ロックダウンよりBCG接種の試験を

池田 信夫

きのうの小池都知事の記者会見は「ロックダウン」の宣言だという噂もあったが、結果的には中身のない話だった。そのとき専門家会議のメンバーである西浦博氏が記者会見で抗体検査に言及した。抗体検査は「感染者の全体像を把握するために必須」だとのことなので、専門家会議も早急に実施を提言してほしい。

厚労省の統計で致死率(死者/感染者)が高いように見えるのは、分母の感染者が少ないからだ。これは去年末から感染が始まって今年1月末までに免疫を獲得した(今はウイルスのない)人を見逃している可能性があるので、抗体検査をすればわかる。

ただし抗体検査では、日本の驚異的に低い死亡率の謎は解けないかもしれない。SIRモデルを使った私のシミュレーションでは、新型コロナの日本への感染が去年12月末からだったと想定しても、世界標準に従って基本再生産数2.5で計算すると、ピーク時に約3000万人が感染し、致死率1%とすると、流行が終わるまでに約110万人が死ぬ。

ところが今の日本の死者は50人程度で、このペースだと最終的にも数百人だろう。致死率を0.001%ぐらいに設定しないと、このデータは説明できない(1月末までにコロナで死んで検査されなかった人も多いはずだが)。

死亡率が低い原因はBCGか

問題は致死率ではなく、人口あたり死亡率の異常な低さ(10万人あたり0.04人)である。次のブログ記事で書いているように、死亡率の上位はBCGの義務化をやめたヨーロッパの国がほとんどで「デンマーク株」。義務化しているポルトガルの死亡率は、義務化していないスペインの1/12である。イランは義務化しているが、特殊なイラン株を使っている。

他方、死亡率の少ない国のほとんどはBCGを義務づけており、「日本株」と「ロシア株」である。今は接種を義務化していない国でも1970年から接種を始めたイタリアの死亡率が高く、1952年から始めたオーストリアの死亡率が低いなど、高齢者がBCG接種しなかった国で死亡率が高い

日本の全面的なBCG接種は1951年以降なので、70歳以上の高齢者が危険だ。最悪なのはアメリカで、コロナの免疫もない上にBCG接種も義務化したことがないので、死亡リスクは最大である。最悪の場合は全米で220万人が死亡するという英インペリアル・カレッジの報告は誇張ではない。

疫学的にはきれいな相関があり、専門家の論文でも、BCGを義務化していない高所得国の死亡率が高いという結果が出ている。

所得とコロナ死亡率(縦軸)

以上は疫学的な仮説であり、それにもとづいてドイツ・オーストラリア・オランダで試験的なBCG接種が行われている。医学的な因果関係があるかどうかは、その結果をみないとわからない。大隅典子氏の説明によれば、

BCG接種によって、免疫系の細胞である「単球」にエピジェネティックな変化が生じ、遺伝子のスイッチの入り方が変わることによって、IL-1β等、各種の「サイトカイン」の分泌が盛んになる結果として、黄熱病の発症が抑えられるとされている。

とのことだが、私にはさっぱりわからない。これについては勉強して改めて記事を書きたいが、専門家にもBCGの効果について否定的な研究は見当たらない。こういうエピジェネティックな変化は抗体ができるわけではないので、BCGの免疫が切れても続くが、抗体検査ではわからないそうだ。

日本のコロナ対策が今まで成功した最大の原因が自粛や移動制限ではなく、以上のような生物学的要因だとすれば、ロックダウンのような私権制限は有害無益である。またアメリカのリスクが大きいので、日本株のBCGを大量生産して輸出することも考えられる。専門家会議も、まず試験的なBCG接種を提言してはどうだろうか。

追記:菅官房長官は、3月30日の記者会見で「オーストラリアでBCGの臨床試験が行われることは承知している。厚労省が内容を確認している」とのべた。4月1日の会見では、医療従事者の安全確保のためのBCG接種を検討しているようだ。