アフター(ウィズ)コロナと日本の戦略②世界はこう変わる

朝比奈 一郎

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2.コロナで世界はこう変わる

1)国内外の格差拡大/米中対立の激化

コロナ禍下でのオンライン教育の普及で明らかになったことの一つは、少なくとも短期的には教育格差がますます拡大するということだ。確かに、WiFi環境が充実していてパソコンも複数台持っている家庭の子どもは、学校が休校である中でも、無料・有料の様々なオンライン教育コンテンツを自由に活用できる。ただ、例えば容量も時間も制限されているスマホしか持たない片親の家庭の子どもはそうはいかない。これでは、格差は拡大の一途だ。

そしてもちろん、米国をはじめ、各国で失業が激増する中、コロナ禍下で業績を伸ばすネット系の企業に勤める優秀なエンジニアなどとの所得・生活格差が激増することは言うまでもない。今後、国内での各種の格差拡大が起こり、特に不満を持つ層の矛先を海外に向ける動きが、米国をはじめ、各国で盛り上がる可能性が高いのではないか。そして、そのことが、更に国家間対立を深めることになる。

Gage Skidmore / flickr、Wikipedia

しかも、これが一種のイデオロギー的対立につながると、なおさらやっかいだ。既に、ハラリ氏などがその危険性を指摘しているが、感染症拡大を防ぐべく「国民の安心・安全」を旗印に、国民のバイタルデータを全て管理・監視する方向に進む権威主義的・一党独裁的国家(たとえば中国にその可能性が指摘されている)と、民主主義の大切さを標榜し続ける国家(たとえばアメリカ)との対立は、コロナ禍の責任問題から、貿易問題に至るまで益々激化していきかねない。

2)テクノロジー導入の飛躍的促進

既に、わが国では、コロナ対策で多くの企業等がテレワークを導入し、院内感染等を防ぐためのオンライン診療も進み、そして先述のとおり、オンライン教育も拡大している。保守的な国民性とも言われる日本ですらこの状況であるが、欧米や中国をはじめ、各国のコロナ禍下でのテクノロジー導入は、かなり「過激」だとも聞く。

https://www.shutterstock.com/ja/image-vector/online-digital-learning-training-1141966067

ハラリ氏のガーディアン紙での4月20 日付の「死」の人類の受け止めについての論考を興味深く読んだが、特に「来世を大切にする宗教の教えより、現生でサイエンスを大切にする動きが既に進んでおり、その傾向は、今後ますます進む」という部分が印象的であった。アフター・コロナの時代は、不可逆的に、また、かなりのスピードで各種テクノロジーを活用したバーチャルな世界が広がっていくことであろう。

テクノロジーの導入が世界的に進むということは、即ち、世界がインターネットその他の通信手段で更に容易につながるということだ。私見では、上記のとおり、国家間の対立は深まる可能性が高いが、逆に国民間、もしかすると自治体間くらいまでは、世界は一層つながりを深める。テクノロジーの進化がオープンで分散的社会を進めて行くことになるのではないだろうか。象徴的に言えば、集住を促すコンパクトシティ化のための土木・建築投資より、現代の「土管」ともいうべき、ネット環境の整備、5Gやその先の6Gに向けた投資が官民を問わずに進んで、世界の限界集落同士がつながる方向に世界が向かう気がする。

3)幸福を求める動き(倫理的生活)

私自身、原則テレワーク勤務に入って1か月が経ったが、以前との圧倒的な変化は、通勤がなくなり、家族と過ごす時間が増えたことだ。各種のキャンセル対応なども含め、パソコンに向かって作業をしたりオンライン会議をしたりする時間は、体感ではかつてより増えているが、それでも、朝昼晩の三食を家族と一緒にとり、ほぼ毎日一時間ほどの散歩に家族と出かけ、たまには一緒に映画を見たりもして、夫婦間・子供たちとの会話も増えた。

テレワークが広がって不倫カップルが容易に会えずに困っているなどという面白おかしい報道もあるが、却って夫婦間や家族間がギクシャクしてしまっているケースも含め、家族と過ごす時間が増えているビジネスマン・ウーマンが多いことは確かであろう。コロナ禍は早く終わってほしいが、正直、家族と過ごす時間が激減する生活に戻るのは恐ろしい気もする。

このように、家族とより多くの時間を過ごすことにより、「幸せ」とは何だろう、ということを体験的に改めて感じる動きが加速しているが、同時に、コロナ禍で死や病を身近に感じざるを得ないことから、不安の裏返しとして、生の実感を求めようという動きも加速しているようにも見える。

また、オンラインでの作業が激増していることから、リアルのつながりを反動的・反射的に求める動きも盛んになっている気がする。バーチャルが発達すればするほど、人間の本性としてリアルを求めるのかもしれない。

先般、NHKにて、先述のハラリ氏、イアン・ブレマー氏、ジャック・アタリ氏の3賢人にコロナについて問う番組が放映されていたが、ハラリ氏が毎日2時間瞑想をしていること、そして、ブレマー氏が、自らも一緒に過ごしている写真を示しつつ、犬を飼うことを視聴者に勧めていたのが印象的であった。

アフター・コロナの世界では、より一層、経済的価値以上に、手触り感のある幸せ、個人や家族単位での倫理的生活を好む傾向が、社会全体として強まる気がする。

以上の新しいアフター・コロナの世界の行方を見据え、最後に、日本の進むべき道についての私論をごく簡単に述べてみようと思う。

(③に続く:3日朝掲載します)