クーデター説浮上も…玉木さんは「民社党」再興をめざせ

新田 哲史

ここ1週間ほど、早川忠孝さんがアゴラでやたらに国民民主党の玉木代表を持ち上げ、立憲民主党との拙速な合併に異論を唱え続けていた。

私も概ね同意していたところだが、立て続けに投稿するあたり、永田町の空気の機微を読み取る早川さんなりに同党の緊迫する空気を意識していたのだろう。

立憲との合併協議に揺れる国民民主党は15日、両院議員懇談会などを開いて合併についての意見集約をはかるという。つまり明日が一つの山場なのだ。

国民民主党サイトより

小沢氏の不機嫌、3連休の不気味

周知のとおり、連休前の枝野・玉木党首会談で結論は出なかった。そして、産経新聞(10日)によると、参議院を中心に慎重派が根強くおり、会合は紛糾する可能性が高いという。しびれをきらした小沢一郎氏は「公党の代表なので嫌だと言って投げ出すこともいけない。もう一度、党首会談を開くなど最終の努力をすべきだ」と不機嫌そのものだ(共同通信など)。

小沢氏のコメントを報じた共同の記事は短いので読み流してしまいがちだが、政局で重要な動きがある前の週末や連休というのは水面下で何があってもおかしくはない。

古くは加藤の乱の際、週末前に森内閣打倒へ気脈を通じた野党から内閣不信任案を出すかどうかで思案し、週明けに持ち越した結果、加藤派の議員たちは選挙区に帰っている間に次々に切り崩されてしまい、乱は鎮圧された。当時、小沢氏が野党自由党党首で、週内の不信任案提出を主張したが、加藤氏が煮えきれなかったことが運命の分かれ道だった(興味ある方はウィキペディア参照)。

そして加藤の乱から20年後、今度は小沢氏が切り崩す側にいる。百戦錬磨の氏がこの連休を無為に過ごすはずはあるまい。

本人ならずとも同調して立憲との合併に前向きな議員たちを含めて、この3連休の合間に、合併に慎重な“玉木派”に携帯電話をかけて秋波を送り、あるいは“反玉木派”の合併意欲を煽るように根回しをするまたとない時間だ。両院議員懇談会で玉木代表ら執行部をどう難詰するか策謀をめぐらせてもおかしくはない。

産経記事がほのめかす「クーデター」

今週の成り行きによっては、「玉木おろし」のクーデターも考えられる。小沢発言を報じた産経を読むと、記者はその兆しをほのめかすような書き方をしている(太字は筆者)。

国民の規約には、代表解任を求められるリコール規定があり、党内で合流推進派を中心に玉木氏の辞任を求める声が今後強まる可能性もあるが、小沢氏は「現時点で辞任する、しないということを口にする必要はない。最後まで皆で合意を求めて努力することが正道だ」と述べた。

これを読んだネット民の間では小沢氏の発言にガクブルしながらクーデターの憶測も出ている。

それで国民民主党の規約もみてみた。確かに「党大会において代議員の2分の1以上の賛成がある場合には、代表はその任を解かれる」(第11条11)と書かれているが、党大会は毎年1月の定期開催か、代表が「総務会の承認を得て、必要に応じて臨時党大会を招集」(第7条6)する臨時開催になる。そして、まさに今月定期大会が19日に開催されるはずだったが、宙に浮いている(党ニュース)。

延期の理由は、表向きには「党内議論や意見集約を終えた段階での党大会開催が妥当」(参照:日刊スポーツ)としているが、もしかしたら玉木さんたち執行部は、クーデターを警戒している側面もあるのではないか。

小沢一郎事務所ツイッターより

昨年の森ゆうこ騒動で、党のガバナンスが危うくなっていることが露見したのは記憶に新しいが、そのときでも暴走する森氏の後ろ盾に小沢氏の隠然たる存在感が見え隠れしていた。

私は政治記者ではないので「玉木派VS小沢派」の情勢がいまどうなっているか詳細は知らないが、森ゆうこ騒動の時に受けた印象からすると、いまうっかり党大会を開催してしまえば、解任動議が行われて、年内の選挙も予想される衆議院議員たちを中心に「代議員の2分の1以上」を集めてしまうリスクが皆無といえるだろうか。

しかし、玉木氏が合併側に舵を切ったとしても、民意が好転する見通しは全くない。産経の1月の世論調査では、立憲、国民、社民の3党の合流について、相手先の立憲の支持層は合流賛成に39.0%、「3党が独立した政党として協力」が35.1%とほぼ拮抗するという微妙な展開だ。国民民主の支持層は半数を超えたそうだが、もともと支持率が1ポイントのようなレベルの極少数の中での話だから大勢に影響があるようには見えない。

そもそもの政党支持率も、共同の世論調査で内閣支持率は上昇。産経の調査でも内閣支持率は上がり、立憲は逆にダウンと、野党は桜を見る会等の不祥事があったにもかかわらずの体たらくなのだ。

加えて立憲側の「上から目線」態度は傍目に見ても失礼極まりない。立憲の赤松広隆・衆院副議長の「玉木は代表代行、横に置くぐらいの形で」は何様のつもりなのか。玉木さんもこんな連中にへりくだるつもりなのか。

立憲も小沢氏もこの合併の大きな目的の一つは、民主党時代から受け継ぐ巨額の資金だ。現時点でも80億程度はあるという説もある。原発政策でも水と油で、安全保障政策でも隔たりの大きい社民党の連中と一緒にやっていけるのだろうか。

民社党ルネッサンスからの政界再編準備を

玉木氏を含め、逆風の中でも衆院選の選挙区を勝ち抜いてきた中道右派の議員、そして参議院の人たちは、合併派の連中とたもとを分かつべきではないか。もめそうなら“解雇解決金”として80億のうち20億くらい小沢氏に枝野氏への手土産を渡してやってもいい。

そして産経新聞の元政治部長、“黒シャツ男”こと石橋文登さんも提唱しているように(参照:月刊Hanada 20年2月号)、党名を昔の「民社党」に変更し、中道右派政党として立ち位置を明確化する。旧同盟の企業労組もついてくる(労組依存には反対だが)。

旧民社党の旗

この選択、一見無謀のようにも思うが、自民党が議席を減らす可能性も取りざたされるだけに、選挙結果によってキャスティングボートを握る存在をめざし、むかしの新党さきがけのように「小さくても光る存在」を目指す。

そこから先、維新と組むというのもあるが、私は「玉木民社党」が自民党と連立を組んで、与党経験を積み、政策の近い宏池会と友好関係を深めてもいいのではないか。玉木さんは宏池会が輩出した大平正芳元首相と遠縁にもあたり(参照:デイリー新潮)、「血筋」も申し分ない。

ただ、そこで安住されては困るし、玉木さんも自民に吸い込まれるのは本意ではあるまい。

ポスト安倍の時代になれば、自民党とて盤石とは限らない。私はすでに政権交代論を放棄したが、それは今の枠組みの話だ。与野党を巻き込んだ大政界再編となれば、その時こそ「保守VS中道」の拮抗した政権交代ゲームに引き戻せる奇跡が起きるかもしれない。時節が到来したとき、玉木さんにはそのキープレイヤーになっていただきたいと思う。

歴史に残る政治家になるか、凡百の弱小野党党首として消えるか、次の一歩は非常に重要だ。

【訂正 11:50】両院議員懇談会を「今日」としていましたが「明日」でした。日付はそのままです。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」