EU離脱で好機?安倍首相は日英同盟復活をレガシーにせよ

2020年02月02日 06:01

イギリスが1月31日をもってEUを正式に離脱した。当面は移行期間が設けられ、EU諸国との通商関係などの新たなルール作りを交渉していくが、難航も予想される。EUを離脱したとはいえ、経済のグローバル化が進んだ21世紀は、19世紀のときの「光栄ある孤立」路線でやっていけるわけもなく、経済力をどう維持するか、EUとの交渉もどう軟着陸させるか、まだまだ目を離せない。

Europe Meraki/flickr

一方で、日本としてはこの機を逃すべきではない。すでに安倍政権はTPPへの参加を呼びかけ、何度も秋波を送っているが、メイ政権からジョンソン政権に変わってから不確定要素がいささか増しているのも事実だ。

老獪なイギリスの懐にもっと飛び込め

イギリスはメイ政権時代の2018年2月、中国の総額1.4兆円規模の経済協力関係を締結。中国側の「一帯一路」構想にも協力はするものの、メイ首相は構想への署名は拒否して一線を敷いた。しかし、ジョンソン政権になってから、つい先日、自国5Gの通信網にアメリカから排除されているファーウェイ製品の参入を部分的に容認した。

このあたりはアゴラでも山田禎介さんが指摘するように、米中冷戦のご時世だからといって、イギリスが兄弟国アメリカに全て言いなりになるのではないという伝統的な老獪な外交戦略の一環のようだ。安易にアメリカ陣営に踏み込みすぎて、世界2位の経済大国中国と事を構えすぎずにオプションは増やすあたりは本領発揮といえる。

しかし、EUとの交渉が再び暗礁に乗り、経済的な悪影響が表面化すると、気まぐれなジョンソン首相がどう出るか、メイ前首相と違って読みづらい。それも日中それぞれを天秤にかけてやきもきさせ、有利な条件を引き出す狙いがあるのだろうが、安倍政権にはイギリスのTPP参加、さらにその先の軍事安全保障関係の完成度を高める努力に期待したい。究極の目標は、日英同盟の“完全”復活である。

実はすでに“復活”している日英同盟

“完全”と表記したのは、軍事のプロや詳しい読者にはおなじみだが、日英同盟は近年「事実上」復活してきた。2017年8月、メイ首相が来日した際に締結した「安全保障協力に関する日英共同宣言」では、北朝鮮の「瀬取り」などの違法な海上活動に対して警戒監視活動や共同演習や軍艦の寄港、PKO関連、サイバーセキュリティなどでの協力が盛り込まれた。

2017年8月、日英共同宣言を出した時の首脳会談(官邸サイトより)

締結の際、メイ首相が日本を「同盟国」と読んだことで、日本国内では一部メディアが「かつての日英同盟が廃棄された1923年以来、同盟の文言が復活した」などとはしゃいだが、上記リンク先の締結文の日本語訳には「同盟」という記載はない。このあたりは中国の反応もにらんだ抑制的な対応もあろう。

しかし、NHKの軍事担当の元解説委員で、いまはイギリス王立防衛安全保障研究所に転じた秋元千明氏も指摘するように、同盟を日露戦争当時のような軍事的な意味で狭くとらえるのではなく、平時から緊密な関係を結んで安全保障環境を守るということに主眼が置かれている。

自衛隊の事実上の仮想敵国はロシア、中国、北朝鮮。いずれも核保有国であり、現実問題としてそれらの国とガチンコの戦争は考えづらい。むしろ現代戦はサイバーアタックや島嶼部への工作員上陸など、「平時の中での実戦」が起きるリスクが現実的なわけだから、そのレベルで共同対処するようにしておくだけでも立派な“同盟”だ。

それに本当に日本で有事が起きて日米安保発動となれば、アメリカの同盟国であるイギリスも相応の軍事支援をするだろう。中国などを過剰に刺激せず、抑止という最大目標を達成できているのであれば、日米安保レベルの同盟という「名」をとらずとも日本としては「実」はすでに取っているかもしれない。

安倍政権にとって最大の歴史的価値あり

昨年8月G7での日英首脳会談(官邸サイト)

しかし、秋元氏は日英共同宣言について「将来の『新日英同盟』へ向けた一つのステップになるのではないか」と指摘している。以前から日英同盟復活論者の私としてはぜひ日米安保並みの同盟への昇格を強く期待したい。

もし実現すれば、尖閣を狙う中国からすれば日本列島に米軍以外にもう一つ英軍の存在があることで抑止力は高まる(と軍事の門外漢には見える)。イギリスにとっても香港の一国二制度侵害に歯止めになるメリットはある。

そして日本国内ロジックとしては、安倍政権のレガシーとして新日英同盟は最大級の政治的価値がある。国内で政争のタネになる憲法を改正せずとも抑止力を高められ、政権に何かとうるさい保守層も「あのイギリスが戻ってきてくれた」と、そのプライドをくすぐる効果もあろう。

外交的ハードルは小さくないが…

もちろんここまで書いたことは日本側のご都合主義の要素はある。実現したとしても、日本側の軍事行使に憲法上の制約が強く、片務的な性格の同盟になり、自衛隊が7つの海をまたにかける英軍にどこまで実戦協力できるか課題も多い。

そして、なによりジョンソン首相につかみどころがない(苦笑)。また、これは山田さんとも意見交換して私の考えと同じだが、意外にもアメリカは日本との同盟関係の独占を崩されそうになると、ちょっかいを出してくる可能性もある。

このように、共同宣言から完全同盟への昇格は、小さくない外交的ハードルが待ち受けるが、しかし実現できれば安倍首相は祖父・岸信介が1960年に成し遂げた日米安全保障条約の全面改定(新安保)に匹敵する以上の歴史的業績を残すことになる。

私は安倍首相の積極的支持者ではないが、憲法改正というレガシーを無理に欲するあまり、各種改革策を投げ出し、あるいは国内政治が低レベルなスキャンダル騒動で手詰まりしていくのをみるに忍びない(イギリスには失礼な話だが)。その意味でも冷静に考えても大きな政治的・軍事的メリットのある日英新同盟を実現し、次世代にバトンを渡していただきたい。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長

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