広島高裁「伊方原発差止」決定は異議審で取消される

加藤 成一

広島高裁の伊方原発運転差し止め決定

広島高裁は、1月17日50キロ圏に住む住民3人が申し立てた仮処分の即時抗告審で、四国電力伊方原発3号機の運転を差し止める決定をした。近年は差し止め請求棄却の流れが大勢であっただけに衝撃的である。

伊方発電所(Wikipedia)

その理由として広島高裁は、「四国電力の地震や火山リスクに対する評価や調査は不十分」とし、安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断は誤りであると指摘した。

活断層の有無が最大の争点

本件即時抗告審の最大の争点は原発の敷地沿岸部における活断層の有無である。

四国電力側は、活断層について、「詳細な海上音波探査を行い、原発の敷地沿岸部には活断層はない」と主張していた。

しかし、広島高裁は、「十分な調査をしないまま活断層が存在しないとして、再稼働の申請をした」とし、敷地の近くに活断層の存在が否定できず、問題がないとした原子力規制委員会の判断には「過誤や欠落がある」と認定した。

「中央構造線断層帯長期評価」(第2版)とは何か

広島高裁の決定は、政府の地震本部地震調査委員会作成の「中央構造線断層帯長期評価」(第2版)における、「佐多岬半島沿岸に存在すると考えられる中央構造線を現在までのところ探査がされていないため、活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」との記載を根拠とする。

しかし、後記の通り、四国電力側は、「海上音波探査」と「海底ボーリング調査」をして、活断層の有無を調査している。

上記中央構造線断層帯とは、奈良県香芝市から伊予灘を経て愛媛県の佐田岬に達する全長360キロの断層帯であり、右横ずれを主体とし、上下方向のずれを伴うものである。地震調査委員会は、上記断層帯の状況について長期評価を行っている。

四国電力による活断層調査

四国電力側は、前記の通り、原発敷地沿岸部海底の地層の状況について、「海上音波探査」をして、活断層の不存在を確認している。海上音波探査とは、調査船により海底に向けて一定の間隔で音波を発生させ、その反射した音波を観測し、海底の地質構造を調べる方法であり、日本では活断層の分布を明らかにするために広く利用されている。

さらに、四国電力側は、上記沿岸部海底深度2000メートルの「ボーリング調査」も行い、地下構造を原因とする顕著な地震動の増幅がないことを確認し、その結果を平成30年10月19日原子力規制委員会に報告している(平成30年12月21日付け「四国電力報告書」より)。

しかし、広島高裁は、「敷地2キロ以内にある中央構造線が横ずれ断層の可能性も否定できず調査は不十分」としているが、相当ではない。

なぜなら、「調査が十分か不十分か」は優れて科学的専門的技術的知見に基づく判断であるところ、原子力規制委員会は、四国電力による「海上音波探査」や「海底ボーリング調査」の調査方法を評価し、且つ、それに基づき活断層が不存在であるとの調査結果を受け入れ承認しているからである。

これは、上記横ずれ断層の可能性をも含めて、同規制委員会において最新の科学的専門的技術的知見に基づき精査検討された結果であり、四国電力側の調査について特段の不備不完全がなかったと解するのが相当である。

伊方原発訴訟最高裁判例の見解

最高裁も、「原子炉施設の安全性に関する審査及び判断は極めて高度な最新の科学的専門的技術的知見に基づいてなされるから、それらに看過し難い過誤、欠落、不合理な点が無ければ、行政庁の判断を尊重すべきである」と判示している(四国電力伊方原発訴訟平成4年10月29日第一小法廷判決。民集46・7・1174)。

上記伊方最高裁判例に照らしても、本件広島高裁の差し止め決定は相当ではない。裁判官に対して、上記行政庁以上の「極めて高度な最新の科学的専門的技術的知見」を求めることは経験則上困難であると言えるからである。

「火山リスク」の過大評価

さらに、広島高裁は、「阿蘇カルデラ噴火が破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮すべきであり、噴出する火砕流は四国電力想定の3~5倍になり、想定は過少である」とし、原子力規制委員会の判断を不合理とする。

しかし、伊方原発は阿蘇山から130キロも離れており、且つ、現在の火山学によれば、9万年前に九州中部で発生した破局的噴火は1万年に1回の発生頻度とされている。したがって、仮に破局的噴火に至らない程度の噴火であっても、その発生頻度は極めて低い。そのうえ、火砕流が四国電力想定の3~5倍との科学的根拠が必ずしも明確ではない。

よって、広島高裁の想定は発生頻度及び被害共に「火山リスク」の過大評価であるうえに、いずれも急迫した具体的危険性ではなく「抽象的危険性」に過ぎないものであるから、本件広島高裁決定は、「保全の必要性」(民事保全法23条2項)を欠く違法な決定である。

決定は「異議審」で取り消される

以上の次第で、いずれにしても、本件広島高裁決定は相当ではなく、「異議審」で取り消される確率が極めて高い。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。