オンライン診療を巡る2つの間違い

2020年04月06日 11:31

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新型コロナに対応してオンライン診療をどこまで認めるか、政府・与党で議論されている。とりわけ焦点は、初診のオンライン診療を認めるかどうかだ。

報道をみると、「初診解禁」との見出しが躍ったかと思えば、やはり違うとなったり、混乱して分かりづらい。ネット上での識者らのコメントも混乱気味だ。

要因は、根本的な間違いにある。

第一の間違いは、「初診のオンライン診療は現在禁止されている」だ。

この誤解のため、「オンライン診療、初診解禁を検討」との見出しの記事が出る。あるいは、記者は本当は正しく理解しているが、わかりやすさ優先で不正確に書いているのかもしれない。いずれにしても、世間での誤解はさらに助長される。

オンライン診療、初診解禁を検討 厚労相が表明(日本経済新聞)

(ちなみに、念のため3月31日経済財政諮問会議の議事要旨を確認したが、加藤厚生労働大臣は「初診解禁を検討」などと発言していない。)

実際には、現行ルールでも、初診は一定の場合に認められている。

オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018年3月厚生労働省)の規定は、以下のとおりだ。

  • 初診は、原則として直接の対面による診療を行うこと。
  • 例外として、患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合などにおいて、患者のために速やかにオンライン診療による診療を行う必要性が認められるときは、オンライン診療を行う必要性・有効性とそのリスクを踏まえた上で、医師の判断の下、初診であってもオンライン診療を行うことは許容され得る。

ただ、例外条項は限定的に運用されている。今回のように感染の広がる状況だからといって、「患者がすぐに適切な医療を受けられない」などと直ちに認められるわけではない。現場の医師からすると、場合によっては医師法違反に問われる可能性もあるので、「許容され得る」と書いてあるからといって、独自判断で軽々には動けない。そこで、どういったケースで認められるのか明確に示すことが必要だ。今なされているのは、その議論だ。

議論状況は、厚労省検討会の直近資料(4月2日)をみると、

  • 「過去に受診したことのある医療機関で、(新たな症状で)初診のオンライン診療」は、上記の例外要件を満たすとして、広く認められる方向
  • 一方、「過去に受診したことのない医療機関で、初診のオンライン診療」がどこまで認められるかが焦点だ。

第9回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚生労働省)

両者を区別するのは、「過去に受診したことのない医療機関」の場合、基礎疾患などが把握されておらず、見落としリスクが高いためだ。

ただ、現状では、オンライン診療に対応している医療機関はごく限られている(参照:「全国オンライン診療実施医療機関リスト」日本医療ベンチャー協会)。

全国10万の医療機関のうち、リスト掲載されているのは1200程度(ほかにもあるようだが)。多くの国民にとって、かかりつけ医療機関がたまたまオンライン対応している可能性は低い。「過去に受診したことのない医療機関で…」が認められなければ、結局、「通院控え」か「通院」かを選ぶことになり、前者は患者の健康リスク、後者は院内感染リスクにつながりかねない。後者は、医療関係者にとってのリスクでもある。

この先の議論では、複数のリスクを考えあわせて、どう最適な仕組みを作るかがチェックポイントだ。

「初診を認めるか否か」といった単純な争点設定はわかりやすいが、それだけでは議論を見誤る。

第二の間違いは、「医師会がオンライン診療に反対するのは、中小・零細医療機関などの利権を守っているだけ」だ。

この種の議論で、「利権」「既得権」「抵抗勢力」などとレッテルを張って切り捨てるのはわかりやすい。世間受けもしやすい。しかし、本件で医師会などの指摘する「オンラインでは触覚・臭覚を使えず、見落としリスクがある」は、そのとおりだ。もっともな理由のあることを軽視してはいけない。

オンラインで初診、日医会長「五感使えず不安」(日本経済新聞)

もちろん医師会は、定款上も明記されるとおり、「医道の高揚」とともに「医業経営の安定」も担う団体だ。もっともな理由のある一方で、「医療機関を守る」視点が紛れている可能性は、常に頭においておく必要がある。

規制改革の議論ではしばしば、改革側は「改革に反対する業界は利権を守っているだけ」と主張し、反対側は「素人が安全性などをわきまえず、乱暴な議論をしている」と主張する。同じ議論を全く違う構図で描いて発信しがちだ。どちらも、わかりやすいが完全な事実ではない。

私自身、長らく前者側の一員だったので、強く自戒を込めて言うのだが、こうした分断が正しい結論をもたらすかは疑わしい。正しい結論は、世間が正しく監視することから生まれる。より公正に、正しく議論を伝えていくことを心掛けたいと思う。

とりわけ、今回のオンライン診療の問題は、緊急事態における国民の命がかかっている。無用な批判や敵視の暇はない。一刻も早く最善の結論を出さないといけない。

(文責:原英史。この記事は、オンラインサロン「情報検証研究所β版」内での意見交換も経て、筆者の責任で公開するものです。)

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原 英史
政策工房 代表取締役社長

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