楽天が妥協案、公取委はどうする?楽天「送料無料」問題③

2020年02月20日 11:30

先日19日、日テレBSの「深層NEWS」に出演した。テーマは「ネット通販戦国時代!どうなる?送料無料化」である。筆者はこれまで2回に分けて楽天の送料無料問題について論考(「『送料無料』をめぐる攻防:楽天vs楽天ユニオン」「ワークマンが撤退へ:楽天「送料無料」問題②」)を執筆し、読者に問題喚起を行ってきた。

前回のアゴラ論考からこれまでの間の3週間ほどでいくつかの動きがあった。今回の番組出演を機に、直近の動きも踏まえながら多少の考察を行っていきたい。

楽天の決算説明会でプレゼンする三木谷浩史会長兼社長(コーポレートサイト決算資料動画より:編集部)

楽天市場が自社のサイトに出店する店舗に対して、3980円以上の売買については一律送料無料にするという方針を立て、それが店舗側の大反発を招き、紛糾した。その後、公正取引委員会の調査が入り、楽天側が「雲行きを心配し始めた」のか、いくつかの追加的な方針を明らかにした。2月の10日から13日ぐらいにかけての出来事である。日経新聞の記事(「楽天・三木谷氏「優越的地位の乱用でない」送料問題で」)はこう報じている(以下、三木谷氏の発言は同記事からの引用)。

楽天は13日、2019年12月期の決算説明会を東京都内で開いた。三木谷浩史会長兼社長は、ネット通販サイト「楽天市場」で一定額以上を購入すると、3月18日から送料を無料とする方針について「誤解を招く」として、送料込みという表現に改める考えを示した。4月に商用サービスを始める携帯電話事業については「わかりやすい料金設定にしたい」と語った。

「送料無料」と「送料込み」の何が違うのか。店舗側の不満は、「送料無料」ということは実質、「送料」というサービスも「込み」で商品を販売することになるが、市場の状況もあるので商売としてそんなに商品の値段を簡単には変えられない、これまでの価格を維持するために送料を自分で負担することになるのではないか、という危惧感が背景にあるのだろう。また、ものの大きさや内容によって送料は変わり得るので一律無料としてしまうのには無理があり、そのしわ寄せが店舗側にかかってくるという心配があるのかもしれない。

楽天側は、最終的に消費者が払う金額は「送料込み」なのだから、送料無料にしてその分値段をあげればいいではないか、と本気で思っていたのだろうか。「『送料無料』の方が利用者には響きがいいが、誤解のないようにする」と三木谷氏はいうが、これを妥協したのは、多少痛いところだろう。

しかし「送料込み」の値段を提示せよといっても、表示上の値段が上がるのだから、送料無料で嫌がる店舗は「送料込み」でも嫌がるだろう。「店舗で価格を調整してもらうので、優越的地位の乱用にも当たらないと考えている」と三木谷氏はいう。店舗側が「送料の押し付け」を理由には反発しているのなら、「送料込みの値段提示」でも同じ反論をすることになる。

それともやはり両者の間でコミッション(手数料)に差が付くのか?

楽天側のイクスキューズは、Amazonとの対抗上必要な対応だということ、そして消費者の便宜からすれば「送料無料」の一律化は正当化できる、というものだろう。だから、最初は強気の発言が続いていた、と筆者は考える。

しかし公正取引委員会の調査が入り、雲行きが怪しくなった。

優越的地位濫用規制のポイントは、「一方的な押し付け」の有無にある。相手にとって何らかの不利益な条件を提示したとしても一律に違反になる訳ではない、そんなことをしたら、ビジネスは成り立たない。重要なのは相手の事情を最大限配慮してギリギリの妥協案を詰められるかどうかだ。その「手続」が踏まれていれば、楽天側の行為は「濫用」とまではいえない、という環境が整うことになる。

「相手の事情を配慮」するアピールはこの規制を回避するうえで重要だ。他の報道ではこんな記事もあった(ロイター・ウェブニュース(2020年2月13日)「楽天、退店店舗に払い戻し 送料無料化めぐり」)。

インターネット通販サイト「楽天市場」を運営する楽天・・・の三木谷浩史会長兼社長は13日の決算会見で、3月中旬から予定する送料無料化の施策に関連し、送料無料の施策が原因で退店する店舗に対し、出店料を払い戻すとの方針を明らかにした。

三木谷社長は「店舗に中長期で大きな損失が出ないよう小売価格を調整するよう周知徹底しようとしている。それでも退店する店舗に、どういう補てんができるかしっかり考える」と述べた。

これは店舗というよりも公取委へのアピールだろう。「一方的ではない=濫用ではない」ことのアピールだ。この制度を使って援助してもらう店舗はどれだけいるのか。そんなことをするくらいなら、そもそもの手数料を下げてくれといいたいだろう。

しかし、この種のプラットフォーム事業の生命線は手数料である。その主導権はプラットフォーム側にあるのがビジネスの不可欠の基盤だ。ウーバーのような事業やコンビニでも同じことであろう。

さて、公取委はどうでるか。「事件化したくない」というのが本音だろう。処分すれば楽天はほぼ争ってくる。ある程度の妥協案を提示し、説明を何度も繰り返した。相手への配慮の手続は踏んでいる。優越的地位濫用規制の適用は、今では公取委の「看板事業」である。これでこけると大きな痛手になる。しかし、ほぼ社会問題化してしまったこの送料無料問題で、双方の妥協が得られないまま楽天が強行したのに公取委が何もしなければ、今度は公取委が悪くいわれる。これも嫌であろう。公取委の2月19日現在でのスタンスはこうだ(NHKニュース「楽天の“送料無料” 公取『実態見て判断』」)

楽天がネット通販サイトで一定額以上を購入した場合の送料を無料にするため、出店者に「送料込み」の料金体系にするよう求めていることについて、独占禁止法違反の疑いで調査している公正取引委員会は、不当に不利益を与える実態があるかどうかを見て判断する方針を改めて強調しました。

何とか妥協点を見出してほしい。一番そう思っているのは公取委なのかもしれない。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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