えるのは、「ギョーカイ」を守ることにしか興味がないんじゃないか?というような視点が多いことなんですね。(冒頭に引用した新聞社危機の記事はかなり良かったです)

大事なのは、

・「新聞社を守ることではなく、ジャーナリズムという機能を社会の中で守ること」
・「出版社を守ることではなく、コンテンツ産業(クリエイター)を守ること」

であるはずです。

ここ20年の日本の悪癖「”ギョーカイ”を守って”産業”が滅びる」は、たとえば出版社とか新聞社の「正社員」を守るために、印刷業や書店という弱い立場の人たちはバンバン切られていき、さらには「ジャーナリリスト」とか「コンテンツを作る人(クリエイター)」という本来その産業において一番大事な部分が真っ先に削られていく…このメカニズムによって起きるのではないでしょうか?

「ギョーカイ」を守っても、たとえばシロウト評論家みたいな時事大喜利をやってるツイッターアカウントの新聞社員の雇用がバッチリ守られる一方で、科学ジャーナリズムにしろ海外ジャーナリズムにしろ、「大真面目にその対象に向かい合ってる」存在がどんどん貧困に追いやられてしまう・・・というのが「ギョーカイ守って産業が死ぬ」日本の悪癖です。

「少年ジャンプ黄金時代」の編集者たちが最近やたら座談会をやっているのをネットで見ますけど、あの時代の人たちは「漫画家がちゃんと食っていけるようにする責任が俺たちにはある」みたいなことよく言ってますよね。無理ならさっさと諦めさせることも必要だし、何年かでガッポリ儲けてもらうことで次回作を作れる余力も生まれるはずだ・・・みたいなことをちゃんと考えてあげている感じがする。

しかし、最近は、ライターさんにしろイラストレーターさんにしろ漫画家さんにしろ、独立系ジャーナリストさんにしろ、どんどん「使い捨て」られていっている印象があります。特にコピーが容易な写真家さんとかはたまにめっちゃヒドい話を聞いたりする。

「正社員」のギョーカイ人が、「どこまでも自営業」のクリエイターやジャーナリストの事情をほとんど理解してないんじゃないか、と感じるところがある。

業界の困窮がクリエイターやジャーナリストに与える影響について

最近、ある出版社の社長さん(ウチは売れる本しか出さん!というのがモットーらしい 笑)に、担当編集さんを通じて又聞きなんでどの程度のテイストだったかはわかりませんが、

・読者は8万字〜10万字以上の文字は読めない
・読者は自分の生活が直接すぐに良くなる話以外興味ない
・その2つから絶対離れずにいるなら、最後でちょろっと世の中が良くなる話をしてもいい

って言われてですね(笑)

確かにそういう趣旨で企画を練って文章を書いてみると勉強になることも結構ありましたけど(もう原稿はできているので近いうちにお知らせできるはずです)、こういう本ばっかりしか出版社から出ないってどうなんだよ?って思いません?

そういう本ならとりあえず売りやすいってのはわかるけど、そういう本しか日本じゃ出版されません、ってなったら、長期的に見て業界の未来とか虚無ですよ虚無!

これがなぜ問題かというと、「次の世代の書き手」たちが、その「業界の事情」に必死に付き合ったようなものしか出せなくなることなんですよ。

私は出版社から本出すことが本業じゃないからいいですけど、ライターさんとかジャーナリストさんとか漫画家さんとかイラストレーターさんとかで「出版が本業」の、日本のコンテンツ産業を未来的に支えていくべき存在が、「とりあえずすぐ売りやすいものしか書くな」状態に置かれることの長期的大問題というのはかなり恐ろしい感じがします。

三ヶ月後には誰も覚えてないんじゃない?という流行に無理やり合わせなきゃ生きていけなくなる・・・みたいな。

新聞社がなくなってもいいけど、ジャーナリズムがなくなったら困る。出版社がなくなってもいいけど、コンテンツメーカーがいなくなったら困る…という発想がやはり大事なはず…なのでは?

詳しく知らないので推測ですが、これだけ世界的にファンがいるアニメ産業の現場が惨憺たる奴隷労働だっていうのも、なにか似たような構造があるような気がしてなりません、

さて後編は

  • その産業の一番大事な部分に、”真水”が行き渡る仕組みづくりを
  • お笑い業界や音楽業界の再生を参考に

といった論点を述べたいと思います。(14日掲載)

倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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倉本 圭造
経済思想家、経営コンサルタント

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