朝日電子版の英断?新聞はコロナ経営危機を乗り越えられるか

新田 哲史

新型コロナ対策で初の緊急事態宣言は、歴史的な恐慌の幕開けともいえる。宣言発令当日(4/7)の朝日新聞朝刊に掲載された閣僚の匿名発言を引き合いにすれば、「経済がとんでもないことになる。ガタガタになる」。

販売店を直撃するコロナ禍

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しかし、コロナ恐慌の動きを他人事のように報じている新聞社の足元もまさに「ガタガタ」になっている。緊急事態宣言入りする前にも、古い付き合いの、新聞各社の現役社員たちからリアルな苦境は耳にしていたが、そもそもコロナ問題が起きる前から部数の落ち込みはひどかった。

新聞協会が公表した2019年の総発行部数は約3781万部。18年が約3990万、17年が約4212万部だったから、この2年間だけでも約460万部もの落ち込み。地方紙の発行部数が何社分も消えたことになる。

さらに、2020年1月時点でのABC協会レポートによれば、読売・朝日・毎日3紙は合わせて前年同月比で100万部程の減少幅だったようだ。

1点だけ留保すると、ABCレポートはいわゆる押し紙(読者に届けられない販売店仕入れ分)を含んでいると長年指摘されている。近年は押し紙を減らしコストダウンを計る動きもあって、数字上のスリム化に表れてきたという見方も言えるが、それでも非常に厳しいことに変わりはない。コロナ問題は感染への懸念から、リアルに足場のあるビジネスの体力を次々と奪っているが、新聞販売の最前線にいる販売店の営業もますます苦境に立たせるだろう。

起死回生のオリンピックバブルも消えた

Prachatai/flickr

販売部数落ち込みもさることながら、広告収入の打撃はさらに計り知れない。電通が3月に発表した「2019年 日本の広告費」は、ネット広告費がついにテレビ広告費を追い抜いて“チャンピオン”になったことが話題になったが、19年の新聞広告費は4547億円。18年が4784億円、17年が5147億円だったから、こちらも2年間で10%超の減少だった。

そこへきて、新聞社にとって「起死回生」とも「究極の延命策」とも目されていた東京オリンピック・パラリンピックの広告市場が、大会延期で吹っ飛んでしまった。

さすがにコロナも来年夏までには終息して大会はできると信じたいが、治療法が確立されてない現段階では開催できるか予断は許さない。仮になんとか来夏に大会が実施できたとしても、このコロナ恐慌で、広告を出稿する企業は4月以降、宣伝広告予算を大幅に絞り込んでくることは避けられない。

新聞業界は昨年10月の消費増税の際に、軽減税率適用を勝ち取ったことで安堵したのも束の間。「オリンピックで“上り坂”とまではいかなくても“下り坂”の傾斜は緩んでくれたら」と思っていた矢先、コロナで“魔坂(まさか)”がやってきてしまった、という心境ではないだろうか。

朝日新聞が当面電子版を原則無料に

そうしたなかで、朝日新聞がおととい(4/7)、緊急事態宣言発令を受けて、朝日新聞デジタルの会員向けにクローズしている記事の大部分を、無料公開することに踏み切って、メディア関係者の注目を集めている。

新型コロナウイルス感染拡大への対応で記事を原則無料で公開いたします – 総合ガイド:朝日新聞デジタル 

欧米の新聞社ではすでに、有料版で日頃運営しているサイトも、新型コロナウイルスの関連記事については公益性を鑑み、無料開放する動きが相次いでいたことから、日本の新聞社も同様に対応すべきとの声が上がっていた。

日本の新聞社すべての動きを確認できたわけではないが、日経は3月初旬に電子版のコロナ関連の一部記事を無料開放。朝日はさらにこれを広げた格好だ。ただし、これを「英断」とまで評価してよいかは見方が別れよう。

というのも、日本の新聞経営は世界的に見ても公的に厚遇されている。出版業界と共に再販制度(再販売価格維持制度)の独禁法の適用を例外的に認められ、価格競争を免れるなど経営的に保護されてきた。払い下げられた国有地に本社を立てた社も複数ある。そして先述したように、昨年は宅配の日刊紙については軽減税率が適用された。

新聞に「ノブレス・オブリージュ」はあるか?

そういうVIP待遇、最近のネットスラング風にいえば「上級企業」として長らく扱われてきたのは、新聞業界の言葉を借りれば「報道・言論により民主主義を支え、国民に知識・教養を広く伝える公共財としての新聞の役割」(2019年10月 新聞協会コメント)があったからのはずだ。

そうなると、新型コロナ危機は戦後の民主主義体制下で直面した最大級の国難であることに違いはないのだから、「ノブレス・オブリージュ」の観点からすれば、朝日新聞が有料記事の無料公開をしたのは「英断どころか当然」と言われるかもしれない。

せめて、新聞協会加盟社サイトの有料記事では、全社一致して、新型コロナウイルス関連のコンテンツに関しては原則無料とするくらいでないと、優遇策との釣り合いが取れないと思う読者(というより納税者)も増えるばかりだろう。

いずれにせよ、各社に先駆けて無料公開に踏み切った朝日新聞の経営判断自体は、筆者は支持したい。しかし一方で朝日の発表文には気になる文言もある(以下、太字は筆者)。

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常々、朝日新聞の論調やミスリード記事に身悶え、ストレスを加重している身としては、家に閉じこもり生活にあって健康悪化になったりしないか少し心配している。