新型コロナ感染をピークアウトさせたのは志村けんだった

池田 信夫

緊急事態宣言の延長の根拠となる専門家会議の状況分析・提言が発表された。すでに安倍首相が延長する方針を決めていたので、その結論に合わせた作文だが、あちこちで論理が破綻している。

専門家会議の資料

まず延長の基準になる感染者数だが、今回初めて発症日ベースの数字が出た。発症と確認には2週間のタイムラグがあるので、上の図のように発症日で見ると緊急事態宣言の1週間前の4月1日がピークである。その原因は何だろうか。

Instagramより

東京都については3月25日の小池知事の「重大局面」記者会見がきいた可能性もあるが、全国的に大きかったのは、志村けんの死亡である。東京女子大の調査では「新型コロナに対し、身の危険を強く現実的なものとして認識した出来事」として志村の死亡をあげた人が60%にのぼった。

緊急事態宣言の効果が出てくるのは、宣言の2週間後の4月21日だが、そこまでに新規感染者はピークから70%以上減っている。その後もペースは同じで、西浦博氏が「8割削減」で予言したような劇的な効果は出ていない(グレーの部分は未確定)。

全国の実効再生産数Rは0.7。死者6600人のドイツがR<1でロックダウンを緩和したのに、死者400人の日本が緊急事態宣言を延長するのは不可解である。その理由について専門家会議はこう述べる。

市民の行動変容が成果を上げ、全国的に新規感染者数は減少傾向にあることは確かである。しかし、未だ、かなりの数の新規感染者数を認めており、現在の水準は、データが明確に立ち上がりはじめた3 月上旬やオーバーシュートの兆候を見せ始めた3 月中旬前後の新規感染者数の水準までは下回っていない状況である。

「3月中旬の水準まで戻っていない」という基準は、4月7日の緊急事態宣言のときにはまったくなかった。そのとき安倍首相はこのままでは東京の感染者数が1ヶ月後に8万人になると予告し、その感染爆発を防ぐために「接触の8割削減」が必要だとして緊急事態宣言を発令したのだ。

「聖断」なき御前会議

専門家会議は、こうしたデータを検証することなく「現在の枠組みを維持する」という結論を出す。2月24日のピークカット戦略の図がちょっと変更され、今後の第2波に備えて「新しい生活様式に切り替えよう」と提言する。

専門家会議の資料

これはどう見ても緊急事態宣言を延長する図ではなく、「今回の感染は峠を越えたので第2波に備えよう」という図である。それとも第2波が来るまで、ずっと緊急事態宣言を続けろというのだろうか。

最初に結論が決まっていたので専門家会議は気の毒ともいえるが、せめてハイリスクの高齢者以外は自粛をやめるとか、企業の休業要請をやめるとか、自粛を段階的に縮小する出口戦略を描けなかったのか。

戦時中の御前会議は軍部の独走を止めることができなかったが、最後は昭和天皇が軍部の反対を押し切ってポツダム宣言の受諾を決めた。そういう「聖断」のできない安倍政権は、このまま果てしなく自粛や休業の消耗戦を続けるのだろうか。