検査が少ないから感染者増が緩やか?数学的に検証してみた --- 神 貞介

寄稿

主な関係国について、新型コロナ感染者数の片対数グラフがある。

FT.comより

感染者数の伸びが日本は緩やかと解釈するのが普通だが、検査が少ないからとする解釈もある。本当はどうなのか計算してみる。

結論を先に書くと、検査が多いか少ないかは関係ない。

素朴な計算

感染拡大期には指数関数的に増える。グラフによると、日本・シンガポールを除く諸国では毎日約3割強増えている。t=0日でy=100人になるように式で表すとほぼ以下のようになる。(「10^3」は10の3乗を表す)

y = 100×10^(0.12t)

関数電卓でt=0、t=1、t=2くらいを計算してみれば、日毎に約1.3倍になる式だと確認できる。次に常用対数logをとり z=log y とすると、

z = log y = 2 + 0.12t

zはtの一次関数であり、t=0のときz=2となる。これが、上の片対数グラフにある、諸外国(シン以外)のグラフを近似した直線である。

さて、日本も諸外国(シン以外)と同レベルで感染者が増えていると仮定してみる。本当の感染者のうちrの発見率で見つかるとしよう。

y’ = 100×10^(0.12t)×r

この式は t=0 のとき y’=100 にならないので、あとで時間をずらす。先と同様に z’=log y’ とすると、

z’ = log y’ = 2 + 0.12t + log r

最後に t=0 のとき y’=100、すなわち z’=2 となるように時間をずらす。傾き0.12はそのままのため、次の式になる。

z’ = 2 + 0.12t

よく見ると z = 2 + 0.12t と全く同じになってしまった。つまり、日本も諸外国(シン以外)と同レベルと仮定すると、発見率rが小さいとしても、同じグラフになる。言い換えると、100人からのグラフは感染者の発見率には影響されない

したがって仮定は誤りで、日本の本当の感染者数の伸びは緩やかということになる。

補足1

100人からの片対数グラフを最初に作った人は、以上のことを理解した上で作ったと思われる。関数処理に慣れていれば、グラフの意図にすぐ気づく。あるいはその分野の常識かもしれない。

補足2

上の素朴な計算では発見率rを一定とし、時間によって変化しないとした。もし時間とともにrが減少するなら結論が変わるはずと考えてみよう。

ところが、同じ仮定の下で計算してみればわかるが、rは指数関数的に急激に減少することになる。

r(t) ∝ 10^(-0.07t)

単純計算で10日間で1/5まで圧縮される。検査は次第に充実してきており、さすがにここまでのミスや不正を疑うのは無理があるだろう。

補足3

国内の感染者数の伸びが緩やかというのは過去の話。今後どうなるか私にはわからない。そういう議論は専門家に任せたい。

神 貞介 (じん ていすけ)京都大学 非常勤講師
東京大学大学院数理科学研究科博士課程を修了後、京都や大阪の大学で非常勤講師を勤める。