英国のファーウェイ容認の背景:EU離脱で強まる中国の存在

山田 禎介

イギリス政府が次世代通信規格「5G」について、中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)製の設備の使用を一部認めることを28日に決めたが、これを見て「イギリスはまたもや外交のばくちを打った」と感じたものだ。まるでイギリスがアメリカの強い反対を押し切って、西側世界で初の中華人民共和国(中国)を承認したあの時(中国建国1949年の翌1950年)と、相似形となる世界の環境だからだ。

英保守党HP、ファーウェイロゴより

70年前の冷戦時におけるイギリスの中国承認のときと同じように、今回のファーウェイ容認決定にアメリカから失望したとの声が出ているが、イギリスには、深い読みがあってのことだろう。

すでに米トランプ政権は、イギリスがファーウェイ製品の使用を決めた場合、アメリカと英連邦主要国の機密情報共有機関(通称ファイブアイズ)からイギリスを除外するとの強い姿勢を示しているが、これも、かの日の中国・ソ連蜜月期の冷戦初期に、イギリスが中国にすり寄ったとみた、アメリカのあわてた姿が重なる。

しかし当時は、西側でありながらあえて中国を承認した英国の“腹づもり”が、人民共和国の中国体制下においては矛盾する「英直轄植民地」香港の保全だったことに多くは気づかなかった。第2次大戦で日本軍降伏後、香港にはただちに英艦隊が入港し、植民地行政を回復する素早い行動をみせていた。

イギリスはそれから1997年の香港返還まで、老獪な外交戦略を取り続けた。実はイギリスはすでに1960年代から、英領香港(香港島と九龍半島先端)と租借地の九龍、新界を含め、植民地香港のすべてを、1997年に中国に返還する腹づもりだった。

香港島と九龍半島先端部は国際法上、清国からの割譲地。だが給水問題が最大のネックで、残る九龍半島と新界の中国返還後に、香港島と九龍半島先端部を英領で頑張っても、独立生活圏は維持できないとみて、中国に高く売りつけたのが実態だ。

英政府サイトより

ファーウェイをあえて容認するイギリスの今回の”腹づもり”は、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の、英国のインド・アジア太平洋展開に中国の存在は無視できない存在だからだ。英国のラーブ外相は下院で、安全保障やファイブアイズを危険にさらす決定はしていない、と述べたが、70年前の冷戦期の英国の西側体制からの離反行動ともいうべき、中国承認の大ばくちに比べれば軽いものだ。

西側でも大国のフランスが中国承認(1964年)と続き、中国の世界での立場は揺るぎないものになったが、それでも米英関係だけは盤石なまま続いているのがこの世界だ。ファーウェイ問題もやがて、米英関係盤石の流れに乗るだろう。

目下中国は、新型肺炎の”震源地”として、そのマイナスイメージが世界を震撼させ、大きく掲げた「一帯一路」政策にも、ボディブローがじわじわ効いてきそうな気配。一方で現状、返還後の一国二制度の歪みで揺れる香港問題は、メディア報道が新型肺炎にシフトした状態であり、多くが伝えられていないのは、中国には不幸中の幸いかもしれない。

それにしても、イギリスのEU離脱後、インド・アジア太平洋展開に中国のプレゼンスは大きい。イギリスはファーウェイ容認で、中国の新型肺炎のマイナスイメージを薄め、往時の香港返還プロセスに似た、かたちを変えたアプローチを中国に取り続けていく気配だ。