小泉大臣の育休取得:社労士から見ても“モヤモヤ”する理由

源田 裕久

小泉進次郎環境大臣を巡っては、昨年8月、首相官邸で電撃的な結婚報告を行って世間の顰蹙を買った後、戦後3番目となるスピード出世で念願の初入閣を果たしたものの、9月の国連気候行動サミットにおける「セクシー発言」ですっかり株を下げてしまった感がある。

環境省サイトより

選挙特番で無双と呼ばれる池上氏とのやり取りや東日本大震災の被災地支援を継続している姿を観て、多分にパフォーマンスが含まれているにしても「これまでの2世議員とは違うタイプだ!」と、筆者はやや盲目的に期待していた将来の総理候補であった。

すぐに持ち前の発信力でマイナスイメージを払拭するのだろうと思っていたが、いつまで経っても株価上昇の材料は出てこない。逆に高額な選挙ポスター費についての指摘やら“極めて個人的な女性関係”という醜聞にまつわる政治資金疑惑が取りざたされる始末。筆者の心中の株価は回復どころでなく、かなり額面割れしてしまっていた。

口先だけでやらないよりはいいが…

そんな状況下の育児休暇の取得表明だったためか、昨年のデキ婚発表後にポロリと漏らした時よりも世論の賛否が大きくなっているように感じた。

男性の育児休暇取得促進を図るための啓蒙的な行動という点では評価出来る。賛否両論の「否」も飲み込む覚悟で実践するのは、口先だけで何もやらない議員より余程ましだ。

ただ、育児休暇を取得するのは環境大臣どころか男性閣僚としても“史上初”という部分になんとなくモヤモヤしたものを感じてしまう。

まず残念なのは、第一子誕生後の3ケ月間に2週間程度の取得になるという期間の短さだ。パフォーマンスとしてはちょうど良いかも知れないが、副大臣や政務官らのバックアップを得て、どうせなら育休取得に「否」の人達が嫌味を口にするのも忘れるくらい長期で休んでみてはどうか? もしかしたらアンチの人達の中からも小泉大臣を見直す人が出てくる…かも知れないではないか。

国家公務員の男性育休は、原則「1カ月以上」

国家公務員の男性育休「1カ月以上」原則 政府決定(日本経済新聞)

昨年末、政府は子供が生まれた男性の国家公務員に対し、1カ月以上の育児休業・休暇の取得を促す制度を2020年度から始めることを決定した。職員の意向に基づいて上司が取得計画を作成し、あらかじめ業務の分担を見直す方針であり、この実効性を確保するため、幹部や管理職の取り組みを人事評価に反映させるという徹底ぶりだ。

「生きながら人生の墓場に入った」と心情を吐露した厚生労働省の若手職員も取得出来るようになることを心底願わずにはいられない。

国家公務員の定義?

さて、平成30年度版人事院年次報告書の目次8頁にある「公務員の種類と数」という記述には、日本国憲法第 15条で言及されている「公務員」の範疇が示されている。そこには

「国会議員」「大臣」「裁判官」はじめ…(中略)…広く国及び地方の公務に従事する者の全てを指すと解され…

と結ばれている。「日本国憲法第七十三条にいう官吏」にあたらない国会議員は国家公務員法の枠外にあるという見方もあるようだが、この報告書に基づけば小泉進次郎環境大臣は公務員ということになる。

とは言え、一般の国家公務員とは違い、国会議員は特別職であるので、勿論、国家公務員法の適用は受けない。当然に労働基準法も適用外だ。

だからと言って否定派が口にする「お金があるのだからベビーシッターを雇えば良い」とか「公務を辞任して育休に専念するか、育休を返上して公務に専念せよ」という意見には諸手を挙げて賛成できない。

出生率90万人割れ、現状打破は必要だ

2018年1月、保育園を題材にした映画上映会で赤ちゃんをあやす小泉氏(公式Facebookより)

子の養育には両親が共同で関わることが大切なのであって、家事手伝いを行うなど身体的なサポートのみならず、特に産後で体調も精神的にも万全でない母親を「ワンオペ育児」に追い込まないよう、精神的にケアすることが出来る父親の役割は大きいはずだからだ。

ついに出生数が90万人を割った現実の数字を見るにつけ、現在の少子高齢化を予見していながら、有効な対策を講じてこなかった歴代政権、国会議員には猛省を求めたいが、せめて今からでも小泉大臣のように男性の育休取得に向けた旗振り役として現状打破に力を注いで欲しいと切に願う。

「出生数86万人に急減、初の90万人割れ」2019年推計(日本経済新聞)

50代も半ばに近づきつつある筆者の同世代は、父親の世代より少しだけ柔軟に育児への参加を図ってきたと思う。しかし、基本的にはまだまだ「育児は女性が行うもの」と考える諸氏もいることだろう。オムツを換えることなどもってのほかで、諺よろしく「男子育児に入らず」という考えの人もおられるに違いない。

しかし、過日、仕事で参加した高校生との座談会であった彼ら彼女らの男女平等の意識は自分の想像よりも遥かに進んでいた。もはや昭和チックな男女の役割分担という概念はほとんど持ちあわせておらず、仕事でも家事でも出来ることを男女問わず協力してやるべきと言う考え方が主流であった。

全員が希望する人ばかりではないだろうが、時間的な制約のために「育児に参加したくても出来ない」という人がいるならば、その障害を排し、父親を育児の場に送り込むことは、決して日本の将来にとって悪いことではないだろう。

「育児休暇」と「育児休業」の違いをご存知ですか?

なお、同じような言葉なので混同されることが多いが、「育児休暇」とは企業などが任意の基準で設定・運用する「休暇」であり、「育児休業」とは育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(通称:育児・介護休業法)で定められた、子を養育する労働者が法律に基づいて取得することのできる休業のことである。

この育児休業中は、一般的には給与が不支給となるケースが多いと思われるが、雇用保険に加入している男性被保険者の場合、一定の要件を満たしていれば、出産日から育児休業を取得することができ(女性の場合は産後休業後から取得可能)、その期間中は非課税の育児休業給付が受給できる。更に社会保険の被保険者だった場合には、その期間中の社会保険料は免除(本人及び事業主の負担分すべて)されるようになっており、育児への社会的な支援体制は着実に整備されつつある。

但し、制度が整ったとしても絵に描いた餅では意味が無い。男性の育児休暇取得を促進させる要諦は、社会全体として男性の育児を支援する雰囲気の醸成づくりも非常に大切だが、加えて現実的な問題として、企業における代替の労働力をどう確保するのかも早急に検討する必要があろう。我が国を支える中小企業には、副大臣も政務官もいないのだから。

源田 裕久(げんだ ひろひさ) 社会保険労務士/産業心理カウンセラー アゴラ出版道場3期生
足利商工会議所にて労働保険事務組合の担当者として労務関連業務全般に従事。延べ500社以上の中小企業の経営相談に対応してきた。2012年に社会保険労務士試験に合格・開業。2016年に法人化して、これまで地域内外の中小企業約60社に対し、働きやすい職場環境づくりや労務対策、賢く利用すべき助成金活用のアドバイスなどを行っている。公式サイト「社会保険労務士法人パートナーズメニュー」