トランプの中東和平構想の帰趨 中東平定の大欲はあるか

構想の中身

米国のトランプ大統領が、1月28日に懸案の中東和平構想を発表した。2年以上前の2017年11月頃から「世紀の取引(ディール)」として喧伝されていたもので、何度も延期された末に漸く発表された内容はかなりイスラエル寄りのものだ。

イスラエルのネタニヤフ首相と共に構想を発表するトランプ大統領(ホワイトハウス公式ツイッターより)

この構想の詳細と背景は、中東ジャーナリストの川上泰徳氏の下記Yahoo!ニュース個人に的確にまとめられている。

トランプ大統領の中東和平構想の検証 新たな中東危機に火をつけるか(川上泰徳) – Y!ニュース

その概要は、二国家方式で主権を制限した上でパレスチナ国家を認める一方、イスラエルの入植地の併合を認め、聖地エルサレムをイスラエルの首都とし、パレスチナ難民の帰還権を否定しており、イスラエル側の主張を一方的に反映したもので、これまでの中東和平の前提から逸脱した異例の内容となっている。

なお、パレスチナ国家の首都は、東エルサレムの一部であり、イスラエルが建設した分離壁の外にあるアブディスに置く。その分離壁はパレスチナとイスラエルの境界となるとしている。

パレスチナ自治政府は、正式発表を待たずに受け入れ拒否と辛らつな批判を表明している。イランとトルコも発表後、同様に反発を示した。国連のグテレス事務総長は、1967年の第3次中東戦争以前の境界線に基づく国境への回帰を求める国連決議に反するとして、トランプ和平構想を認めない姿勢を示した。

一方、好意的に受け止めたのは、エジプトと、サウジアラビアを筆頭とした湾岸アラブ諸国のアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェート、オマーン等であり、トランプ構想を容認し米仲介によるパレスチナとイスラエルの直接交渉を求めるという姿勢だ。

中東平定か、ハルマゲドンか

トランプ政権の対中政策は、ある意味シンプルで明確だ。軍事力、対米黒字、一帯一路、5G、電気自動車、自動運転、デジタル人民元等で米国覇権に挑戦する中国の牙を抜いてその野望を叩き潰し、米中覇権抗争を制するというものだ。今回の新型コロナ肺炎は図らずもその後押しとなるだろう。

それに対して、トランプの中東政策は全容が見えない。シェール革命で中東の石油は不要となったものの、国際原油価格維持と中国への原油輸出を押さえその生命線を握るために、維持コストを下げながらコントロールはして置きたいという大きな戦略は読めるが、それ以下の具体策、デザインが不明だ。

イラン核合意離脱でイランの核開発の完全阻止を図るが、一方の実質的核保有国であるイスラエルに核廃棄をさせる事はほぼ不可能の中、誰が将来イランに核の傘を提供するかという問題が残る。

トランプは、IS征伐やクルド問題等の中東諸問題解決に、プーチン率いるロシアを引き込みその力を使おうとする一方、NATOに中東諸国の追加加盟を促したりもしている(NATOに中東諸国の追加加盟が必要=トランプ米大統領 ロイター 2020年1月10日)。

トランプは、今回の中東和平構想を基本的にそのまま掲げ、大統領選まではユダヤの金とキリスト教福音派の票を引っ張るつもりだろう。だが今回の構想に対するリアクションで親米中東各国での反政府デモの頻発と共に、ISを筆頭とした過激派による対米、対イスラエルテロは発火寸前とも言われている。

トランプのユダヤ好きは、選挙資金や福音派の票、ファミリービジネス上の利益が欲しいだけなのか、娘婿のクシュナーがたまたまユダヤ人だったからか、恐らくそれらが複合した理由によると思われるが、それとも語られていない別の理由も在るのかも知れない。

なお余談だが、福音派のイスラエル支持動機は、ヨハネの黙示録の成就を願い、その中の一部に来たる最後の審判の時、改宗しないユダヤ人が神の怒りの炎で焼き尽くされる際にエルサレムにユダヤの神殿が建っていると書かれているため、その実現を願うという外部から見ればかなり歪んだものだ。

話を戻すと、パレスチナを含む中東問題も、宗教問題は絡むものの大変に乱暴に言えば日本の江戸時代以前の土地争い水争いと本質は変わらない。即ち、そこに妥協の余地は有るだろうという事だ。再選後、イスラエルに大きく譲歩させて、パレスチナも渋々承諾させて「ディール!」とするつもりかどうか、またそのつもりが在ったとして実現出来るかは未知数だ。

これを含むトランプ自身が掻き回した中東政策の着地に失敗すれば、最大リスクとしては第三次世界大戦、ハルマゲドンに繋がる可能性もゼロとは言えない。

トランプとしては、米中覇権抗争勝利と合わせ、中東を平定し歴史に名前を刻みたくはあるだろう。その大欲と全体的な見取り図はあるのか、トランプの志と器が試される。