教育情報化推進法、意義と課題は?

「教育情報化推進法」成立記念シンポジウムを東京・赤坂で開催しました。先の通常国会にて成立した法律の意義と課題を政・官・産・学のラウンドテーブルで議論するものです。

2018年、政府が提出した「学校教育法」等の改正により、「デジタル教科書」が制度化されました。そして今回の法律は、自治体が推進計画を策定・実施する等の総合的な施策により、学校教育情報化が大きく進展するもう一つのエンジンです。

与野党の大臣経験者はじめ83名が参加する超党派の「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」が策定したもので、ぼくら民間アドバイザーも作業に加わって法案を作り国会提出、成立に至ったものです。

元はデジタル教科書教材協議会DiTT(現 超教育協会)が2015年6月「教育情報化推進法の制定」を提言したのが発端です。法案の策定、与野党の調整には紆余曲折がありましたが、最後は国会にて満場一致で成立しました。

「教育情報化推進法が成立しました。」
http://ichiyanakamura.blogspot.com/2019/06/blog-post_48.html

テーブル参加者は、遠藤利明衆議院議員、中川正春衆議院議員、盛山正仁衆議院議員、石橋通宏参議院議員、文部科学省髙谷浩樹課長、経済産業省浅野大介課長、総務省吉田正彦課長。超教育協会の石戸奈々子理事長とぼくがモデレーター。

法案を詰められたのが議連の盛山幹事長。法律専門家の元官僚として、省庁、法制局、与野党との調整に当たりました。目的、定義、基本理念、国の責務、推進計画、基本的施策といった内容を説明し、「これをいかに使いこなしていくかが課題」と指摘しました。

この法律の意義は何か。議連の遠藤会長(元オリンピック・パラリンピック大臣)は「知識を詰め込むだけでなく、子供の一人一人の能力を高めていくことが大切。ICT教育を英語教育・理科教育とあわせ3本の柱の一つと位置づけたい」との認識を示しました。

課題はあるのか。中川元文科大臣は2つあるという。「紙の教科書は無償だが、デジタルの教科書の負担をどう勘案していくか。そしてハードの市町村格差。地方交付税でコスト対応しているため、自治体の判断に左右される。これをどう工夫するか。」

教科書というソフトと、PCやネットワークなどのハードに関するコスト問題。デジタル教科書とICT環境を、国・自治体・家庭がどのような予算費目、どのような分担で整備するのか。これは法律が施行されても残る重要テーマです。

議連の石橋事務局長は法制化の効果を掲げます。「1.自治体間・学校格差の解消、2.財政処置と予算執行の促進、3.導入コスト低廉化。」法律の後押しで財政措置が講じやすくなり、普及促進と低廉化が進むという期待です。

さらに「真のデジタル教科書の正規化」が重要と説きます。「ひとまず紙の教科書をデジタル教科書にしたが、将来はデジタル教科書そのものが検定教科書として使えるように目指していく。ここはスタート地点だ。」

この点も重要です。デジタル教科書は紙の教科書をpdf的にデジタル化して使うことに妥協してようやく制度化されました。デジタルへの無意味な不安が大きいことを物語ります。動画やリンクなどデジタルのメリットはまだ活かせません。早く子どもたちにメリットを享受させてあげたい。

関係3省の責任者にも伺いました。
文科省の高谷課長は、学校のICT化は国際的にも遅れており、地域格差も大きい実態を改めて説明。クラウドの活用と安価な端末によってICT環境整備を進めるとの意向を示しました。さらに、先端技術・教育ビックデータの活用に取り組む旨を表明しました。

ぼくらはかつて文科省と激しいやりとりもしましたが、担当部局の変更などもあり、この制度化タイミングで大きく方針を転換、今回の法律制定にも協力的となり、クラウド、AIなどの利用にも前向きとなりました。実に頼もしい。

総務省吉田課長は地域ICTクラブなど実証事業に対する予算措置を説明しました。ただ文科省がドライブをかけているのに比べ存在感が薄まっているように見えます。実証の段階を脱して、いかに全国インフラ化していくかの展望が求められます。

経産省が産業的視点をもって、成長戦略としてEdTechに入り込んできたことが両省を刺激していると考えます。民間としても大歓迎。浅野課長は「未来の教室」の取組を説明しつつ、イノベーションを介して学校教育×民間教育×産業界×大学の動きを大きくしていく展望を示しました。

浅野課長がICTを「文房具にすべき」と強調したのにはグッときました。全員が持つ当たり前のものにしよう。行政が配らなくても、縦笛やそろばんのように、BYODで家庭が負担することだってもう視野に入る。6万円もするランドセルを買い与えるよりPCのほうがよくね?

石戸さんが「デジタル教科書を推進する運動の前身は『デジタルランドセル』だった」という述懐をしました。「教科書というインパクトがほしい」と主張する孫正義さんの「電子教科書」構想と間を取ってデジタル教科書にしたのでした。10年前のことです。

10年前、ぼくが書いたキックオフ文章が残っています。
「「デジタルランドセル」という明日2009年5月25日」
http://www.ichiya.org/jpn/NikkeiNet/nikkeinet_090525_vol58.pdf

当時もう、年間240億円でいい、PC全員配給には2000億円、財政支出の2%で済む、という計算をしています。制度措置はできたけど、予算措置はまだです。

コスト、予算が問題です。「成果やエビデンスを示しても財務省を説得できなかった」という声が相次ぎました。そうか、文科省、総務省、経産省はお呼びしたけど、財務省を呼んで突きあげなきゃいけない。財務省を呼べていないぼくたちの力不足でもあります。

今回の法制化で、「国民の合意としてここに投資をする意識を持つことが大事」との指摘がありました。同意します。「AI時代に世界最先端の教育を実現しよう」という意気込みも政官から示されました。「それは『覚悟と決意』ですね。」石戸さんがそう締めました。

議論は続きます。
改めてレポートします。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。