農業と福祉の連携で地域課題を解決!先進事例を追いかけた

波田 大専

農業と福祉が連携して地域課題を解決する「農福連携」の取組みについて、全国各地30か所以上の自治体や農業者・福祉事業所を訪問して得られた先進事例と今後の課題について報告させて頂きます。

1. 農福連携の効果

北海道当別町の養鶏場Farm Agricolaでは、就労継続支援A型事業所として精神障がいを持つ人たちを雇用しています。水野智大代表は、長年精神科の看護師として勤務された経験があり、「精神障がいは病院や薬で治療できるものばかりではなく、大自然に囲まれたこの養鶏場で鶏の世話をすることで元気になる人が多い」と語ります。

北海道恵庭市のグループホームこもれびの家では、認知症の入居者の方々が近隣の農家さんのもとで、タマネギの根切り作業に取り組んでいます。北海道においては農閑期である冬場に仕事がなくなってしまうことも農福連携の大きな課題の1つですが、ここでは冬も屋内で大豆の選別作業を行い、会話を楽しみながら和気あいあいと作業している様子が印象的でした。農作業を通じて、「要介護度が下がった」「失語症が改善して語彙が増えた」等、ADL(日常生活動作)の向上効果が出ているとのことでした。

大豆の選別作業の様子

このような農福連携によって得られる効果は、福祉側だけに留まりません。深刻な人手不足に悩む農業現場にとっても、こうした障がい者や高齢者の方々の活躍は大きな力となっています。

2. 成功の秘訣は「作業の細分化と単純化」

例えば、先ほどのタマネギの根切り作業は、①茎を15cm残して切り、②根は全て切り落とす作業です。通常は、この2つの作業を1人の作業者が同時に行いますが、知的・精神障がいを持つ方や認知症の方は1人ではこの2つの作業を正確にこなすことが難しい場合もあります。

タマネギの根切り作業(出典:タマネギ栽培.com)

そのような場合でも、①茎を切る係の人と、②根を切り落とす係の人とで作業を分担し、複雑な作業工程を細分化して単純化することで誰にでもできる作業となります。

「この人にはこの作業はできない」と決めつけてしまうのではなく、「この人にもできるような作業にするにはどうしたら良いか」という視点で工夫を重ねることが、農福連携の成功の秘訣であると感じました。

3. 農福連携の課題と自治体の取組み

農福連携に関心を持つ農業者と福祉事業所のマッチングは、大きな課題の1つです。通常は接点を持たない両者が自力で協力先を見つけることは容易ではなく、行政としても担当窓口が農政課と福祉課に分かれているため内部連携が難しいのが現状です。

そこで、北海道恵庭市では原田裕市長のリーダーシップのもと2016年に「恵庭市農福連携による障がい者等就労促進ネットワーク」を立ち上げ、行政主導で農業者と福祉事業所のマッチングに取り組んでいます。

恵庭市の原田裕市長を訪問(右は筆者)

また、恵庭市では取り組みの事例集や作業マニュアルを冊子やHP、動画で共有している点が印象的でした。先ほどのタマネギの根切り作業の要領等、各地に散在するノウハウを一元的に集積し、広く共有を進めることが取組み拡大に繋がるものと確信しました。

深刻な人手不足に悩む農業現場ですが、活躍を希望し力を発揮できる人たちが世の中にはまだまだ沢山いらっしゃります。こうした取り組みを更に進めるべく、制度作りや支援政策について引き続き研究に取り組んで参ります。

波田 大専(はだ だいせん)
松下政経塾第39期生。1989年生まれ。北海道大学経済学部卒業後、ホクレン農業協同組合連合会を経て松下政経塾に入塾。スマート農業や農福連携など、農業政策をテーマに現場で研究活動に取り組む。