MMTって何?

2020年01月15日 17:30

このごろ日本でMMT(現代貨幣理論)という理論が流行しています。これは50年ぐらい前からある話で、現代的でも貨幣理論でもないのですが、アベノミクスが手詰まりになった日本で今ごろ話題になっています。

MMTは基本的にはケインズ理論の焼き直しで、目新しい点はありませんが、おもしろいのは内生的貨幣供給説です。これはお金の流通量は資金需要で決まるので、預金の制約を受けないという説です。

たとえばA社がB銀行に口座をもっているとしましょう。B銀行がA社に1億円貸し出すとき、1億円の札束を持って行くわけではありません。B銀行のA社の口座に、万年筆で「1億円」と書いたら終わりです。

これを万年筆マネーといいます。現代では「キーボードマネー」といったほうがいいと思いますが、ここでは銀行貸し出しは、預金がなくてもできるフリーランチのように見えます。

同じように国が借金するときも、銀行が国債を買ったとき貸し出しが発生するので、税収の裏づけは必要ありません。その残高がいくら大きくなっても税収で返す必要はないので、国の借金がGDP(国内総生産)の何倍かという数字には意味がありません。

国の借金という意味では国債もお金も同じなので、日銀がいくらゼロ金利の国債を買ってお金(マネタリーベース)を増やしても何も起こりません。だから財政赤字もフリーランチになりますが、問題はこの赤字がどこまで増やせるかです。MMTは「高インフレになったら財政赤字を止める」というのですが、どうやって止めるんでしょうか?

財政赤字のフリーランチはいつまで続くのか

MMTでは金融政策は無力なので、インフレを止める方法は増税か歳出削減しかありませんが、増税には何年かかるかわかりません。MMTの想定するように機動的に増減できる歳出は失業対策の土木事業ぐらいですが、日本では意味がありません。巨額の財政赤字が出ているのは社会保障ですが、これはインフレになったら減らせるものではありません。

これまで日銀が失敗したように、ちょっとやそっとお金を増やしてもインフレにはなりませんが、MMTのいうように「政府は財政赤字を気にしないでどんどん支出を増やす」と銀行が信じると、国債を売るので値下がりします(長期金利が上がります)。

それをすべて日銀が買い取ると、お金が市中にあふれてインフレが起こります。物価が上がると国債の値打ち(実質価値)は下がるので、銀行は国債を売り、金利が上がります。それによって元利合計の財政赤字が増え、それによってインフレが雪だるま式に加速する財政インフレが起こります。

銀行の保有する国債が値下がりすると、銀行がつぶれて預金の取り付けが起こるでしょう。貸し出しは「万年筆マネー」で預金をはるかに超えることができますが、すべての預金者がいっせいに預金をおろすと預金の制約がきいてフリーランチは終わり、金融危機が起こるのです。

MMTは「自国通貨を発行できる国の財政は破綻しない」といっていますが、これは嘘です。メキシコもロシアも自国通貨を発行できますが、財政が破綻しました。日本政府の借金が増えても金利が上がらないのは、国民が政府は借金を返すと信頼しているからなのです。

MMTはこの信頼にただ乗りする理論ですが、国民が政府を信頼している限り、財政赤字を増やしても何も起こりません。しかし国民が政府を信頼しなくなると、インフレや金融危機が起こります。それを止める方法はわかりません。「もうフリーランチはない」と知った国民に、政府や金融システムへの信頼を取り戻すことはできないのです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 学術博士(慶應義塾大学)

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